7.unforgettable place

古びた団地。高度成長期、地域活性の為に、乱立されたであろう夢の跡。

古びた建物は、数十年の時を経たかのような有様で、色あせ、窓ガラスは割れたまま放置されている。

草が生い茂った庭には、かつて子どもたちが遊んでいたと思しき遊具が錆び付き、

朽ち、風もないのに、ぎいぎいと不気味な音を鳴らしている。

それ以外の音は一切響かず、静まり返っている。

……いや、鐘の音は相変わらず響いているのだが、

規則的すぎて、もはやそれがあるのが常になっていた。

剥がれ落ちそうな、お知らせの張り紙。

集合ポストからはみ出したチラシ。

良からぬ事件を彷彿とさせる、焦げたようなシミの跡。

いつもなら珍妙な生物で賑やかなのだが、それすらもいない。

目指す地点に近づけば近づくほど、減っていっているようだ。

薄暗い、辺りが見えない程ではないが、生命の活動を感じさせないダークな風景だ。

時刻は夜明け前に固定されているのだろうか。

日常であるなら、やがてくる夜明けの光で安堵するところだが、

永遠にそれは来ないことがわかっている。ひたすら不気味だった。怖い。

「休憩しましょうか」

絵里が、ありえないことを言い出す。

先ほど、なかなか熱い展開があったことを記憶しているが、……平常運転だった。

「もう少し明るいところに行って、休まない?」

提案する。絵里がまた、髪を指に巻きつけている。

「暗いと何か、不都合があるんですか?」

「え、気分の問題かな。なんだか空気も重いし」

絵里が、周囲を観察している。ふぅっと短めのため息をついた。

「もしかして……怖い、とかですか?私たちがお化けみたいなものなのに。何を今更、怖がる必要があるんです?参考までに聞いてみたいかもしれません」

少し呆れたような顔で、じぃっと、見つめてくる。

「ええ?自分がお化けだからって、お化けを怖がらない理由はないだろう?人間だって、害をなす人間を恐れている」

「……なるほど」

絵里が口元に手を当て、にやついている。

馬鹿にしている、というよりは自分の思考をすり抜けた回答が面白いという反応だ。流石に付き合いが長くなってきたので、

彼女の事が徐々に理解できるようになっていた。

予想外の反応を返されたときは、とても愉快そうに笑う。

「座りませんか」

絵里はそう言い、階段に腰かけ、横をポンポンと叩いている。

どうやらここで休憩するつもりらしい。大人しく、横に腰かけた。

どことなく風景が懐かしい。

僕が子供の頃は、このような集合団地が各所にあった。

階段前の少し開けた場所は、周辺に住む子供たちの恰好の遊び場所になっていた。

学校から拝借してきたチョークを使い、様々な遊びに使う文様を描くのだ。

しかしここは、既に放棄された場所だ。

一体誰がこのような場所に、思い出を刻んだのだろう。

「ちなみになんですけど、お化け……幽霊の、どの辺が怖いんですか?何かされたことがあったりします?」

「ない、と思うけど。幽霊が怖いというよりは、予想外の事が起こるのが怖いよ」

「未知への恐怖、というものですかね」

うんうん、と絵里が頷いている。

「金縛りとか……誰しも体験している、恐怖体験じゃないのかな」

「私は金縛り状態になっても、特に怖いことは起きませんよ」

「え?そうなの?僕の金縛りは、大音量の叫び声が聞こえたり、知らない顔がいっぱい浮いていたりで賑やかだよ」

絵里が笑いながら「それはちょっと、楽しそうでいいですね」と言う。

「まったく楽しくないんだけど。冷や汗でだらだらだし、しばらく眠れないし」

「ショウくんは可愛いですねぇ。たぶん認識が逆なんですよ。怖いことが起きているから、金縛りに遭うわけではないんです。金縛りに遭うと怖いことが起こると思っているから、半覚醒状態で怖い夢を見ているだけなんです。明晰夢に近いと思います。無意識下、自分で怖い方向にコントロールしている夢、だと私は考えています」

