第53話
平らな道路。緑の畑。所々に手入れされた木立が並ぶ。ぽつぽつ民家の並ぶ集落が現れては過ぎ去っていく。茶色くて穴ぼこだらけではない風景を見るのは久し振りな気がする。トラックの荷台には機関銃と迫撃砲、弾薬の詰まった木箱。それと、私達が乗っている。中隊144名と武器弾薬を載せたトラックの車列は、夕焼けに染まるのどかな大地を南に向けてひた走っていた。
中隊士官との顔合わせもそこそこに荷台に詰め込まれた私達は、定刻ぴったりにイーペルを出発した。無蓋の荷台からは風景がよく見える。障害が無ければ2時間程度で目的地に到達するはずだ。ちょうど日が沈む頃。そこから鉄道駅までは徒歩で1時間以内。野営するか市街地で宿舎を徴発するかは状況により判断するらしい。
私達は車列のちょうど中央あたりにいる。先頭車両には中隊長、最後尾にはシュメルツァー大尉が乗っていて、奇襲されても士官が全滅するようなことはない。仮に私だけ生き残って指揮を執れと言われても無理だけど。
両隣をユーリアとスザナに挟まれ、重火器がガタゴト揺れる中で地図を眺める。ちなみに積まれている武器は共和国軍のものだ。帝国軍のあまりにも速い制圧に撤収も破壊もできずに残された火器火砲の数々は、そのまま連隊の火力に編入された。リール鉄道駅に向かう私達には機関銃4丁と迫撃砲4門。それとトラック満載の爆薬弾薬が配分されている。野戦築城されたら大隊規模の敵でも攻略に苦労するだろう。そこに私の能力が加われば難攻不落。この極端な突出が承認されたのも頷ける。陽動作戦を行う第一大隊は野砲を「持っていけるだけ」持っていっていいと言われたそうだ。あの赤ら顔の大隊長のテンションは遥か宇宙まで舞い上がったことだろう。
スザナはほへーと風景を眺めているが、ユーリアは広げた地図と周囲を見比べて現在位置の把握に余念がない。相変わらず真面目だ。
「ユーリアはこの辺りは知ってるの?」
「父に連れられてリールに行ったことはあります。この辺りで最大の大学があるのと、工業の中心地ですので。父の仕事の関係で付き合いのあった方の家に泊めていただきました」
「そうなんだ。共和国語も分かるの?」
「日常会話程度であれば。リールは歴史ある大きな街です。鉄道駅は郊外にあったと記憶していますが、様変わりしているでしょうね」
地図をなぞりながら話すユーリアの表情は静かだ。戦争で自分の住んでいた街を蹂躙された経験を持つ彼女は、今何を感じているのだろうか。
「街中で戦闘になるかな」
「どうでしょう。計画通りなら我々の目標はあくまで鉄道駅と操車場です。周辺の建物をどうするかという問題はあるでしょうが、積極的に市街地まで進出するのは兵力的にも難しいのではないかと」
「そっか」
「このままなら日没前に目標地点に到着しますね。夜間行軍する必要は無さそうです」
「うん」
木箱を積み上げているとはいえ、無蓋の荷台では風をまともに受ける。さらさらと金糸のように流れるユーリアのほつれた髪が、夕日に照らされきらきら輝く。モノクロ時代の女優さんみたいに綺麗だなと、場違いなことをぼんやり思った。
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