第18話 正宗、魔界へ拉致される

「親戚同士を合わせるのは、結納の時かなあ」


 俺はお互いの親の顔合わせのタイミングを考える。


「結納とは何じゃ?」


 結納の儀式はこっちでやるんだろうなぁ。


「大八洲だけかもしれないけど、お互いの両親が会って、子供たちの結婚を約束するという儀式の一つだよ。ここで結納金とかお互いに贈り物をするんだ」


 結納の内容をフランに話すが、やはり大八洲だけの習慣らしい。


「ほう、変わった習慣じゃの」

「でさ、魔界にも結婚披露宴あるの?」

「あるわよぉ」


 魔界の結婚披露宴ことを聞いてみると、招待者の前で誓いの言葉を立てて、あとはみんなで大騒ぎするらしい。

 するとフランは人間界の結婚披露宴がどんなことをやるのかと聞いてくる。


「こんな感じかな」


 タブレットで結婚式と披露宴の動画を見せる。


「おお! 真っ白できれいなドレスじゃの。これは何というのじゃ? あとこの大きな白い塔のようなものに、ナイフを突き刺さて居るがこれはいったい何をしているのじゃ?」

「ウエディングドレスという、お嫁さんが結婚式で着る衣装だよ。でこれがウェディングケーキだよ。これはプラスチックで作られていてナイフを入れる部分だけがクリームをつけているんだ。結婚して最初の夫婦の仕事ということで、やっているみたいだね」

「お姉様ぁ、ウエディングドレスお似合いになると思いますよぉ。私もこのドレス着てみたいですぅ」


 二人は結婚式と披露宴の動画を食い入るように見ている。

 やはりどの世界でも女性は結婚式にあこがれるものだろう。


「妾も、このドレスを着てみたいのう」

「結婚式こっちの世界でやるなら着られるけど……いやそもそも、式の前にさ、フランのご両親に挨拶に行くって話だったような」

「おう、そうじゃ。脱線した」

「俺の親父たちどうするん? 連れていけないぜ」

「こっちで式を挙げればいいのじゃ。妾の両親もこちらに来させる。アスタのご両親も来てもらおうぞ」

「をい! ちょっと待て、悪魔やヴァンパイアが本当に降臨したらえらいことになるぞ」


 それこそ親父もお袋も腰を抜かすわ。

 いやそれだけでは済まないな。


「大丈夫じゃ。人間の姿にさせるのじゃ」

「うーん、まあそれなら大丈夫かも。フランもアスタもどう見ても人間にしか見えないから」


 ちなみに、部屋の中では、フランは角と尻尾出しています。アスタも牙を出しています。


「それでは、行くかの」

「ちょ、旅行の準備をしないと」


 フラン、いきなりすぎやしませんか?


「お姉様ぁ。あのぉ私、アキハバラと言う所で八洲の文化を見たいのですがぁ、駄目でしょうか?」

「おお、そうじゃった。正宗や、アスタにも秋葉原を見せてやってくれぬか?」

「わかった。あとあそこ以外にもいいところがあるから見に行こうか」


 折角だから、魔界から来た二人を都内観光に連れて行こうと考える。


「よかった。うれしいです。お兄様いろいろ見せてくださいねぇ」


 アスタが嬉しそうな顔をしてくる。


「あのさ、アスタ、今日は日差しがきつそうだよ。日焼け止め塗っていく? フランもさ」


 俺はスキーで使っていた日焼け止めクリームを差し出す。


「日焼けしたくないのでぇ、日傘と手袋を持っていきますぅ」


 アスタはディメンジョントランクから日傘と手袋を取り出した。

 アスタの白いお肌は少しの日焼けでも目立つだろうなぁ。


「妾はその日焼け止めを使ってみるのじゃ」


 案の定、秋葉原ではフランを連れて行った時と同様に大騒ぎになった。

 当然、我が同志から「リア充爆発しろ」「もげてしまえ!」の怨嗟の声を聴く羽目になった。

 そのあと、観光バスに乗り東京名所のツアーをする。

 二人はキラキラした目で人間界の景色を眺めていた。

 その表情を見ているこっちまで楽しくなって来たよ。


「ただいまぁ」

「疲れたぁ。でも面白かったのじゃぁ」

「本当にすごかったですわぁ」


 俺たちは卓袱台を囲み夕食を取り始める。

 本当ならファミレスあたりで済ませたかったのだが、アスタのことを考えると家で食べたほうが他の目を気にしなくて済む。

 俺とフランはお弁当を、アスタには血液の代わりにトマトジュースを買って来た。


「このトマトジュースというのぉ、おいしいですわぁ。向こうでも広めてみたいですわぁ。でもぉ、やっぱりお兄様の血のほうが美味しいですわぁ」


 アスタが俺の眼を見ながら微笑む。

 おおおお!俺の血が美味しいと!