「そんな、刷り込みみたいな原理で、あんな目に遭っているのかい」

「現に私は、何も怖い目に遭っていませんよ。体が動かせない不快感はあります。……聴覚異常は起きているかもしれませね。確かに大きな音が響いているように感じます」

「恐ろしいぐらい冷静だよね。オカルトとか信じないんだ」

「違いますよ。信じたいから、冷静に分析して、仕分けしているだけです。今、死んでしまってこのような状態ですけれど、少し感動もしているんですよね。ああ……不思議な事って本当にあったんだなぁって」

少し恍惚としている。

「怖い、怖い、冷静過ぎて怖い。幽霊もいないと思う?」

「さぁ、視覚認知に差があると、そこに幽霊が入る余地はありそうな気がしますけどね」

「どういう事かな」

僕の顔を横目で見ている。測るような瞳、

光源などないはずなのに、妖しく煌めいた気がした。

「私、とても怖いと思っていることがあるんです」

「絵里でも怖いもの?」

「私、結構怖がりですよ。それで、例えばですよ?私とショウさん、見えているものは全く同じなんでしょうか?」

「同じなんじゃないの?」

「生まれた時から認識が逆転していたら、そのことに気付く事は、難しいと思いませんか?」

「わかりやすく」催促する。

「例えば、私の視覚で認識している赤色と青色が、生まれたときから反転していたとします。私から見る空の色は、他の人からみたら赤色なんですが、私は空の色は青色だと教えられています。ですから本来は赤色なのに、それを青色だと思い込むわけですよ。そうなったら、そのことに気付いてくれる人はいません。他人の脳を通した視覚は、普通は覗けませんからね。私は、赤い空を見て青と言い、他の人は、青い空を見て青と言うのです」

「なるほどね……でもなんだかそれって、実害なさそうだよね。完全に入れ替わっちゃっているんだろう?」

自分に流れる血液が青色に見えていたとしても、

それが普通と認識されていたら、違和感は覚えないのではないだろうか。

青色の血が不気味だと感じるのは、本来の赤色の血を知っているからだ。

だとするなら、別に反転していても、生まれたときからそうであれば、

その人の常は揺るがない。

「ショウさんの性格、羨ましいかもしれません。私は怖くて、たまらなくなることがあります。認知のずれが五感全てに及んでいたら?本来、見えていなければならないものが、見えていなかったら?もしくは逆に、見えてしまっていたら?余計なことを考えてしまいます」

「やっと、言いたいことが、わかったかもしれない。つまりは幽霊なんてものが介在できるとしたら、その双方の認識のずれの中ってことだね」

「そうです、そうです」

「ふーん。その理論でいくと、見えない人には一生見えないね。なら安心」

「さー、それはどうでしょう」

不敵な笑みを浮かべている。なんだろう怖い。

……ふと、『一生』なんて言葉が出た自分に驚く。

そうなのだ、ずっと感じていた事。死の実感がない。

現に今もこうやって、楽しくおしゃべりしているわけだ。

これのどこが『死んでいる』んだろう。

そもそも『死』なんて概念は元からなくて、元いた世界での役目を終えたから、

この世界に来たのではないだろうか。

数珠つなぎに繋がっていく世界。

この世界でも役目を終えたら、また別の世界へと行くのかもしれない。

『死』という言葉で境を跨ぎながら。

老いても、枯れても、いろんな世界を彷徨い続ける自分を想像してしまう。

やだやだ、怖い。


「少し……お話をしていいですか。中学時代の数学の恩師に聞いたお話です。とても知的でかっこいい先生で、教え方もとても上手だったので、個人的によくご指導いただいていたんです。……黄昏時の教室で二人きり、懐かしいですね」

