第25話 魔法大学校入学試験(1)
そして、入学試験の日が来た。
魔法大学校はパンデモニウムから竜車で20分くらいの川岸に位置しており、遠くには大きな壁が見える。あれが城壁都市の壁なんだろうな。
魔法大学校の受付で書類を渡し、指定された教室に入ると沢山の入学希望者がいた。
サイクロプス、オーガ、ラミアにメデューサ等々伝説や小説にしか登場しないモンスターが沢山いる。
あ、逆に俺みたいな人間がいるのがおかしいのか。
教官らしき人が入ってくる。あの格好は魔女だ。
「はい、それでは皆さん。こんにちは。魔法大学校へようこそ。これから筆記試験を行います。時間は魔法知識、算術、理学、各1時間です。昼食の後、午後は実技試験を行います。これから問題用紙と回答用紙を配布します」
何か懐かしいなこの雰囲気。学生時代に戻った気分だ。
用紙が配布され、開始の合図とともに問題を一斉に解き始める。この鉛筆のカタカタいう音も懐かしい。
いや、そういう場合じゃない。問題を解かないと。
午前中に三科目の試験をこなす。
しかし、これだけの文明を持っておきながら、算術や理学は高校から一部はやはり中学レベルだった。
そうか、魔術があるから算術や理学に詳しくなくてもいいんだ。
逆に人間の文明は魔法がないから数学等の自然科学が発達したのだろう。フランが車や飛行機を知らなかったのも頷ける。
さて、昼食だ。って弁当持ってきていないわ。食堂や売店はあるのか?
壁にかけられた学内の案内図でカフェテリアと売店の場所が分かったので、まずはカフェテリアに行ってみる。
結構おしゃれなカフェテリアだ。ガラス張りで調度品もそこそこのものを入れている。
さて、代金の支払いをどうやったものか。現金を下ろしたことがないので、手持ちの現金がない。
ギルドカードにクレジットは100万クレジット余りあるけどこれどうやって使ったらいいんだ?
俺は傍にいたカフェテリアの職員に聞いてみると、注文した場所の端末にギルドカードを当ててれば支払いができるらしい。
プリペイドカードだな。
俺は壁に貼られたメニューを見てみる。
って……おい、スープパスタあるじゃん。300クレジット。バジリスクのから揚げ定食400クレジット。
値段も学食並みか。ん? つまりスープパスタ300円、定食400円ということで1クレジット1円ということか。
げ! 100万クレジットって100万円じゃん!
つーことはロックゴーレム一体100万円?
何の宝くじだよ、おい!
ギルドで100万クレジットと言われたときはぴんと来なかったけど、この金額になるとちょっと怖い。
俺は本当に貧乏性丸出しだわ。
とりあえず、俺はスープパスタを頼む。
「はい。お待ちどうさま」
食堂のおばちゃんがスープパスタを出してくる。
「どうも。えっとこれを」
俺はギルドカードを差し出す。
「はいはい。ここに触れてね」
おばちゃんが指をさした端末部分にギルドカードを当てると、ピッという反応音とともに300クレジットが引き落とされる。
そして……残高が表示される。
やめてくれ。大金持っていることがわかったら碌な目に合わない。とにかく変なフラグ立てないでくれ。
おばちゃんは次の料理を作っていて残高表示は見ていなかった。
周りは……俺は後ろを見る。
列の後ろの人もよそ見をしていて誰も見ていないようだった。よかった。
空いている4人掛けのテーブル席に座る。結構満席に近い状態だったが、ちょうど席があいたところだった。
スープパスタの味は鳥出汁のスープだ。バジリスクかな?
