第44話

 先行する私達を追いかけて大隊が湧き上がり、やがて追い越していく。前回もそうだが、私達が先に立つのは私の能力が本物だと示すためだ。どんなに説明されても、銃弾に直接晒される兵士にとっては簡単に納得できるものではない。目で見て初めて確信を持って行動できるようになる。一度覚悟が決まれば、後は歴戦の兵士達だ。任務のため全力で行動してくれる。

 あちこちで土煙が上がり、その度にずっしりした感触が返ってくる。台風みたいにバチバチ叩きつけられる銃弾。敵の反撃はこちらが攻勢の手順を踏んでいるぶん、前回よりも苛烈だ。それでも前進する兵士達の勢いは全く止まらず、私達が共和国側の鉄条網を越える頃には半数以上は敵陣内に突入していた。こうなると蟻の巣のような塹壕内を掃討していく流れは前回と同じ。自陣内を砲撃する訳にもいかず、敵の攻撃は散発的になる。

「さて…どうしようか?」

「どうしようか、と言われましても」

 ユーリアが困ったような顔をする。前回同様、こうなると私のやることは無い。いや防御の維持はずっとしていなければいけないのだが、それも最初の突入時がクライマックスだ。後は肌感覚で大隊の皆が広がっていくのを感じつつ、どこかで待機しているだけになる。ヤンセン中隊の時には司令部にくっついて動くことになっていたが、今回は作戦の進行に伴い居場所が変わるのでそうしなければいけないわけでもない。というか大隊長閣下はぽっと出の植民地出身者がお気に召さない様子だったので、一緒にいると気まずい。

「戦局をみて中央に移動する、というお話だったかと思いますが」

「まあ、そうなんだけどね」

 周囲を警戒するユーリアはベテラン兵の風格を漂わせている。とりあえず遮蔽用の盛り土に腰掛けると、スザナも大きな背嚢を下ろして隣に座ってきた。今回の作戦中、スザナは私の分の荷物も背負ってくれている。自分の分は自分で、と思ったのだが、帝国軍人の体格に合わせた背嚢を私が背負うとまともに走れない。さすがに作戦に支障が出そうなので「いっすよ」と言うスザナに甘えさせてもらっている。

 大隊の兵士達はほぼ突入を完了していて、遠く怒号と爆発音が響く以外はわりと静かだ。味方の砲撃もいったんは止んでいる。今頃は右翼側の突撃に合わせるために再照準している頃だろうか。順調に進めば、2時間後には次の突撃が始まるはずだ。

 振り返れば帝国側の陣地が見える。整然とした鉄条網の向こうになんとなく塹壕と機関銃陣地が見える以外は、ただ土色の地面が広がっているだけだ。敵側から見るとこんな感じなのか。ここにまだ千名以上の兵士がひしめいているなんて、知っていても信じられない。こうして座っている私のことを、向こうから誰かが見ているだろうか。

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