想い想われ伝わらない④




「うん? 何か言った?」


愛海にとっては残念なことなのか思佑の声は愛海には届いていなかった。 思ったことが全て伝わるのかお互い分かっていない。 それに加えてどうやら口に出したことは伝わらないようだ。

愛海からの問いかけに思佑は少し顔を赤くしながら答える。


「ううん、何も。 というより今日も行く宛はないんだよね?」

「あはは、そうなんだよね」


いつも一緒に出かけるが一緒にいることに意味があるため行き先は決めていない。 それが二人にとっての当たり前でお互い不満を感じていなかった。


「ならゲーセンにでも行く?」

「行く!!」


ということで思佑の提案でゲームセンターへと向かうことになった。


「ゲーセンってあまり来ないから新鮮だなぁ」


見慣れない機械を眺めながら一通り回っていると興味深いものを発見した。


「あ、思佑くん見て! 占いだって!!」


小さな箱のような部屋に黒い布のようなものが被せられていて雰囲気はバッチリだ。 ただゲームセンターの端に追いやられているところを見るとあまり人気がないか、機体が古いかのどちらかだろう。

女子の愛海にとって占いは当たらないとしても大好きである。


「相性占い? いいね、楽しそう」


思佑もそれに乗ってくれた。 中では頭巾のようなものを被った老婆の人形が出迎える。 大きな水晶玉がモニター替わりとなっていて少々操作し辛いが、二人は生年月日を入れ占いを始めた。


「雰囲気よくて当たりそうだね」

「確かに。 これで300円なら安い気がするし」


占いの待機時間がカウントダウンされ二人の期待は最高潮に膨らむ。 しかし、結果は――――


『残念ながらお二人の今の相性は最悪です。 この状態が続くのなら今すぐに別れた方がいいでしょう』


という結果が出てしまった。 他にも各自の性格診断など色々と書かれているが、内容に呆然としてしまって全く頭に入ってこない。


「そ、そんな・・・!」


―――思佑くんとの相性は最悪だって?

―――今までこんなにも幸せな時間を堪能していたというのに!?


その結果に酷く落ち込んでいると思佑が珍しく声を荒げた。


「何だよ、この結果!? 俺たちの相性が最悪なわけないじゃんか!!」

「!?」


普段温厚な思佑が怒っている。 その光景に驚いて自然と身構えてしまった。


「たとえゲームみたいないい加減なものでも、適当な言葉で俺たちの関係が崩れたりでもしたらどうしてくれるんだッ!!」


―――思佑くん・・・!


結果に落ち込み苛立っていたのは自分だけではなかった。 そのことに嬉しく思うも大声を上げていたせいか周囲からの注目を集めてしまう。

いくら箱のような場所で占ってもらっているとはいえ、隔離されているわけではなく外から中の様子が多少なりとも見えるのだ。


「そもそもこういうゲーセンにある占いって悪い結果は出ないはずじゃッ」

「し、思佑くん行こう!!」


今にでも店員へ文句を言いに行きそうな思佑を引っ張りこの場を離れベンチへと向かった。


「・・・愛海?」

「私は気にしていないから」

「気にしてない?」

「あ、いや、気にしてはいるんだけど・・・」

「・・・ごめん。 愛海が悲しんでいるのが分かったから頭に血が上っちゃって」

「ううん、庇ってくれて凄く嬉しかった」

「うん・・・」


―――所詮ただのゲーム占いだし。

―――・・・とか思ってもショックは拭えないけどね・・・。


周囲から視線を浴びていたせいか身体が熱くなってきた。


―――喉が乾いたな・・・。

―――思佑くんとどこかに飲み物を買いに行こうかな。


そう思いキョロキョロとしていると思佑が言った。


「愛海はここで待ってて」

「え、どこへ行くの?」

「喉が渇いたでしょ? 適当に何か買ってくるよ」


そう言って思佑はこの場を離れていった。


―――・・・もしかして私が想っていることも伝わっているのかな?

―――たった今思ったことだもんね。


そう思うと急激に恥ずかしくなる。 期待を込めて思佑を見つめた。 何か飲み物を選んでいるようだがそこでもやはり声が聞こえてきた。


“愛海が好きなのは間違いなくこれだよな。 喜んでくれる顔を見られると思うとそれだけでニヤけてくる”


―――・・・思佑くんはあまり占い結果を引きずっていないみたい。

―――空気がこれ以上悪くならなくてよかった・・・。


数分後、思佑は二つの飲み物を持って愛海に渡してきた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう! ・・・って、おしるこ!?」


温かいおしるこの缶を見て驚いた。


「うん。 前、缶ジュースのおしるこが4番目くらいに好きとか言っていなかったっけ?」

「・・・あ、す、好きだよ! 大好き! 好みを分かってくれて嬉しい!」


一緒にベンチに座り休憩した。 好みを当てたからか思佑は先程のことが嘘かのように上機嫌である。 一方愛海はおしるこの缶に視線を落とした。


―――確かに好きだけど今は暑かったしおしるこの気分じゃなかったんだよね・・・。

―――私のことが分かるようになったのかなって思ったけどそれはただの勘違い・・・?

―――となると聞こえてくる思佑くんの心の声も勘違いだったりして・・・。


そう思うと途端に気分が沈んでいった。




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