「ダイターン3」は「千載不決」

 西からやってくる飛行物体――ムラシンは長い髪をはためかせながら胸元のペンダントを掲げた。

 陽光を反射し、空を割くように光り輝くペンダント。


 すると南からの飛行物体――侵略ロボが僅かに軌道を変えた。

 どちらが主導権を握っているか、傍目でもよくわかる光景だった。


「ですが、前回も乗っていたのでは?」


 プラカスが冷静にその可能性を口にする。ところがしげるは自信満々に、


「それはないな」


 と、言い切った。当然プラカスとしては尋ねるしかない。


「それは何故です?」

「あんなプロセスが必要なら、前回も絶対披露しているはずだからだ!」


 しげるは絶好調に胡乱であった。何ならムラシンと侵略ロボに憧れを抱き始めていると言い切っても良いだろう。


「絶対……ですか」


 プラカスも日本の諺「触らぬ神に祟りなし」を実感したような面持ちで、かろうじてそれだけを口にした。シナモンスティックを取り出すあたり、動揺を隠せそうにもないようだが。


 指揮所でそんなやり取りをしている間に、いよいよムラシンと侵略ロボが合流する。それと同時に侵略ロボの胸元のエンブレムが輝き始めた。


「おお!」


 思わずしげるが喜びの声を上げる。それを許せるかどうかは難しいところだろう。


 ペンダントが放つ光はそのままムラシンの身体を包む。そしてその光は、侵略ロボの胸元のエンブレムへ吸い込まれて行った。

 さらに歓声を上げるしげる。その傍らでプラカスがシナモンスティックを咥えることも忘れて「どういう現象なのだ?」とヒンディー語で呟いていた。


 侵略ロボはそのまま演習場に着地。その姿は以前の戦いと変わりがない。要は単純にムラシンが侵略ロボに乗り込んだだけ――プラカスはその結果論に心を委ねて平穏を保とうとした。


 しかし侵略ロボはここから変化した。

 その変化とは、つまり――


「顔だ! 顔が現れた! ……こうなるとメガノイドに近いものがあるな」


 興奮して叫ぶしげるの言うように、侵略ロボの顔部分にムラシンの顔が現れたのである。もともとヘルメットを被ったような造形の頭部を持つ侵略ロボだ。ちょうどバイザーの中に顔が出現したようなものだ。


 その変化を受け止めたプラカスは独り言ちた。


「これではっきりしたことは――」

「そうだな。メガノイドとは似てるだけで、巨大化するプロセスが違う。そもそも人類の進化と謳っているが、あれは果たして進化なのか」

「――やはり前回の戦いはパイロット不在だったという事ですね」


 メガノイドからダイターン3に発送が飛んだことでいきなり胡乱度が増した、しげる。だがこれは「教養」の持ち主であるなら仕方のない事ではある。

 何しろ「教養」の持ち主は「ダイターン3」に関しては「千載不決の議」を抱え込む宿命を持ってしまうものだからだ。


 プラカスは当然それを無視する。侵略ロボ戦の状況の変化に対応することで効果的にしげるを無視することに成功したのである。

 そしてそんなプラカスの努力を無下にするように、ムラシンの顔を装備した侵略ロボは両腕を上げて叫んだ。


「ムラシンガー!!!」


 と。


 演習場は圧倒された。

 それが音量のせいなのか、あまりにもわけのわからない名乗りのせいであったのか。


「ああ、違う違う。そうじゃない。『アストロガンガー』を選んでおいて、それはないだろう! NACの悲しみが伝わってこない!」


 それでも指揮所が持ち直したのは、あろうことかしげるの妄言のせいだろう。

 

 ――付き合っていられるか!


 という怒りが、皆を正気にしたのである。そのタイミングで南から、侵略された場合の悲惨な未来予想図が報告されることになり、一気に緊張感が増す。

 そうなると必然的に、こちらも早く戦闘態勢を整えなけば、という気運が高まった。


 しかし戦術輸送機では、この場に着陸させるのは――


「構わん! 我が息子を出せ! 昭であれば何とかする!」


 しげるが突然指示を出した。それに目を向いたのはプラカスである。


「何とかって……そんな事許されるはずがない!」

「昭は許可を必要としないだろう」

「な、何を? 私は今、ミスター七津角の――」

「昭も同じ判断をしているはずだ。乗員の安全を望むなら、昭を放り出した方が良い」


 その言葉が合図だったかのように、戦術輸送機の搬入口が開かれた。同時に演習場に昭の声が響き渡る。


「出ろーーーー!!! セントーAーーーーー!!!!」


 するとその声に応えるようにセントーAの「声」が響き渡った。「声」を聞ける者たちで構成されているセントーAの運用者たちだ。一瞬呆けたようになり、次いで動き出すセントーAの姿を見送ってしまう。


 戦闘準備は始まっていたので、格納庫のシャッターは開け放たれていた。その分だけ被害は少なくて済んだ、とも言えるが巨体が出し抜けに動き出したのである。

 まったくの無傷とはいかないだろう。


 それでもセントーAは悠然と歩いてゆく。昭が乗っている時のような俊敏さはないが、その歩みには確かな力強さがあった。


「み。ミスター昭は?」


 セントーAの動きを見て、逆にプラカスは昭を連想したのだろう。それにそもそもより大きな問題を生じさせていたのは昭なのである。


 指揮所のモニターに映る戦術輸送機。その搬入口から今、昭を乗せたロマンバイクが飛び降りた。

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