「絵里は、年上で頼りになりそうな男の人が好きそうだしね」

横目で見る。

「女性ですよ」

絵里が、にっこり笑微笑む。

「そっか」

僕は、くしゃっと微笑む。

「その先生、クールで、あまり冗談も言わないような人でした。そんな先生が深刻そうに私に言うんです『腑に落ちない話があるんだ、聞いてくれないか』と。普段お世話になっているので、快諾しました」

何となく嫌な予感がする。

この流れで話す話は、所謂『怪談』ではないだろうか。

正直、その手の類の話は苦手だ。階段で怪談?どうでもいいことを考えていよう。

「その先生が同窓会に行った時、不思議なことがあったらしいのです。若い先生だったので、卒業してから年数が経っていない同窓会です。学校主催ではなく、クラス主催の小規模な会だったそうです。そんな状態だから、クラスメイトの姿もさほど変わっていません。ちょっとした飲み会ぐらいの感覚で参加したそうです」

「ああ、僕も高校を卒業してから、三年ぐらいしか経ってないのにやったなぁ。でもちょと楽しみだったよ。三年でも結構変わるしね。ちょっとドキドキしたよ。結構、みんな大人になっていたしさ」

「ショウさんなら、さぞかしモテたんでしょうね」

「男子校だよ」

僕は、にっこり微笑む。

「……話を戻しますね。つつがなく、会は進行していました。でも先生、一つとても気になっていたことがあったそうです」

「なんだろう?」

「知らない人がいたんです。クラス全員と仲良くしていたわけではないので、印象が薄い人がいるのはわかるのですが、まったく憶えのない人が座っていたそうです。地味な服を着て、薄目の化粧をした女性だったそうです」

「ごめん、もうその時点で、僕、怖いや」

「もう少しだけ、頑張ってもらえませんか。……こっそりと別の旧友にその人の事を聞いたそうです。『あんな人いたっけ』と。そうしたら『え?忘れたの?部活も同じだったのに?』と答えたそうです。バスケ部だったらしいのですが、全く思い出せなかったそうです。どの記憶を辿っていっても、その人は出てこない。流石に不気味に感じた先生は、挨拶もそこそこに家に帰りました」

僕はじーっと聞いていた。なんとなくオチがわかるな。

「家に帰って、数年ぶりに卒業アルバムを開きました。彼女の存在が信じられなかったんでしょうね。ページを捲っていると、確かに……彼女はいたんですよ」

「あれ、いたの」

予想外の展開に反応する。

この手の話なら、どこにもいませんでした、ちゃんちゃん。

で終わるものだと思っていた。

「そう、いたんです。きちんと名前も記載されています。個人写真、イベント毎の写真、部活動の写真、修学旅行の写真、何処にでも彼女はいました。同窓会で観たときよりも一層影は薄く、地味な印象です。……ただなんとなく、構図に違和感を覚えたそうです。この場面でそこに立っているのは不自然だな、とか。あれ?そんな隙間に、人一人座れる?とか。映っている彼女の顔も、どことなく不気味で、他の旧友たちが笑顔で写っているような場面でも、無表情で、じっとカメラの方を見つめています。そう……じっと見つめているんですよ」

「ギブアップ」

「もう少しです。ここからが、いいところなんです。頑張って」

「……頑張る」

「続けますね。そう、最大の違和感はそこなんですよ。卒業アルバムの写真って、シーンを切り出したような構図になるので、オフショットのものが多いです。でも彼女はどの写真でもじっとこちらを見つめている。それに気が付いた先生は、彼女が自分を睨みつけているように感じて、慌てて卒業アルバムを閉じました。もう夜も更けていたので、寝る準備をしていたところに、携帯電話が、突然鳴ったんです。知らない番号です。このタイミングで鳴る電話なんて、出たくないじゃないですか。無視しようとも思ったのですが、先生という立場上、生徒がらみの緊急の要件が入ることもある為、出ないわけにもいきません。恐る恐る通話のボタンを押し、耳に当てました」

