あちらもこちらも計算外
何故校門なのか? それは校門に暴走族が集まり始めていると聞かされたからだ。
「『
「亞羅刃罵」であるなら南が「仕事」をしてくれたはず。この「仕事」はそばつゆの手配ではなく南の本業に関わる仕事なので、昭はある程度は安心していた。
それでも万が一があるので学校、というか文化祭に詰めていたのだが……
「いや違う。何人かしか顔はわかんらんが、あいつらは『
「グロサタ? 何でそんなのが来てる!?」
「わからん!」
「GLORY SATAN」はここよりも西を縄張りにしている、かなり大規模な暴走族だ。大きいという事は、既に昭に喧嘩を売って敗北済みという事でもある。
今更、昭にお礼参りも無いだろう。
とにかく今は急いで校門前に向かうしかない。
一瞬、サヒフォンが付いてくることに違和感を覚えた昭だったが、改めて確認するまでもなくサヒフォンは異星人。
それも浮かんだままでスイーッと付いてくるような、地球以上の技術力を誇る異星人である。危険からはもっとも遠ざかった状態と言っても良いだろう。
「サヒフォンくんを見たら大人しくなるんじゃない?」
篁がその可能性を指摘する。
昭は、口をへの字に曲げた。
「それは違うだろ。サヒフォンは――」
「お気になさらずに。僕は積極的に関わりたいと考えています」
昭の言葉を遮るようにして、サヒフォンが宣言した。昭は感じる。これもサヒフォンの言う「調査」なのだと。
「よし!
「あ、ああ」
膨れ上がる昭の闘争心に気圧された六十苅が戸惑いながら返事をする。それと同時に、四人は校舎から飛び出した。
屋台が並ぶ校門への通路に目立った変化はない。まだバイクで乗り込んできているような状況にはなっていないようだ。
いや、それよりも前に――
「な、なんか変じゃないか?」
すっかり戦う気になっていた昭を戸惑わせる現象が起こっていたのである。特攻服を着て、バイクは改造しまくり、ハンドルは絞られすぎて天を向いているというわかりやすい賊たちではあったのだが……
「そうだ。あいつら校門前に並ぶだけなんだよ。それでも迷惑には変わりないんだがな」
「っていうか、こいつら怯えてないか?」
さらに校門に近付きながら昭が訝し気な声を出す。するとそれが合図だったかのように「GLORY SATAN」の連中は一斉にエンジンに火を入れた。
昭の姿を見て目標発見ということかもしれない。
それはそれで理屈は通るのだが――少なくとも昭は「理屈が通った」と考えたのだろう。通路のアスファルトを削りながら、一気に賊たちとの間合いを詰める。
すると賊たちは算を乱し始めた。一緒になって昭を待ち受けるという風ではない。こうなると逃げ出すためにエンジンに火を入れた、という解釈も成り立つだろう。
だが前輪を浮かして昭に突進してくるものもいる。全く統制が取れていない。
共通しているのは賊たちの追い詰められた表情だけだ。
「きゃああああああああ!!」
悲鳴がこだまする。ついに校門という境界を突破したバイクが現れたのだ。そのままの勢いで昭へと突進する。
地球人が自然と体感してしまう物理法則に従えば、このままでは昭もバイクを御しきれない賊もまとめて大怪我をするだろう。
いや死んでしまう――はずだったのだが。
昭は突進してきたバイクを受け止めてしまっていた。そしてそのままバイクを持ち上げる。乗っていた賊ごと。いや、その賊は早々に振り落とされてしまっていた。
頭から落ちたので、無事では無いだろうが死ぬよりはマシなはずだ。
「逃げんなぁ!!」
そして昭は、逃げようとしていた校門の外の賊たちにバイクを投げつけた。こうなるとどっちが悪者なのかわからなくなる。そして昭も止まらない。
誰の悪運の働きであったのか、爆発などの二次被害の気配はない事が救いになるかどうか。
「そういえば俺は改造されていたんだった!!」
テンションの上がった昭は今更そんなことを思い出す。だがそれは戦いの騒音に紛れて聞き取れなかった者多数。
そして残りは聞き間違いだと判断する。昭という目の前の危機をやり過ごすので精いっぱいだからだ。
だが昭の言葉が聞こえていようが聞こえていまいが、既に勝敗は決している。いやそもそも勝ち負けなどというものがあったのか。賊たちはただ、逃げ出すことに成功した者、失敗した者に二分されただけだ。
そして失敗した者は、昭と六十苅とその仲間たちの手によって仕事を割り振られることになった。多くは散乱したバイクをどこかに片付けさせる仕事に従事させられる。昭にバイクから振り落とされた賊もここに合流した。
言ってみればそれで放免という事になるが、ここで改めて落とし前をつけさせるのも面倒だし、やはり昭の被害者という印象があるからなのだろう。加害者も被害者も概ねそれで納得している。
しかし、それで済ませるわけにはいかない者たちもいた。
この騒動に参加していた「GLORY SATAN」の顔役たちである。その中の一人、薮内は六十苅に顔を覚えられていた。
薮内は昭と六十苅に塀際に追い詰められ、泣きそうになりながら正座でうなだれている。特攻服や普段の行為を考えなければ、この状況ではやはり薮内は「被害者」という印象になってしまうだろう。
「――で、お前たちいつから『亞羅刃罵』とつるむようになった?」
しかし六十苅は容赦なく圧迫尋問を始めた。
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