「ここ、空いていますか? 」
俺が見上げると、透き通るような色白の美女が和服姿で立っている。
「あ……はい、空いています」
彼女は俺の右側に座ると食事をし始めた。
しかし、ここで同じ国の人に会えると夢にも思わなかった。
いや人じゃない。俺もだが。
「あの、お食事中失礼しますが、大八洲皇国から来られたのですか? 和服を着ているのでびっくりしました。まさかここで皇国の方に会えるとは思いもよりませんでした」
「ええ、そうですよ。やはりあなたも八洲から?」
「そうです。よくわかりましたね」
「ええ、だって私雪女ですもの。冬山で沢山『看てきました』からね。筆記の会場であなたを見て、皇国から来たってわかったんですよ」
色白美人の和服の妖怪鉄板 雪女キタァアアア。
どおりで、氷が入った冷やしパスタを食べているし、横にはアイスクリームがあるわけだ。
「そ……そうですか。雪女さんもやはり魔法を使われるんですね」
「ええ。たくさん人間の男を捕らえられるようにしないといけないので。それで貴方は? 見たところ人間のようですが」
「あはは、気のせいですよ。ここに人間なんかいる筈ないじゃないですか」
まさか自分が元人間とは言えないよな。
「それもそうですね。うふふ」
俺は正体がばれないよう話をそらす。
「午後の実技、どんなことするんでしょうね」
魔法実技試験だろ。多分パンデモニウムの練習場と同じような感じかもしれないな。
「気になりますよね。多分魔法を発動して的に当てるとかそんなのじゃないかなと思うのですけど」
「あまり他の方が魔法を使っているのを見たことがないので、僕もドキドキしてますよ」
「最初に魔力量と適性を見るらしいですよ」
「え?そうなんですか」
やべ……また騒動になりそうだ。
俺はささっと食べ終える。
「じゃあ、午後もお互いに頑張りましょうね」
そう言いながら席を後にする。
というかこれ以上話していると身バレしてしまうので半分逃げた感じだ。
(あの男、怪しい。人間の匂いがする。受け答えもちぐはぐだ。)
雪女は正宗の後姿を凝視していた。
教室に戻り席に着く。まだ午後の実技には時間があるので、少し目を
周りでも寝ている者や、本を読んでいる者がいる。
魔力ゲートのコントロールのイメージ、各属性の魔法の発動のイメージ、詠唱のイメージをする。
この1か月間毎日フランと練習したんだ。アスタも付き合ってくれた。
絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「はい。それでは皆さん、今から午後の実技試験に入りますがその前にスケジュールを説明をします。最初に魔力検査と属性検査を行います。そのあと実技試験を実技棟で行います。実技は、検査された魔力を最大限に使ってください。また検査された属性はすべて使用してください。魔法の発動は、詠唱でも術式記述でも特に制限はありません。何か質問はありますか?」
教室に入ってきた試験官が午後の案内をする。
来たよ、例の魔力検査。多分また検査不能が出るだろう。
しかしここで検査できなくて、「お疲れさまでした。さようなら」なんてことになったらどうしよう。でもこんなバカな質問できないし。ええい、ままよ。
「質問が無いようですので、これから移動します。私達についてきてください。荷物はすべて持ってきてください」
受験生全員が実技棟の手前の建物に導かれる。
「この検査室で魔力検査と適性検査を実施します。番号表の末尾数字のブースに行ってください。終了したら結果用紙を持ってこの場所へ戻ってきてください」
俺の番号は25だから、5番ブースだ。2人が前にいる。
「はい、これ結果です。では次の人」
俺の番になった。どうかおかしなことになりませんように。
マジックテスターで魔力を検査するが、結果はこの前と同じだ。
「はい、これ結果です。では次の人」
「え?」
「どうしましたか?」
「検査不能と記載されていますし、適性も検査不能のようですが」
「それが結果です。よろしいですか?」
「あ、はい」
なんというお役所仕事。
検査器の魔力回路また焦げているに違いないわ。次の人申し訳ない。
周りを見ると、さっきの雪女さんがいる。向こうもこっちに気が付いたみたいで目が合ったので軽く会釈しておいた。
やはり彼女は和服美人だから結構目立つ。
使う魔法はやはり水系の氷魔法だろうか?
