機械イジリと英雄症

「……閣下」


 実の父親に対してこの呼称を使うのは初めてじゃねぇ。あの時と同じように、この件の立案も実行も母親の方なんだろうけど、カミさんの手綱握れなかったてめぇの所為だと思いやがれ。


「今日を限りに親子の縁を切らせていただきます」


 貴族らしい服装で固めた父親は、訊ねた先の上司貴族の応接間で顔を蒼褪めさせ、相手貴族はこの事態にやや顔を顰め、その子供は困惑で視線をきょろきょろと彷徨わせている。


「さようなら」


 勝手に独りでその部屋を後にする。父親が名前を呼んでくるけど、その名前を使われることも以前から不快だった、こうなった以上は反応してやる気すらない。無視して案内された道順を逆に走る。家に向かうだろうから馬車には戻れないが、お誂え向きというか、確か近くに隣にある軍事国家の大使館があった筈だ。あの国は隣国とは思えないくらいにこの国とは違う風潮だし、俺の持たされた能力的にも都合が良い。あの国に生まれたかった、と何度思ったことか。そんなことを考えながら走っていたら、馬車近くで待機していた使用人が憐れんだ視線で目礼して、俺のことを見送った。


「ありがと、じゃあな!」


 老齢の使用人だから多分、もう会うことはない。それでも語っている内に追い付かれたら目も当てられないから一言だけ叫んだ。それからは大使館まで全速力で走って敷地内に入ったところで門番に止められた。この国であってもこの国じゃない場所で、俺は大声で叫ぶ。


「貴国に亡命させていただきたい!!」


 すんでのところで間に合わなかった父親が、敷地内に入れず外で俺に泣きながら謝っている。


 もう良いよ、あの家が、貴族社会が、風潮が、もうこの国自体が俺に合わなかったんだよ。


 言ったよな、身体は女でも精神は男だって、次にやったら自害してでも逃げるって。


 この国は封建的というかそういう人に対して偏見が多くて、特に貴族の家なんか絶対に存在を許してくれない。矯正しようとする母親は執拗で、折れてやるなんて俺には出来ないから毎日のように衝突していた。そんな中でアンタが受け入れてくれても、アンタのすぐ隣に受け入れない奴がいたら、そこに俺はいられないんだよ。


「今までお世話になりました、閣下」


 本心から言えるくらいには世話になったアンタにも迷惑がかかっちまうんだよ。だから


「俺は死んだ、ってあのクソババアにも伝えてくれ」


サヨナラだ。






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 TS転生者による異能モノ。詳細未定につきこちらへ格納。

 タイトルは変わる可能性があります。

 ちなみにお相手は別系統異能者の見た目は美人のお姉さん()。

 またか、と言われたら、そういうの大好きなのでいくらでも書きます、と真顔で答えます。

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続くかも知れない話の冒頭集 ヒコサカ マヒト @domingo-d1212

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