二人
僕たちの生活はほとんど変わりない、平和な生活が続いていた。
村の安全はしっかりとハルが守っており、自分がこの村にやってきてから一度だけ低位の魔法生命体がやってきたのだが、彼女が何の苦労もすることなく軽く一ひねりしてみせた。
そんな中で、僕もずっと村の女性たちや子供たちに交じって皿づくりなどの作業に従事していた。
既にこの村へと住み移ってから一か月。
本当に平和な生活を送れていた。
「ごはん」
「んっ、ありがとう」
今日の仕事を終えて僕が家に帰ってくる頃には既にハルが家へと戻っており、自分が帰ってくるなりすぐに甲斐甲斐しくお世話しようとしてくる。
僕は白米の入ったお茶碗をこちらに差し出してくるハルを一旦無視し、自分が着ていた外套を脱いで家のハンガーへとかけ、その後に手を洗っていく。
「ごはん」
「ありがとう、もらうよ」
家に帰ってきてから普段やっていることを終えた僕はようやくになってハルからお茶碗を受け取り、家の床へと座りこむ。
「……」
僕はジッとハルからの視線を受けながら白米とおしんこをモグモグ食べていく。
ずっと、食べているところをハルから見られることに最初の頃は少しばかりの不快感を覚えていたものだが、今となってはもう既に慣れてしまっていた。
「ごちそうさま」
少しもすれば僕は夕食を食べ終える……のだが、少しばかりご飯は残ってしまっていた。
一か月経ってもなお、未だに食欲が前のように戻っていない今の僕はそんなにご飯を受け付けられない。
残してしまった五分の一くらいはハルに渡し、そのまま彼女が食べてくれた。
白米は彼女の口を通り、中にあるエネルギー庫へと落ちて一瞬で消滅することだろう。
「洗い物」
「ありがとう」
自分の残した物を食べ終えたハルは洗い物を行うためにいそいそと台所の方へと向かっていく。
「……」
そんな、ハルの様子を僕は静かに眺める。
「……僕は、これでいいのだろうか」
そして、そのまま小さく独り言を一つ。
「……」
本当に平和な生活だ。
それでも、それでも僕は現状に対するしこり。
このまま、平和な生活だけを送っていて良いのか、という疑問。
共に夢を語り、そして、自分の前で死んでいったニーナの夢を語る言葉は僕の頭の中からずっと離れていかなかった。
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