第10話

「それで、質問なのですが」

 お茶を受け取ったユーリアが、改めて背筋を伸ばす。

「大佐閣下からは、私達は新しい医療設備の実地検証にあたる、とだけ聞いています。具体的には、どのような任務なのでしょうか」

「あー…」

 聖女の力で皆を癒すお仕事です。

 うん、意味不明だ。なにせ私ですら未だに何をやっているのか分からないのだ。うまく説明できるわけがない。

「なんというかこう、大勢をいっぺんに治療する、というか…」

「そのような機械が開発された、と?」

「んー、機械ではなく…」

 煮え切らない返事をしている時、ドアをノックする音が聞こえた。スザナが応対に立つ。乾いた喉を潤そうとお茶を口に含むと、大佐の館で飲んでいた味がした。大佐、ずいぶんいろんなものを持ってきてくれたんだな。ありがたいけど『逃がさない』と言われているようでなんか怖い。

「中尉閣下ー、伝令です」

 スザナが戸口で私を呼んだ。スザナの口にする「閣下」はひらがなの響きというか、いかつさが無くてそれほど気にならない。呼ばれるままに向かうと、外には若い兵士が立っていた。ちびっ子が出てきたので戸惑った様子だったが、私の階級章を見るとぴしっと敬礼をしてくる。

「大佐閣下より口頭命令であります。一四三〇に野戦病院に出頭されたし、以上」

「一四三〇、野戦病院に出頭」

 敬礼を返すと、伝令は駆け足で帰っていった。腕時計は14時ちょうどを指している。お茶を飲み終えたら丁度良いくらいか。

「聞こえていたと思いますが、少ししたら野戦病院に向かいます。たぶんその、『医療設備』についても説明があると思います」

「了解しました」

 席に戻って残りのお茶を飲み干す。最後にクッキーをもう一枚。外からは、相変わらず砲撃の音が低く響いてきていた。

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