【100PV突破!】平凡な僕と特別な君はゲームの中で

てらてら

邂逅

「あー、帰ってゲームしてぇ」


そこには、窓辺の椅子に腰掛け、頬杖をついている青年がいた。


「奏也ー!そろそろだぞー!」


物思いに耽っていた青年だったが、その彼の声によって青年は我に返った。

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もうそんなに時間が経っていたのか。気づくと時計は8時30分を指していた。もう教室には、自分とその声の主である真昼の姿しかなかった。そろそろ体育館で新学年の始業式がはじまるころだった。


「ごめんごめん、ちょっとだけまってて」

「10秒だけだぞー」


そう言いながら今日持ってきた、自分のカバンの中をガサゴソと漁り体育館用のシューズを取り出して、廊下にいる真昼の元に駆けていく。


「あと何分?」


一緒に体育館に向かいながら、真昼が言う。


「だいたい3分ってところかな」


二人とも少し狼狽えた後、そこから先の会話はなかった。ただお互いにその意図は

十分に伝わっていただろう。三段飛ばしで階段を下りていき全力とも言っても差し支えないスピードで体育館へ向かう。


なんとか一分くらいの猶予を残して体育館に着いた。時間には間に合っているはずなのに

周りからの刺されるような視線が気になって足早に人ごみに紛れた。もう誰も見ていない

はずなのに妙に体がむず痒くなった。


出席番号は「舞元」で後ろのほうだったので、「あ」から始まる真昼とは早々に分かれた。小さくに手を振って、自分の席に着くと右から、聞きなれた声が聞こえてきた。


「汗すごいね、大丈夫?」


といっても、自分は彼女と仲がいいわけでもないし、そもそも話したことすらない。

なぜ彼女の声を聞きなれているのかと言ったら、それは彼女があまりにも人気だからだろう。


"美竹 菜奈"


それが彼女の名前だ。容姿端麗、品行方正、成績優秀、文武両道、才色兼備。

彼女を褒めろと言われたら、おそらく、この体育館にいる全員がここら辺の四字熟語を思い浮かべるだろう。そう、彼女はまごうことなき完璧人間なのだ。


一年生の頃は別々のクラスだったので、特段話すこともなかったが、今年は違う。同じクラス。しかも、自分の出席番号の1つ後ろ。嬉しいような嬉しくないような複雑な感情になった。


「大丈夫大丈夫。こんなの日常茶飯事だから。」


肩で息をしながら、自分でも訳のわからないことを言ったと思う。


「でも、汗すごいよ?ハンカチ貸そうか?」


さすがに気が引けた。初対面の女子に、しかも相手はこの学校で一番の人気者といっても過言ではないあの美竹さん。そんな人からハンカチを借りて、それで汗を拭いたなんて話が広まったら、後でどんな後ろ指をさされるかわからない。現に、その会話を盗み聞き(実際には意図せず耳に入ってきただけだと思うのだが)していた男女問わずの数名から睨みつけられているような気がした。


「いや、大丈夫」


彼女からすれば、多くのうちの一人の一般生徒に対する気遣いだったのだろう。これも、

かの完璧人間である美竹さんの一端に過ぎない。しかし、後からのことを危惧して、とりあえず無難に断っておいた。

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始業式が始まって、校長先生からの挨拶、新任の先生の紹介、各部活の成績発表など次々にプログラムが進んでいった。一時間も経ったころだろうか。


「最後に、校歌斉唱を行います。一同、起立!」


プログラムの進行役であろう先生がそう言った。皆一斉に、まるで量産されたロボットのように席を立つ。高校に入学した時も一年生の終業式の時も、真面目に校歌斉唱している生徒なんていなかった。きっと今回もそうなのだろう。


伴奏に立候補したであろう生徒が壇上に登り、ピアノの椅子に腰かける。演奏が始まり、本来なら歌が始まっているはずなのに、沈黙ともとれるような時間が始まった。誰も、自分が声を出してみんなを引き連れようなんて勇気はないのだ。正直、ものすごく気まずい時間だった。


ふと横を見てみると、美竹さんがかすかな声ではあるものの校歌を歌っていた。とても小さい声なのに、透き通っていて、ちょうど隣に立っている俺にしか聞こえないほどの声だった。ほかの生徒と何ら変わりない姿勢なのになぜか目を奪われる。陳腐な言い方をするのなら、これがオーラというやつなのだろう。ほかの生徒とは明らかに何かが違う「特別」な存在。言い換えれば、ゲームの主人公。だけど、彼女にすらここで声を出す勇気はないのだと知って、少し安心感と親近感を覚えた。美竹さんはこちらに気づいたようで、急いで目を逸らした。心臓の鼓動が早くなったような気がして、気を紛らわそうと少し歌った。


校歌斉唱が終わり、進行役の先生が順に解散を命じる。さっきのことに少し緊張してしまっていた俺は、急いで真昼の元に駆けよっていった。


「あいかわらず長かったなー始業式。足しびれたー」


教室までの帰り道、痺れた足を揉みながら真昼が言う。


「てか、さっき気づいたんだけどさ、お前美竹さんの前の席じゃん。いいなぁ」

「え?あ、うん」


自分もあまり考えたことはなかった。学校一の人気者と席が近くなるというのは、どういうものなんだろう。ポジティブな面で考えれば話す機会が増えてラッキー!

あわよくば友達になりたいなーと考えたりするが、逆の面で考えれば、ほかの生徒から


「なんで美竹さんの近くにあんなボンクラ野郎が」


と思われるに違いない。ネガティブな方向に考えると止まらなくなってしまうので、そこで考えるのをやめた。ポジティブ思考に切り替え、新しい学年に少しワクワクしながら教室に戻った。

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第一話を読んでくださり、ありがとうございます!はじめまして!てらてらと申します!

自分自身が高校生でゲームが好きなので、こんなストーリーがあったらいいなーという気持ちで書かせていただきました。執筆ははじめてでまだまだ成長の余地があると思っておりますので、作品ともども温かい目で見てくださると嬉しいです!

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