第26話 魔法大学校入学試験(2)

 はい、この前のパンデモニウム以上の大騒ぎになりました。

 魔力充填中に「おい……あいつ、詠唱もできないのか?」「検査不能みたいなこといわれていたわよ」「というか、人間じゃないの? うっそー やだー」等々さんざんひそひそ話されてましたわ。

 陰キャ+ボッチの俺は慣れていますが何か? 

 しかし、周りの空気がビリビリと音を立てて振動し始め、右手の周りに魔力集中によるプラズマが発生し始めるとその声は収まり始め、その代わりに「おい……あいつ、無詠唱だぞ」「そんな……」「何? あれ?」という声が聞こえてくる。


 ピカッ! バリバリバリバリ! ドガシャーン!


 発射と同時に、閃光と落雷音が実技棟全体に響きわたり、ビームが轟音を立てながら標的に向かって一直線に進むと、標的の手前で拡大し、両隣の的と魔力障壁が施された壁を粉砕・消滅させ爆音とともに大穴を開け、川を越えて首都防壁に到達しそうになった。

 やばい! またお義父さんに心配をかける! 反射的に俺は右手でビームをコントロールし、上空へビームを曲げる。

 空に吸い込まれたビームが眩い閃光と共に大爆発を起こし、ソニックブームの白い波がドン! という音と共に到達し、実技棟のガラスを粉々に破壊する。


 ……だって全力で撃てって言われたんだもん。


 もう知ーらないっと。そうだ、こいつの名前決めよう。

 うーん、「魔力爆縮砲」にしてみよう。

 ついでにダメ押ししてやろう。


「今のは個人魔法ですので、次は火属性行きますね~」


 俺は、プロパンと酸素を混合するイメージを右手に伝える。

 ガス爆縮プログラム起動、術式展開、プロパン生成、酸素収集、爆縮用スーパーチャージャー起動、ガス充填開始、混合爆縮開始、チャンバー内圧力限界確認、発射用ライフリング回転開始、距離100、目標 前方の川上空


「発射!」


 小さな火の玉が射撃場の壁のあった場所を通過し、川の上空にさしかかった瞬間、爆縮されたプロパンと酸素が反応しドン!と言う音と共に爆発を起こし、火球が発生する。

 火球から発生した爆風が川面かわもに当たり、水のクレーターを一瞬で形成すると、押し出された水が津波のように川岸に襲い掛かる。

 そして水のクレーターの中心に水が戻りザブーンという音と共に巨大な水柱を立てる。

 遅れて射撃場に届いた爆風と衝撃波が心地よい。うーん、もう少し腹に響く衝撃が欲しいところだ。


「次は、水属性行きますね」

「いえ! もういいです」


 試験官があわてて止めに入ってくる。


「でも、試験は使える属性すべてが条件ではなかったでしょうか?」


 あえて直球で質問をする。


「それはそうですが、実技棟どころか大学校全体が壊れてしまいます! 実技試験にも影響が出ています。もうやめてください!」

「わかりました」

「一体いくつの属性が使えるのですか? 魔力量も属性も検査不能でしたよね!」


 魔力量は不明だが、全属性持ちであることを伝える。


「は? 全属性? あなた王族ですか? いえ王族にはあなたのような方は居なかったと」


 試験官は呆れた顔をしている。

 周りを見渡すと、全員が俺をポカーンとした表情で見ている。

 校舎の中から教官らしき人たちがわらわらと実技棟に向かってくる。

 あ……やっぱりやらかしてしまったか? 


「少しは限度を考えてください!」

「全力でとご指示を頂きましたので。それに魔力量がわかりませんから、全力ってどのくらいか判らなかったんですよ。申し訳ございません」


 頭を下げて試験官に謝るが、何か性格悪くなってきてね?


 試験官はがっくりと項垂うなだれている。

「はい、もう結構です。戻ってください。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

 

 俺は試験官に礼をして戻り始めたその瞬間


「マギアヴズリーヴァ!(爆炎魔法!)」


 その掛け声とともに、大爆発が起き、射撃場の床と天井と魔法障壁をかけた壁に大穴が開く。衝撃波が場内を揺るがし、備品をなぎ倒す。

 もちろん的は跡形もなく消し飛んでいた。

 掛け声がかかったほうを見ると……魔法使いらしい女性の周りに魔力の渦が巻いていた。


 試験官に目をやると、膝から崩れ落ちている。

 メガネもずり落ちていて、彼女のグループの試験官の怒号が聞こえる。


「なんで、そんな滅茶苦茶な魔法を使うんだ!」

「あなた、私に全力で撃て言った! それに、彼の魔法に私の魔法が負けたくないです」


 ん? 片言の八洲語だな。


「ここは競技会でも戦場でもない! 実技試験会場だ!」


 担当している試験官が怒号を飛ばす。


「あの、いつもこんな感じで試験会場が壊れるんでしょうか?」

 