何気なしに、さっきまでいたマジックテスターのブースを見ると、試験官が集まっていた。
やっぱりね。
「それでは皆さん終わったようなので、実技試験に入ります、実技棟に行きますのでついてきてください」
実技棟に向かって歩き出すと、雪女さんが近づいてきた。
「どうでした? 魔力検査は?」
「散々でしたよ。検査不能ですって。そちらはどうでしたか?」
検査結果を彼女に見せる。
「え……あ、そうですか。私はまあ、その」
彼女は気まずそうになっていた。
「まあ、あんまり出来のいいほうじゃないんで、まあ仕方ないですわ。最後まで頑張りましょうね」
「そう……ですね。頑張ってくださいね」
そういうとそそくさと彼女は離れていく。
女性に縁のない俺にとっては日常茶飯事だが、これ慣れないと結構ショックなんだろうな。
非モテの神様、鍛えてくれてありがとうございました。
実技棟はこの前のパンデモニウムの屋内練習場と同じような施設だった。
屋内練習場をパニックに陥れた悪夢がよみがえる。
「それでは、これから実技試験を行います。5人ずつ1班になってください。番号表の1-5、6-10というようにしてください。終了したらこちらに集まってください」
俺は25番だ。メンバーを見ると、オーガにサイクロプスに獣人にとバラエティーにあふれている。
試験官が受検者名簿を見ながら呼び出しをしている。
「それでは、21番の方、最大の魔力を使ってあの的を狙ってください。属性分使ってください」
おお! ガチの魔法みられる。これは勉強になるかも!
オーガの女性が最初だ。
「炎よ! 煉獄の炎よ! 我にその力を貸し万物を焼き払い給え! ファイアボール」
彼女は詠唱とともに踊りを始める。
オイオイ、実際の戦闘でそれやったら踊っている最中に狙撃されるぞ?
詠唱もそんな大声でやったら敵に気づかれるよ!
彼女の手から火の玉が飛び出し、的に焦げ跡を作る。
その後も4名が詠唱や踊りを使い、水属性や火属性など各属性の魔法を発動していた。
的は焦げ付いたり穴が開いたりしていたが、壊れてはいない。
いよいよ俺の番だ。
「それでは、25番の方。え? この結果は……あの、これでは実技試験ができないので、ここで終了ということで」
試験官は手元にある俺の魔力検査結果から終了と言い渡してきた。
やはりそう来たか。
「あの、せっかくここまで来たので、記念にダメもとでやらせてもらえませんか?」
想定の範囲内だ。俺は粘ってみる。
「うーん。まあ、魔力0の方の実技を見せてもらうと言う事ですね。では全力であの的に何か使える魔法をぶつけてみてください」
試験官はあきらめた表情で許可をしてくれた。
まあ、記念といったのがよかったのかも知れないが。
あ、また他の場所を壊したらまずいから聞いておこう。
「ちなみに、あの的の後ろの壁の向こうは原野ですか?」
「壁の向こうですか? 川ですね。川幅は大体百メートルで、川の向こうは原野で数キロ先に首都防壁がありますが。どうしたのですか?」
「いえ、別に、ちょっと聞いてみただけです。ありがとうございます」
射撃場の壁面は魔力障壁を張り巡らしているようで、的を外れた魔法はそこで打ち消されているようだ。
俺は右掌を的に向け、手首を左手でつかむ。使うのはこの前のパンデモニウムと同じ魔法だ。
ただし、魔力充填スピードを上げるために、発動魔法のプログラミングを変更・圧縮し、発動に必要なイメージも変更している。
最初はイメージから発射まで30秒くらいかかったが、この変更で10秒まで短縮した。
魔力爆縮プログラム起動、術式展開、魔力ゲート全開、爆縮用スーパーチャージャー起動、魔力充填開始、爆縮開始、チャンバー内圧力限界確認、発射用ライフリング回転開始、距離50、目標前方の試験用標的
「発射!」
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
もしよろしければフォロー、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます