第35話 買い物

「防具と短剣と…あと野営道具も?」

「はい、それと必ず回復薬と解毒薬も必要ですよ」


 ダンジョン実習が近くなってきた今日この頃。休日にレリアはダンジョン実習で使う道具の数々の買い出しに来ている。

 王族だから使用人にやらせても良いことなのだが…いつも屋敷で特訓ばかりじゃ心が疲れるから息抜きがてらにレリア自身で買いに来てるのだ。


 護衛は専属侍従ことミレイさん。あと一応後方に三人ほど護衛が居るが…流石に学園都市で事件は起きないと思いたい。


「えっと…防具は出来るだけ軽装の方が良いのですよね?」

「えぇ、あまりにも動きづらい装備ですと咄嗟に動けませんので。それに姫様のパーティは二人だけとのことですからより臨機応変に動けた方が良いかと…」

「なるほど…意見助かります」

「いえ、侍従として当然ですので」


 シオン学園は貴族が多く通う事もあって防具屋にはドレスアーマーとか見栄えを意識した物もあるが、レリアはそれらに目もくれず比較的にお手軽な値段の皮装備を手に取る。…なんか、レリアって若干庶民寄りな価値観をしてる気がする。妙に着飾らないと言う感じだ。よく言うなら実用的、悪く言うなら質素…だろうか?

 別に質素なのが悪いとは言わないが。質素なスローライフ…良いじゃないか。


「…姫様、流石に一国の姫がその装備で大勢の目の前に出られては侮られる可能性はありますので……」

「えぇ、分かってます。流石に私だってこの装備で行くわけではありませんから」


 そう言いながらも革の防具を手に持ってじっくりと観察している。…何をしているのだろうか?俺からしたらただの金属と魔物から取れた皮を使った胸当てにしか見えないが。


「…ねぇ、ミレイ。リファルに防具は要ると思いますか?」

「リファル様に防具、ですか?そうですね…恐らく必要ないかと。竜種はそもそも外殻や鱗が硬いので防具を身につけると動きが阻害されてしまうだけかもしれません。

 ウルフ系などの召喚獣などになるとちょっとした防具をつけることもありますが…リファル様は竜種で、とても優秀な召喚獣ですので必要ないかと」

「ふむふむ…」


 まぁ、確かに店の防具を見てる感じだとそこまで俺に防具が必要だとは思えない。

 なにぶん武具に関しては素人なもんだから良し悪しが分かるわけではないが、成長するにつれて硬くなっていく自前の鱗達は割と信頼できる程に防御力がある。実際にライター君の召喚獣である鳥の攻撃をほぼ無傷で受けきれたしな。


 て事で防具はレリアだけが買う事に。

 ミレイさんの意見を元にパッパと選んでいき、ファンタジー物でよく見る軽装備となった。それでも所々の装飾が凝っていたり、使われている金属が貴重な金属だったりで品も出ているが。

 そんな防具を来たレリアはとりあえず可愛かったとだけ言っておく。



 次に武器屋で短剣を選ぶ。なぜ短剣かと言うと、ダンジョン内だと狭い空間で戦う事になることもあり、その時に長剣だとかを振るのは危ないからという理由がある。あとは予備の武器としての面とか、緊急時の便利道具とかの意味合いがある。無人島でもナイフがあれば色々出来るって言うからね…割と万能アイテムなのかな?


 レリアが選んだ短剣はそこまで派手ではない頑丈さを重要視したようなナイフだ。選んだレリアはナイフをしっかり観察した後に数回ほどナイフを振っている。なんとなーく微妙そうな顔をしてるが…やはりナイフの扱いには慣れてないのかな。


「うーん…軽いですね。魔法を併用したらマシになるんでしょうか?」

「短剣とはそういうものです。あくまでサブ武器、あまりメインとして使わない武器ですので」

「そうですよね…でもある程度は慣れておかないと」


 ナイフを買った後は野営道具や薬等を買い、他にもダンジョン実習に必要なものを揃えていく。

 そして買い物が終わり、折角ならと宝飾品などを見ていると…強盗が入ってきた。


「全員その場から動くんじゃねぇ!少しでも動いたらこの場を火の海に変えてやるからな…!ん?おいおい上玉が居るじゃねぇか、おいそこのガキ!こっちに来やがれ!」

「………私ですか?」

「お前しかいないだろうが、いいからさっさと来い!」


 突如現れた盗賊みたいな奴がレリアを見つけて指名してきた。レリアほどの美少女を我が物にしたいと思ってしまうのは分かるが…にしても雑だし行動が荒くないだろうか?


「ミレイ」

「はい、即座に」


 レリアが短くミレイさんの名前を呼んだことで即座にミレイさんが動いた。

 不用心に近づいてくる男に高速で近づき、ミレイさんの接近に気づけていない男を店外に殴り飛ばす。そして何が起こったか分かっていない男の四肢を風の刃で切り飛ばし、確実に無力化する。


 迅速かつ確実に。以前の誘拐事件での反省もあって格段に動きが良くなっているミレイさんは四肢を切断した男を付いてきていた護衛たちに男を引き渡し、レリアの元に戻ってくる。あの男は衛兵の所に連れていかれるのか…それとも王家の方で情報を取るのかは分からないが、恐らく確実に拷問はされるだろう。


「ミレイ、ありがとうございます」

「いえ、これが私の仕事ですから。にしても…どこの差し金でしょうか」

「さぁ…?ですが、あのような者を使ってる時点で程度が知れますが」


 あの男が店に入ってきた時、即座にレリアを見つけたという点が不審であるし、それ以上にあんな男がこの学園都市に入ってくること自体がおかしいのだ。

 この学園都市には各国の重鎮の子供たちが大勢いるのだ。だから勿論のこと検問は厳しく、あんな粗暴な平民の大人は普通弾かれるはずだ。例えシオン学園の生徒の親であっても。


 となると考えられるのはどこぞの貴族が招き入れたのだろうか。それも学園都市の検問を通らせるとなると…上級貴族と思われる。


「リファルとの平穏な学園生活に邪魔が……何処の貴族かは知らないけど覚悟しときなさい」


 相手は王族に手を出しても隠し通せる自信があるのだろうか。

 ………まぁ、王家の調査を凌げたとしても俺が確実に見つけ出してやるが。


 そう強く思った俺の身体が薄く霧に包まれるのであった。

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