学園一の美少女の裏側はドMな正癖を持っていた
ゆきたん
第1章 陰キャの高校生活が青春に染まる
第1話 オタクで陰キャが絶世の美少女と!
本当にごめんね。私、止められない。
私の進む道を示してくれて感謝してる。あなたのような素敵な彼と幸せな毎日は本当に楽しいよ。未来を見据えた考えも、私のためにしてくれた行動も全て尊敬できる素敵な人。
ずっとずっと、一緒に暮らして、結婚もしたいし、子供も欲しいって思ってる。
でもセックスはあなたじゃ満足できない。嫌いじゃないのよ。凄く気持ちいいし、絶頂を与えてくれる。それに私の体を開発してくれた。
でも私の”性癖”を開発したのもあなたなの。
名前も知らない他人に抱かれるのも、気持ち悪いおじさんに処理されるのも凄く気持ちいい。
あなたのどんなにセックスが上手くなっても埋まらない溝があるの。
それは背徳感。
幸せなセックスじゃ絶対に味わえないのよ。
あなたの顔を思い浮かべ、愛してるって思いながら、性処理に使われる罪悪感は、心臓をエグるほどに気持ちいい。
こんな私でも愛してくれる? 私はあなたを愛し続ける自信あるよ。
◇◇◇
梅雨のジメジメした曇り空。
学級委員が教壇に立ち、やる気のない声で進行をしている。秋の文化祭に向けて、誰もが嫌がる演劇の主人公を決めていた。
「誰か主役やりたい人はいますかー」
何人か声を掛けられていたが釣れない返事を返されている。
(僕はそもそも人と話すのが得意じゃない。ましてや人前で劇なんかできるわけないじゃないか)
主役はサッカー部キャプテンの飯島君か、不良の佐藤君が適任だ。しかし2人とも手を挙げずに黙っていた。
それでもめげずに、何人かに声をかけていたが”やりたくない”と返される。
(僕には関係ない話だ)
前を見ずにペンを取り、ノートに何かを書いている。ゲーム業界に夢を抱いた橋田新(はしだあらた)は演劇のシナリオ制作をしていた。
(もし僕が演劇の内容を考えるなら……)
ヒロインは学校No1の美少女、柊翠(ひいらぎみどり)が中心の物語を妄想した。数席前の左側に座っている。陽の光が当たった栗毛色の髪と、シワのない白シャツのコントラストが綺麗だった。
柊さんは某国の王様の子息で、誰もが憧れる次期王妃。僕が一農民で絶対に結婚できない間柄。その僕が“何らかの理由“で命を救い、一目惚れされてしまう。
(何らかの理由は……どうしようかな……)
学級委員は手詰まりになり、担任に目を向けて助けを求めていた。担任の上山も自分には関係ない風の態度で一瞥もくれず外を見ながら言った「主役が決まらなきゃ劇の内容も決まらないんだぞ〜」
(主役じゃなくてストーリーを考えるだけならやりたいのに……)
演劇は学校独自のしきたりがあり、主役の2人が劇の内容や配役を決める主導権を持つ。劇の全てを執り行うことで計画性や主体性を伸ばすためらしい。しかし、進路には関係ないから、進学のためと手を挙げる優等生もいないんだ。
(進学の自己アピール欄に書けるほどの成果をあげれば良いのかも)
とうとう壇上から“悪魔の一言“が宣言される。
「じゃあ……誰も立候補しないから他薦に切り替えまーす。誰か最適な人を推薦してくださ〜い」
クラス全員が騒つく。自分が指名されるのが嫌なのだ。いたずらに誰かを推薦すれば一生仲良くすることはない。クラスの人気者を選んでも今後の学校生活に支障をきたしかねない。
でも飯島君と佐藤君が手を挙げないのは意外だった。2人とも柊さんに振られたからかな……
佐藤君は”俺が狙ってるから声をかけるな”と言って、皆に威圧を掛けていたのがバレて玉砕。「卑怯な手を使うのね。あなたとは“絶対に“付き合えない」と1発でレッドカード。
飯島君は、「僕がシュートを決めて試合に勝ったら付き合ってくれ!」と全生徒の前で宣言したら「みんなの前でそんな言葉を言われたら恥ずかしすぎるじゃない。デリカシーのない人とは付き合えない」と言われ、試合前に全員の前で振られたんだ。もちろん試合はボロ負けだった。
付き合えたら二人で主役を演じたかったのだろう。でも美男美女で主役を演じたら、劇にはピッタリだけど定番すぎる。
確かに2人ともイケメンだけど、彼女の美貌に比べたら雲泥の差がある。学校”だけ”のイケメンとトップアイドルの違いだ。
彼女はスウェーデン人のクオーターで日本人離れした姿をしている。髪は栗毛色のストレート。肌は白すぎて、“自分が醜く見える“と女性は横に並ぶのを嫌がっている。青い瞳は実在のエルフを思わせる透明感があった。
171cmのしなやかな体躯でグラウンドを走る姿は山岳を駆け抜けるカモシカのように美しい。男性からは憧れの目線が、女性からは降伏のため息が聞こえてくる。
