第11話 告白

「……で、付き合う事にした、と」

「うん、そだよ」



 ある日の事、私は友達の話を聞き、小さくため息をついた。



「ほんと、二人くらいなものだよ。そんな形で付き合い始めるのは」

「だろうね。でも、私達はそれで満足してるよ」

「そう……」



 コイバナをしてるとは思えない程、あっさりとしたその答えに私はまたため息をついた。すると、「おっ、まだ残ってたのか?」という声が聞こえ、そちらに視線を向けた。すると、そこには担任の先生の姿があった。



「あ、先生……」

「先生、お疲れ様です」

「ああ、ありがとう。そういえば、そろそろサッカー部が終わる頃だぞ?」

「あ、もうそんな時間か。わかりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。ほら、早く彼氏のところに行ってやれ」

「はーい。それじゃあまた明日ねー」

「あ、うん。また明日」



 そして、友達がカバンを背負いながら少し嬉しそうに教室を出ていくと、先生は少し驚いた顔をしながら教室内へと入ってきた。



「……今日は否定してこなかったな」

「あの子、本当に付き合い始めたんですよ」

「あ、そうなのか」

「はい。でも、話を聞く限り、ロマンチックさの欠片もない感じでしたけどね」

「あははっ、でもそれもアイツららしいだろ?」

「そうですね」



 先生と二人きりの教室。そんな恋愛物に良くありそうなシチュエーションに少しドキドキしながら答えていると、先生は真剣な顔をしながら私に話しかけてきた。



「……なあ、こんな事を訊くのは変かもしれないが、お前には彼氏とかっているのか?」

「……へっ? い、いないですよ!?」

「……そうか」

「……まあ、好きな人はいますけど」

「え、そうなのか? 同学年か? それとも他学年か?」

「な、内緒です! そういう先生こそ付き合っている人とかいないんですか?」



 すると、先生は首を横に振った。



「いないよ。まあ、好きな人ならいるけどな」

「へ、へー……そうなんですね……」

「ああ、いつもしっかりと周りをまとめてくれてるんだけど、その事を決して威張ったりしない謙虚な人でな。そういうところに惚れたんだ」

「…………」

「まあでも、叶わない恋だろうな。そもそも俺なんか眼中に無いと思──」

「そ、そんな事ないです!」

「……え?」



 思わず言ってしまった否定の言葉に心の中でやってしまったと思ったけれど、私は先生が──“好きな人”が自分を否定するような事は言って欲しくないという気持ちの方が強かったため、そのまま言葉を続けた。



「先生はいつもみんなの事を考えてくれてますし、何か困ってる生徒がいれば入り込みすぎない程度に関わってくれようとしますから、みんな先生に感謝しているんです!」

「…………」

「だから、だから……自分を否定するような事、言わないでください……」

「……ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」



 目から涙を溢す私に対して優しい声でそう言った後、先生は私の頭にポンと手を置いた。



「……せん、せい……」

「……なあ、俺の恋って実ると思うか?」

「……はい、もちろんですよ」

「そうか……それじゃあちょっと勇気を出してみようかな」



 先生は嬉しそうに言った後、真剣な顔をしながら静かに口を開いた。



「……お前の事が好きだ。お前さえよければ、お前が卒業してからでも良いから付き合って欲しい」

「はい、それはもちろ──え!? せ、先生……先生が好きなのって私なんですか!?」

「ああ、そうだけど……やっぱり、ダメかな?」

「だ、ダメじゃないです! わ、私も先生の事が好きですから……!」

「そう……なのか。ふふ、それじゃあ両想いだな」

「そ、そう……ですね」



 あまりに突然の事に私が戸惑う中、先生は優しい笑みを浮かべながら私の頭を撫でた。



「あ……」

「それで、答えはオーケーで良いのかな?」

「は、はい……卒業してからじゃなく、今からでも大丈夫です……」

「そうか……ふう、お前の言う通り、本当に俺の恋は実ったな」

「……はい」

「さて……それじゃあ改めてこれからよろしくな」

「はい……こちらこそよろしくお願いします、先生」



 好きな人の笑顔を見られた事、そして好きな人と恋人になれた事で幸せな気持ちでいっぱいになり、それを表すように私は少し頬に熱を感じながら満面の笑みを浮かべた。

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