「…………」


「『アンタのせいで死んだのに、忘れちゃったのぉ』」


絵里が、僕の耳元で情感たっぷりに囁いた。

そのまま顔を伏せる。頭を抱える。やだやだ、もう顔を上げたくない。

「ごめんなさいね?」くすくすと笑っている。

「まぁ……何が言いたかったか、というとですね。人間が持ち合わせている様々な感覚や記憶って、そんなにあてにならないじゃないかなってことです。何せ私たち人間は、記憶を造る生き物ですからね」

「記憶を造る?」

「人間って、無意識のうちに、過去の記憶を捻じ曲げていっていると思うんですよ。最適化と言ってもいいかもしれません。似たような記憶が、くっついてしまったり、若しくは綺麗さっぱり無くなったり、思い込みで上書きしたり……自分が記憶しやすいように、整理しているのだと考えています」

「また……絵里は、難しいことを考える」

何となく、非難するような、諭すような言い方になってしまった。

その生き方は疲れそうだ。もっと単純に、物事を考えて生きた方がいい。

死んでるんだけど。

「……やはり私、女としてみると、あまり可愛くはないですかね」

ふぅ、とため息をついて、自分の指を絡ませて弄んでいる。

爪をさすっているようだ。

色は付いていないようだが、鏡面のように磨かれていて美しい。

表情からは、感情を探ることができない。どう答えるのが正解か。

「そんな事ないよ、絵里と話していると刺激的でとても楽しい」

「可愛いとは言ってないですね」

絵里は、可愛いというジャンルでは括れない。

見た目は確かに可愛いのだけれど、

彼女が聞いているのは、内面的な可愛さの事だろう。

一般的に可愛いと言われる性格は、どちらかというと、無知寄り、どちらかというと、無邪気寄り。絵里は、どちらにも当てはまらない。

「いいんですよ、自覚はしているんです。きっと男性が求めているのは、横で可愛く『うんうん、それで?』と、可愛く相槌を打ってくれる、見栄えのいいお人形さんなんですよ。あとは『えー知らなかったぁ、すごーい』と適度に自分を持ち上げてくれて、そして、後は腕の中でいじらしく、か弱く泣いていてくれさえいれば、それ以上の事は求めていないんです」

芝居がかったセリフのところで、不意にときめいてしまった。

などと言える雰囲気ではない。

きっと、そういう男とばかり巡り合ってきたんだろう。

男の身からすると、それらを受ける女性の心は、察するに余りある。

「そういうのは、好き好きじゃない?男をそう単純に、括って欲しくはないかな。僕は、その、あまり中身のない女性とばかりいると、疲れてしまうよ。似たような話題で頷き続けなきゃいけないし、僕から色々と、提供しなければいけなくなるしね」

「そうですか?」と言い、絵里は立ち上がった。

スカートに付いた埃を、はたはたと手で払っている。

そして、身なりが気になるのか、あちこちをチェックしている。

最後に自分の両手をじっと見つめ、なにやら思いつめたような顔をする。

出会ってから、度々このような行動をしていた。

自分の両手をじっと、切なげに、見つめるのだ。

「ショウさんとは、生きているうちに出会いたかったです」

ぽつりと、絵里が呟く。

胸にじわっと、熱い液体が広がった感覚を覚える。

……しかし、どうなんだ?

この出会いを、特殊な状況下であればこそ成立している、

『奇跡』のような出会いだと思っている。

だって、そうだろう?

互いに悲劇的な死に誘われなければ、出会う確率はゼロだ。言い切ってもいい。

生きている年代も違えば、恐らく生活している地域も違う。

例えその二つの条件が、一致していたと仮定しても、

大多数の男女の中から出会い、会話を交わすまでの確率は恐ろしく低い。

今ここに僕しかいないから、絵里は、僕を見てくれている。

そう、選択の余地などないのだ。もし、他の男がいたら?

