第4話 思慕
「ありがとうございましたー!」
スーツ姿の女性の客に対して元気よく挨拶をした後、女性店員はふうと息をついてからカウンターにあるカップなどを片付け始めた。
「今日もあのお客さんのお話は楽しかったなぁ。お仕事がライターさんというだけあって、色々な人のお話を聞いた事があるみたいだし、私も勉強になるよ。ただ……よく電話がかかってくるみたいだけど、ちゃんと休めてるのかな……?」
先程までいた女性客の事について考えながら女性店員が少し心配そうな顔をしていた時、カランカランとドアベルが鳴り、女性店員がそちらに視線を向けると、そこにはカジュアルな服装をした一人の男性が立っていた。
「あ……こ、こんにちは……」
「こんにちは。今日も来てしまいました」
「あ、ありがとうございます。空いてるお席へどうぞ……」
「はい」
そして、男性がカウンター席の真ん中に座り、男性から注文を取った後、女性店員は伝票を店主に渡してから、店の奥に引っ込みながら自分の頬が熱を帯びるのを感じた。
「うぅ……やっぱり、あの人の顔をうまく見れない……。はあ、いっそ告白できたら良いんだけど、そんな勇気はないし……」
女性店員が小さくため息をついてからもう一度店内へ視線を向けようとしたその時、目の前に店主の顔があり、とても驚いた様子を見せた。
「て、店長……もう、ビックリさせないで下さい……」
「……それはごめん。ところで、そろそろ休憩の時間だよね」
「休憩……あれ、でもあと一時間くらい──」
女性店員が不思議そうに言ったその時、店主はいたずらっ子のような笑みを浮かべながら口元に人差し指を近付けた。
「彼の事、気になるんでしょ。それなら、今の時間を使って彼と話してごらんよ」
「で、でも……」
「本当は内緒にしておきたかったんだけど、この前、君が休みの日にも彼が来てたんだけど、君がいないのを知ると、少し残念そうな顔をしてたんだ」
「え、それって……」
「……もう言わなくてもわかるでしょ。さあ、早く行ってあげて。飲み物はブレンドコーヒーで良いよね?」
「は、はい……あの、ありがとうございます……」
「どういたしまして。さあ、早く」
「は、はい……!」
そして、女性店員が嬉しそうな笑みを浮かべながらロッカールームに向かうのを見ながら店主は安心したような様子を見せた。
「……これで良いかな。後、彼がこの前ここのバイトの面接を受けに来た事やあの子の話題を出したら顔を少し赤くしていた事なんかも伝えたかったけど、流石に蛇足だよね。さて……私は私で仕事に移ろうか」
店主はそう言うと、客の男性と女性店員の分の注文の準備をしながら、今よりも賑やかになり、笑顔でいっぱいになるであろう店内の様子を想像し、幸せそうな笑みを浮かべた。
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