第17話 慕情

「はあ……昨日の夜も楽しかったなぁ……」



 朝、自分が住んでいる町を散歩しながら昨夜の出来事を思い返していた。楽しかった理由は簡単。ここ最近、夜になったら出会っている人にその日も会えたから。


 その人に最初に会ったのは数週間前、昨夜のように私が中々寝付けずにふと町の中を散歩しようと思い、ランタンを持ちながら町中を歩いていた時、その人が辺りを不思議そうに見回していたのを見て、その理由を聞きに行ったのがきっかけだった。


 私が近付くと、その人は私の姿を見てすごく驚いたけれど、すぐに目を輝かせながら私の耳が本物かどうかやこの町の事について尋ね始め、それに答えている内に私はその人と話すのが楽しいと思うようになっていた。


 そしてその日から、夜になるとその人は私の近くに現れるようになり、私達は色々な話をして楽しむようになっていた。けれど、その人がこの世界にいられる時間には制限があるようで、その事を私は残念に思っていた。何度も会って話をしている内に私はその人に仄かな恋心を抱いていたし、制限など無ければ、その人ともっと色々な話が出来、もっと絆を深められるからだ。



「……でも、そんな我儘は流石に通用しないよね。はあ……早くあの人に会いたいなぁ……」



 そんな事を呟きながら町を抜け、昨夜あの人と話をした森の中に入ったその時、前方から二人の人物が歩いてくるのが目に入ってきた。



「あれ……誰だろう? どこかの冒険者さんかな?」



 そんな疑問を抱きながらそのまま進んでいき、その二人の姿がハッキリとわかるくらいまで距離が近くなったその時、長い銀髪を麻紐のような物で一本に結った綺麗な顔の男性が声をかけてきた。



「すまないが、一つ訊いても良いか?」

「あ、はい。何でしょう?」

「この近くに町はないか?」

「町……はい、この道をそのまままっすぐ進んだ先にありますよ」

「そうか、それはよかった。感謝する」

「いえいえ。ところで、お二人は冒険者の方ですか?」



 その問いかけに短い栗色の髪の女性がにこりと笑いながら答えてくれた。



「冒険者というよりは、見聞を深めるために旅をしていると言ったところでしょうか」

「そうだな。元々は様々な者達を束ね、我が野望のために動いていたが、ある者との出会いをきっかけに私は考えを改め、この世界にある様々な物を知るためにこうして二人で旅をしているのだ」

「へえー……それは素敵ですね。ところで、お二人ともとても仲が良さそうですけど、もしかして恋人同士なんですか?」

「そ、それは……」

「まあ、そうだな」

「魔王様!?」

「別に間違ってはいない。私は側近であるお前の事を愛しているし、私はお前からの愛情をしっかりと感じているからな」

「ま、魔王様……」



 側近と呼ばれた女性が顔を赤くしながら魔王と呼ばれた男性を見つめる中、私は突然の事に驚きながら声を震わせつつ話しかけた。



「ま、魔王って……もしかしてあなたは、少し前までこの世界を支配しようとしていたあの魔王なんですか……?」

「そうだ。だが、安心してくれて良い。勇者の奴との出会いを経て、私はその考えを改めたからな」

「そ、そうなんですね」

「ところで、エルフの少女よ。そなたは世界を渡る事に興味はあるか?」

「世界を渡る……」

「ああ。恐らく、話には聞いていると思うが、ここではない異世界に渡る魔法を私達は見つけ出している。もし、そなたがそれに興味があるというのなら、特別に教えようと思うが……どうだ?」

「私は……」



 私にとってその提案はとても魅力的だった。何故なら、その魔法を使えば私の方からあの人に会いに行けて、時間を気にせずに色々な話をしたり、あの人の話に出てきた色々な場所に行く事が出来るからだ。



「私は……その魔法を知りたいです。私、実はこの前からある人と夜にお話をしているんですが、その人は異世界の人でいつも時間になると自動的に姿を消してしまうんです」

「自動的に……もしかしたら、私達が世界を渡る魔法を見つけた事で、次元に歪みが生じているのかもしれませんね」

「そうだな。そして、そなたはその者に会うためにその魔法を知りたいという事だな」

「はい。その魔法でその人がいる世界に行って、時間を気にせずに色々な話をしたり、あの人の話に出てきた色々な場所に行ったりしたい。まだ出会ってから数週間くらいですけど、私にとってあの人の存在はもう大きい物になってますから」

「……そうか。ならば、その強い想いに応えるとしよう。少しついてきてくれ」

「はい!」



 そして私は、魔王さん達と一緒に森の奥へと入っていった。



 ……待っていてくださいね、私の愛しい人。



 あの人の顔を思い浮かべながら、私は魔法を覚えようというやる気を高めていった。

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