第6話 不安

「……ふう、今日も大分話したな」



 そう言いながら手に持った携帯を足元に置いていた共用の袋の中へとしまった後、私が小さく息をついていると、「よう」と後ろから声をかけられた。見ると、そこには何やら楽しそうな様子のリーダーの姿があった。



「……お前か。すまないな、今行くところだったんだが……」

「別に良いよ。それより、彼女とはどうだ?」

「……ああ、それなんだが……」

「ん? もしかして、喧嘩でもしたか?」


リーダーが心配そうな顔をする中で私は首を横に振る。


「いや……この度、結婚を前提に付き合う事にしたんだ……」

「え、マジか!? 良かったじゃん!」

「あ、ああ……」

「そっかぁ……まさか、俺がここに飛ばされた時に持ってた携帯がこんな縁を結ぶなんてな。世の中ってどう転ぶかわからないな」

「そうだな。だが……その相手が私のような“リザードマン”だと知ったら、彼女はやはり怖がるのではないかと思ってな……」



 そう言いながら私は彼女との出会いを想起した。彼女と知り合ったのはつい最近、今日のように宿屋で待機をしていた時、リーダーが共用の袋に入れていた携帯が鳴り出し、どうしたものかと思いながらもつい電話に出てしまったのがきっかけだった。そして、やけになって知らない番号に掛けてみたという彼女の話を聞く内に彼女に親しみを感じ、もっと話していたいと思った時に彼女がチャットルームというものを作る事を提案してくれ、その日からチャットルームで話をするようになった。因みに、初めて彼女と話した日の夜、勝手に携帯を使った事をリーダーに謝罪すると、リーダーは携帯が使えた事に驚くと共に私に新たな友人が出来た事を喜んでくれ、携帯を好きに使って良いと言ってくれたため、私は日々のパーティ内での職務を果たしながら、彼女との親睦を深めていった。だからこそ、彼女に怖がられるのは私にとって大きな恐怖だと言えた。



 彼女に怖がられたら私は……。



 まだ見ぬ彼女が私の姿を見て怖がる様子を想像し、気持ちが沈んでいくのを感じていた時、リーダーは俺の肩にポンと手を置いた。



「大丈夫だって。俺はその子と話した事はないけど、その子はお前がリザードマンでもきっと受け入れてくれるよ」

「そう……だろうか」

「ああ。まあ、驚きはすると思うけど、お前が危ない奴じゃないのはその子もわかってるはずだ。だから、きっと怖がりはしないよ」

「…………」

「まあでも、その前に会う方法を探さないとだな。今のところ、世界を越える手段は見つかってないわけだし、その心配をするのは後でも良いんじゃないか?」



リーダーの笑みに私は安心感を抱いた。



「そう……だな。すまないな、リーダー。勇者であるお前にいらない心配をかけてしまった」

「気にすんなよ。俺がここに突然飛ばされて、困っていた時に助けてくれた大切な仲間のためだからな。これからも何か困ったら遠慮無く言ってくれよ?」

「……ああ、わかった。さて、それではそろそろ行くとしよう。仲間達が待ちわびているはずだからな」

「ああ、そうだな」



 リーダーがニッと笑いながら答えた後、私は携帯などが入った袋を持ちながら椅子から立ち上がった。



 彼女に会う方法を探すため、そしてこの世界を平和にするためにも魔王を倒すためのこの旅は必ず成功させなければな。



 そう強く決意した後、私はリーダーと共に部屋を出た。

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