絵里は、大人っぽい、知性の高い男を好みそうだ。

僕みたいに子供っぽくて、あやふやな男は見向きもされないんじゃないか。

そう、死をもって成立してしまった、奇跡的な出会い……。

先もなく、留まることが唯一の幸福、そんな出会い。

「なんだか、微妙な顔をしていますね?」

僕の顔を覗く。

「そりゃそうだよ、順当に生きていたとしたら、僕は絵里のお父さんより、年齢上になるんじゃないかな」

絵里は、はっとしたような顔を浮かべた。

「そう言われるとそうですね。気が付きませんでした。そうか……そうですね。私達はここでしか出会えなかったのかもしれません。そう……思うと、死ぬのもそんなに悪くはなかったかも……」

そう言うと、絵里はくるりと背を向けた。鐘の音が響く方を見ている。

今、とても素敵な事を言われたような気がするのだけれど、心の整理ができない。

何とも言えない、感傷と渇望をごちゃ混ぜにしたような感情が、湧き上がってくる。

細く折れそうな後ろ姿、呼吸に合わせて微動する身体、微かに左右に揺れている。

そんな彼女を、後ろからふんわり抱きしめる。

「どうしました?怖いですか?」

顔を少しだけこちらに向けて、絵里が聞く。

「ああ、怖い、怖いさ。……ねえ、絵里?こんな場面に相応しい言葉を探しているんだけど、見つからないんだ。何かないかな」

「こんな場面?」

要領を得ない、といった風に絵里が聞き返す。

「絵里に、今の僕の思いを伝える言葉」

「ふ……ん?シンプルでいいんじゃないですか?」

「シンプル……シンプルか」

「ちょっと待ってください。なにか……凄い事言おうとしています?」

「うん。……愛してる」

絵里がぱっと離れて、距離を取る。

口を両手で覆って「これは効きます……」と呟いている。

薄暗いのでよくは見えないが、頬も紅潮しているようだ。

胸を、とんとんとんと叩いている。

「心臓が苦しい」と絵里が言う。

どうしよう、死んでいるのに、死んでしまうかもしれない。

ふーっと、絵里が、長めの息を吐いて「不意打ちはやめてください」と言った。

「不意打ちかな?」

「怖がりさんだな、としか思っていなかったです」

「怖がりさんでもあるけどね」

「それにしても、直接、耳にするとなかなか破壊力がありますね」

「鼓膜が破れていないといいけど」

僕は、わざとらしくニコッと笑う。

「それにしても『愛している』って言葉。素敵なのにあまり使われない言葉だと思うんです。聞いたことあります?本とか、映像作品とか、創作物以外で」

「人前で言う言葉でもないしなぁ」

「そう言われると、そうですね……皆、言い合っているのでしょうか」

「王子とやらには、言われたことないのかい」

「ある……かも」ぼそっと呟いた。

「えええー、僕が思っているより、絵里と王子の関係、親密なんだけど。この先進みたくなくなってきたな」

「まあ、まあ、そんなに気にすることないですよ。お気軽に」と、

よくわからないフォローをされた。


結局、僕の愛の告白は、軽く流されてしまったわけだ。

少しあっさり過ぎたのだろうか。

どうも絵里は、真に迫るようなことを言おうとすると、

するりと逃げてしまうようだ。

今度は、逃がさないようにしないと。

「そう言えば、さっきの怖い話のオチってあれで終わりなの?」

「ああ、あれですか。あれで終わりですよ」

「えー、先生どうなったのさ」

「どうにもなっていませんよ。先生なんて……最初から存在していないんですから」

絵里は、不敵な笑みを浮かべている。

「意味深な顔をしているけど……作り話だったってことだよね」

「さぁ、それはどうでしょうかね。『いた』のに『いなくなった』のかもしれませんよ。忘れていた、旧友に連れ去られて。

……あなたの目の前の『私』は、本当に存在していますか」

「もうさ、君さ、本当にさ、人を怖がらせるの好きだよね」

絵里が笑いながら、歩き出す。僕もそれに続いた。

永遠に来ない夜明け、来た道を振り返る。

もう戻ることがないであろう道。なんだか懐かしい。

時の止まったこの世界で、暖かな記憶が積み重なっていく。

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