 傍にいる試験官は何も言わず、涙ながらに頭を横にブンブンとふる。


「こんなの初めてです」


 実技試験終了後、教室に戻る。


「はい、皆さん、お疲れさまでした」


 心なしか、試験官の魔女さんのほうが疲れているように見える。顔が青い。


「本日はこれで終了です。合格発表は三日後の10時です。忘れ物がないように帰ってください。はあ」


 雪女は帰途につく正宗の後姿を見ていた。


「あの男……すごい。人間の匂いがするのに」


 その日の晩、試験結果の会議で、教官たちが頭を悩ましていた。

 勿論正宗のことである。


「一体、今年の入学希望者は何だったんだ? 特にあの25番の紀伊正宗というのは」


 教官の一人がため息交じりにぼやく。

 仕方がないことかもしれない。

 魔法障壁を張り巡らせた実技棟の壁面を破壊されるわ、実技棟のみならず大学校の校舎のあちこちのガラスを衝撃波で壊されるわと前代未聞の実技試験になったのであるから。

 他の教官からはマジックテスターの内部回路が過大入力で焼き切れていたことが報告される。

 しかも筆記テストが満点であったことから不合格にするわけにもいかず、渋々合格となってしまった。


 一方、入学試験を終えた正宗はパンデモニウムに到着する。


「フラン、ただいまー。終わったよぉ。おぉ アスタ、久しぶり!」


 パンデモニウムに戻ると、フランとアスタが俺を出迎えてくれた。


「お帰りなさいお兄様ぁ。お疲れさまでしたぁ」

「正宗、お帰りなのじゃ。お疲れじゃったの。今アスタとお茶をしていたところじゃ」


 二人を見た瞬間、安心したのだろうか、俺はどっと疲れが出て来たのを感じる。


「甘いものが食べたい……」

「お兄様が甘いものって、やはりお疲れなのですねぇ」


 ふと口にした言葉に、アスタが心配してくれる。

 うん、別の意味で結構疲れたんだよな。


「どうぞ、お兄様」

「ありがとう。いただくね」


 アスタが入れてくれた紅茶が、五臓六腑に染み渡るのが判る。


「それで、どうじゃった?」


 試験の感触を聞いてきたフランに、俺は筆記試験が人間界の中学から高校レベルだったことを伝える。

 勿論実技試験は言わずもがな。

 マジックテスターを吹っ飛ばしたことを話すとすぐにフランが突っ込みを入れてくる。


「まさか、屋内練習場と同じようにしたのか?」


 フランはジト目で見てくる。

 俺は全力で撃てと言われたからそうしたまでと答える。尤もマジックテスターを吹っ飛ばしたおかげで魔力検査の結果が不明だったので、頼み込んで実技試験を受けさせてもらったことも話す。


「あとさ、もう一人実技棟をぶっ壊した受験生がいたよ」


 俺は魔法使いの女性の件を話すと、二人が興味を持ち始める。


「なんと。面白そうじゃの」

「ええ? この前の練習場の件はお姉様から聞きましたけどぉ。そんなに魔力の強い人が他にもいるんですねぇ」

「世間は広いということだよな。でもさ、フランとアスタだったら射撃場どころか大学校そのもの吹っ飛ばすんじゃないのかな?」

「えー? お兄様ぁ。私そんなことしませんよぉ。お姉様だったらやりかねませんけどぉ」


 アスタが悪戯っぽい目でフランを見る。

 確かにフランの魔力ならやりかねんかもしれない。


「ワイバーンを輪切りにしたお姉様、格好良かったですわぁ」

「あ……あれは、つい、勢いでの……」

 

 フランの頬が赤くなっている。

 ああ、やはりこの二人は俺の天使?だ。

 傍にいてくれて、話しているだけで癒される。紅茶が美味い。


「ところで合格発表はいつじゃ? 」


 3日後の10時と言うことを話すと、アスタが3人で見に行こうと言い出した。


 そして3日後。


 魔法大学校の合格発表の前に人だかりができていた。

 フランとアスタはパーカーとサングラスで変装をしている。

 

