第16話 夢幻

「……ん」



 背中に何やらゴツゴツとした固さを感じながら目を開け、辺りを見回した後、俺は体を起こしながらポツリと呟いた。



「今回は森の中からか……さて、今夜も“あの子”に会いに行きたいけど、ここがまずどこの森かを知らないとだな」



 そう言いながら立ち上がり、もう一度辺りを見回そうとしたその時、「……あ」という声が聞こえ、俺がそちらに視線を向けると、そこにはランタンを手に持ちながら嬉しそうに俺を見る同い年の耳の尖った色白の肌の少女がいた。



「よっ、こんばんは」

「はい、こんばんは。今夜も会えましたね」

「そうだな。ところで、ここってどこだ?」

「ここは私の家がある町の近くにある森です」

「そっか。でも、こんな夜中にどうしたんだ? 眠れなくて散歩でもしてたのか?」

「はい。それで、今夜もあなたに会いたいと思っていたら、ちょうどあなたを見かけたので嬉しくなってつい来ちゃいました」

「ははっ、そっか。それは嬉しいな」



 少女の言葉に俺が嬉しさを覚えながら言うと、少女は近くにあった切り株に腰かけた。



「あなたこそどうしてこの森の中に?」

「んー……また気づいたらいたって感じかな?」

「そうですか……初めてお会いした時も思いましたけど、もしかしたらあなたには知らない内に転移系の魔法でも掛けられているのかもしれませんね」

「はは、そうかもな。さて、せっかくだから今夜も話をしようぜ。今日も色々あったから、話す事がたくさんあるんだ」

「はい。あなたのお話はいつも楽しいので、是非聞きたいです」

「わかった。それじゃあ、始めるな」



 そう言ってから、俺は少女に対していつものように朝から寝るまでの間にあった事を話し始めた。俺が話している間、少女はうんうんと頷いたり時には質問をしてきたりしながらしっかりと話を聞いてくれた。そして俺が話を終えると、少女は笑みを浮かべた。



「今夜のお話も面白かったです。本当にありがとうございます」

「どういたしまして。やっぱり、あいつらと一緒にいると、色々な事があって飽きないよ」

「……そうですか。私もその方達にお会いしたいですが、世界を転移する方法が無い事にはどうにも……」

「そうだよなぁ。でも、異世界から来たっていう勇者様は無事に帰ったらしいって前に言ってたよな?」

「噂ではそうです。なんでもこの世界を支配しようとした魔王やその部下達と次々と絆を結び、協力をして世界を渡る方法を見つけ出したとかで」

「なるほど……もし、それが本当だとしたら君もそれをやってみたいか?」

「はい。そして、そちらの世界であなたやお話に出てくるご友人の方々と色々なお話がしたいです」

「……そっか。もし、それが実現出来たらあいつらも喜ぶとおも──っと……」



 突然視界がぼんやりとし始めた瞬間、俺は時間切れなのを感じ、少女に向かって微笑みかけた。



「どうやら、今夜はここまでみたいだ」

「わかりました。またお会いできるのを楽しみにしていますね」

「おう。それじゃあな」

「はい」



 そして、俺の意識がスーっと薄れていくと同時に視界が暗闇に包まれていった。





「……んむ?」



 背中に布団の柔らかさを感じながら目を覚ました俺はゆっくりと目を開けた。すると、視界に入ってきたのはいつも通りの俺の部屋だった。



「ふわぁ……朝か。それにしても……最近、よく“同じ夢”を見るよな。まあ、その日によって始まる場所や話す内容が違うから正確には同じじゃないけど」



 そんな事を独り言ちながら俺はさっき見た夢の内容と少女の笑顔を思い出し、幸せな気分に浸りながら苦笑いを浮かべた。


「でも、笑っちゃうよな。俺が異世界に毎晩転移魔法で飛ばされてる設定なのは。まあ、種族こそ違えどあの子は俺の理想のタイプではあるし、夢の中ではあるとしてもああやって毎晩会えるのは嬉しい限りだけどな。あーあ……ほんと、現実でもあんな彼女が欲しいなぁ……」



 ポツリとそんな事を呟いていたその時、腹からグーっという音が鳴ると同時に空腹感を覚え、俺は腹に手を当てた。



「おうおう、今日も腹の虫が鳴いてんな。うっし、それじゃあ今夜もあの夢が見られるように願いながら今日も一日頑張るとするか!」



 そして、ベッドから体を出し、すくっと立ち上がった後、俺はあの少女の笑顔を思い出してそれに元気をもらいながら部屋を出た。

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