それを鼻にかける事なく、勉強も運動も人一倍頑張る姿は、全ての生徒を納得させる実力がある。
(佐藤君と飯島君は可哀想だと思うけど、僕は告白どころか声をかけることも憚られる立場だからな)と不釣り合いすぎて、遠くから憧れてるだけだった。
ガヤガヤと教室がざわめく中で、後方から佐藤君たちのひそひそ声が聞こえる。「あいつ指名しようぜw」「みんな手上げろよ……」
(まさか僕が指名されるわけがない)
佐藤君たちがノートをとっている新に目を付ける。
「ホームルームに参加しないで、ずっとノートを取ってるやつがいるよ! だから新が主人公にお似合いだと思う!」と声を上げる。同調圧力がかかり、周りの男子たちも賛同の声を上げはじめた。
唖然とする新。
「え、え? あ、いや……」
吃りながら拒否しようとするが声が出ない。
(僕が? 主役? 演劇する? いや……いやいや! 無理だって! 人と話すことすら無理なのに! 絶対ダメだって!)そう思っても言葉に出るのは「あ……でも……」と何を言ってるかわからない始末。
誰かに助け舟を出してほしいと周りを見ても、助けるどころか安堵の表情を浮かべていた。
柊さんと目が合うと、怒った表情で見つめられた。なぜ拒否しないんだと言いたいのだろう。
(拒否したいけど言えないんだよ……)
「委員長! 多数決でいいんだよな? 新でいいか挙手取ってくれ!」
学級委員が「橋田君が主人公で良い人は手を上げて」と言うと僕以外の男子全てが勢いよく手を上げていた。
「じゃあ主人公は橋田君に決定で!」とスキを与えずに答えていた。
柊さんが手を上げて勢いよく立ち上がる。「やりたくない人に無理やりやらせるのはいけないでしょう! 橋田君も嫌なら嫌って言いなよ。佐藤君も卑怯だよ!」
佐藤君は柊さんから目を離しつまらなそうな顔をしていた。
学級委員も困った顔を見せていたが、先生に助けを求める。柊さんも先生にすがるが、「推薦でも、みんなで決めたことだ。みんなに応援されたんだ、最期の思い出だと思って頑張れよ」と跳ね返される。
劇の主役になんて全く興味がないし、自分が壇上に立つなんて考えもしなかった。今の決定が全て夢で、これが終わったら朝だったらいいのに、と絶望を感じる。
全て現実で、秋には劇の中心で高らかに声を上げ、主人公を演じるなんて……できる訳がない。
でもストーリーなら考えられる。僕みたいな日陰者が主人公になるには、相対的なヒロインが必要だ。美女と野獣とはよく言ったもので、絶世の美女と人外の野獣だからこそお互いのキャラクターが活きるのだ。だから僕と正反対のヒロインが最適だと考えるが、彼女はやらないだろう。
柊さんは少し俯きながら何かを堪えているようだ。ブルーに染まった瞳が僕に向けられ少しの笑顔を見せてくれた。そして手を挙げて学級委員に意見を言う。
「じゃあ私がヒロインに立候補します!」
唖然とする生徒たち。目立ちたくないと言って、推薦された生徒会長も、学級委員すら辞退してたのに。
しかし柊さんなら誰もが納得できる最高のヒロイン。僕が考えていた美女と野獣。いや、絶世の美少女と根暗なオタクの物語は成立するんだ。
マジかよ!
柊さんなら納得!
俺が立候補すれが良かった……
騒つくクラスを先生が制し一瞬で静寂が走る。
「静かにしろ! じゃぁ主役は新と翠に決定だな。劇の内容は2人で話し合って来週までに決めるように。予算は生徒会の実行委員会に聞いてくれ。じゃあ今日は終了だ」
その言葉と同時に日直が終了の挨拶をする。友達からは「頑張れよ」「柊さんと楽しめよw」と茶化した声をかけながら教室を後にしていく。
僕は人前で演じる大きな不安と、物語を考えられる小さな好奇心が交錯している。
(あぁ、どうしよう。僕が主役……柊さんと2人で……出来ないよ。絶対無理だよ)
しかも相手は学園一の美少女なんだ……
俯いていると柊さんが隣の席に座って声をかけてきた。
「一緒に頑張りましょう! よろしくね」と言ってスッと手を差し出してくる。震えながら手を差し出し、指先だけ触れると白い手がさらに近づき、ぎゅっと握ってきた。
(手を握ってる!! 僕が柊さんの手を! ヤバイヤバイ!)
手を握るだけで緊張が走るのは、身内以外の女性に、初めて触れたから。サラサラしてるのに乾いてないスベスベな手。太陽の下の活動が全くない僕も白い手をしてるけど、更に白く透き通ったエルフの手。
「よ……よろしく……」
はっきりしない返事で返した僕は、不安と興奮が入り混じった笑顔を見せていた。
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