「25番はと……あったわ」


 合格者の番号掲示板に自分の番号が書かれていることを確認する。

 まずは第一関門突破だ。

 フランはしてやったりと腕組みをし、アスタは嬉しそうに俺に抱き着いてくる。


「二人ともありがとう。これでやっとスタート地点だよ」

「これから一年間頑張るのじゃぞ」

「多分あっという間に過ぎてしまうような気がする」

「お兄様なら大丈夫ですよぉ。頑張ってくださいねぇ」


 ほっとしている俺達に、後ろから声がかかる。


「あら、この前の方。こんにちは。今日はご家族様と一緒なのですね」


 振り向くと和服を着た女性がいた。この前の雪女さんだ。


「あ、こんにちは」

「正宗や。こちらは、何方なのじゃ?」


 彼女は検査会場でたまたまお話しした方で、大八洲から来られた雪女さんだと言う事を話す。


「ほう、大八洲からか。正宗と同じ国じゃの」

「そのお召し物ぉ、とっても素敵ですわぁ。この前お兄様の所に行ったときに買ってくればよかったですわぁ」

「御褒めいただき、ありがとうございます。魔法すごかったですね。びっくりしましたよ。魔力障壁を付与した壁をあそこまで壊すなんて初めてだって試験官が涙ながらに言っていましたから」

「でも、もう一人吹っ飛ばした人いましたよね」

「そうですね。これからよろしくお願いしますね。私も合格しましたので」

「よかった! あ、俺、紀伊正宗と言います。よろしくお願いします」

「私、琉球りゅうきゅう穂乃火ほのかです。よろしくお願いします」

 彼女は一礼をし会場を後にした。


(やはり、あの男、只者ではないな。横にいた二人も変装でごまかしてはいるが、恐ろしいほどの魔力を持っている。面白そうじゃないか。退屈はしなさそうだ。)


「雪女であるか。初めて見たぞ。しかし雪女にしてはずいぶん暑そうな名前じゃの」

「確かに……和服よりかりゆしが似合う感じだね」

「ちょっと不思議系ですわぁ。でもお兄様、非モテの神様とか言いながら早速女性に縁があるんじゃないですかぁ」

「フランを嫁にもらってアスタが妹になった時点で、十分にお釣りがくるんだけど。これ以上になると逆に罰が当たるかも」

「もう、正宗や、歯の浮くようなことを言うでない」

「お兄様ったらぁ」

 ふと気が付くと周りの連中がこちらを見ている。

 静かにしていたつもりだが、これ以上いると二人の正体がばれてしまう。

「やば、そろそろ戻るか」

「そうじゃの」


 部屋に戻ると入学案内が届いていた。大学校への入学式は十日後とのこと。学費は1年で50万クレジットか。一通り目を通すと、あることに気が付いた。

「王立魔法大学校」


 ヲイ、これって。


「フラン、魔法大学校って王立と書いてあるけど」

「そうじゃ。父上が建てたものじゃ。父上は教育熱心で、国を盛り立てるのは豊かな教育じゃと言っておっての。あの大学校はの、魔法に特化した単科大学みたいなものじゃ。もちろん大学にも魔法の専門課程もあるがの」

「ひょっとして、俺、室内練習場で飽き足らずに、またお父様が建てたものぶっ壊したってわけ? 」

「そういうことじゃの」


 無意識のうちにやらかしてしまった。もうお義父さんに合わせる顔がないわ。

 いつの間にか膝をついていた。


「お兄様、顔色がよろしくありませんわよ」

「確かに、顔が悪い、いや顔色が悪いぞ」


 もうフランに突っ込む気力も失せた。


「ちょっと気が遠くなってきた。多分この前の試験のことも、お父様に伝わっているんだよね」

「らしいぞ。だが笑っておったわい」


 なんという豪気な御方。


「俺の素性がばれたら、コネで入ったとか裏口とか言われないかな」

「大丈夫ですわぁ。あそこはそういうことを一切禁止しろと、伯父様自ら言っておられましたからぁ」

「ならいいんだけど……」

「細かいことを心配するでない! どっしりと構えておけばよいのじゃ」

「そうだね。入るまでまだ時間があるから勉強しておかないとね」

「おお、正宗、その意気や良し! さすが妾の夫じゃ! そうと決まれば明日からギルドでクエストを受けるのじゃ。実戦で魔法を使えば勉強にもなるし、お主の収入にもなる。一石二鳥なのじゃ」



 〜〜〜あとがき〜〜〜

 この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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