 お兄ちゃん幸せです!


「このチキンのディアブロ焼きという弁当、なかなか美味じゃて。このディアブロ焼きというのはどういう意味じゃろうか」

「ディアブロってのは、イタリアという国の言葉で悪魔を指すから、えーと、悪魔焼きか」

「悪魔焼き……妾は共食いか?」


 フランが不思議そうな顔をしている。

 俺はググって意味を調べ、フランに説明する。


「悪魔に焼かれた罪人のように……なるほどのぉ。上手いこと名前をつけるわい。実際に旨いものじゃしの」


 フランは納得したようで美味しそうにチキンを食べていく。


「アスタ、一噛みする?」


 トマトジュースを飲んだアスタに向かって俺は、服の襟をずらして自分の首を見せる。


「うふふぅ。嬉しいですぅお兄様ぁ」

「まったく、この妹バカは」


 フランがニヤニヤしている。


「ついでに、嫁バカで」

「な……まったくもう……」


 俺の応酬にフランは顔を真っ赤にして照れ臭そうに弁当を食べている。

 アスタがすっと俺の傍により「食事タイム」に入る。

 うん、やっぱり食事は皆で楽しくだね。


「メイド喫茶って楽しかったですわぁ。それにおしゃれな店がいっぱいでしたわぁ」

「それに、このお弁当もそうじゃが、美味しそうなものが多かったのぉ」


 どうやらフランとアスタは初めての大八洲皇国に興味津々のようだ。


「お兄様ぁ。私が知っている人間界とは全く違っていますわぁ。この国って実は別の星にあるのですかぁ?」

「アスタ。よくわかったね。そう、ここは惑星大八洲皇国なのだ」


 俺はネットのネタをアスタに話す。


「まったくお主は。アスタや、まともにとるでないのじゃ」

「判っていますわぁ、お姉様ぁ」


 アスタがケタケタ笑っている。


「ところで、魔界ってどんな所なの?」

「ううむ、上手く言えぬが、まあ来てみればわかるのじゃ」

「そうですねぇ。お姉様ぁ、いつぐらいに行きますぅ?」

「そうじゃのぉ。これを食べてひと段落したら、行くのじゃ」

「えええ? ちょっと早すぎない? 明日は連休だからいいけど、明後日から俺会社だし。ご両親へのお土産はさっき買ってきたけどまだ旅行の準備していないよ」

「大丈夫じゃ。向こうから戻ってくるときに、時間を調整すればよいのじゃ。魔界に1000年いても、戻ってくるときに今の時間に戻ればなんということはないじゃろうて。旅行の準備といっても、必要なものをディメンジョントランクに放り込んでおけばよかろうて」

「フラン、時間軸戻せるの?」


 それって一種のタイムマシンじゃないか?


「妾を誰と思っているのじゃ?」


 フランが胸を張る。


「美少女魔法使いフランちゃん!」

「マハリクマハリ……もうええわい!」


 フランがハリセンで俺に突っ込みを入れる。

 横でアスタが腹を抱えて笑っている。


「アスタの食事も終わったし、帰るとするのじゃ」

「はい、お姉様。でもまたこっちへ遊びに来たいですわぁ」

「ここはいつでも来られるようにしておくのじゃ」


 フランはディメンジョントランクから魔法使いが使うような杖を出す。

 が、杖にはすこし短いようだし、先端部には丸くて輝く石がフワフワと一定の距離を保って浮遊している。


「フラン、それ何?あとその石って磁石か何かで浮かせているの?」

「これは、時空固定ピンというものじゃ。さっき言うたようにこれがあれば、魔界から戻ってくるときに、今の時間に戻ることができるのじゃ。この先端についているのが魔石じゃ」


 おお!魔石って本当にあるんだ。


「ところでさ、フラン、向こうで人間だってみられて、えらいことされないか?」

「何も心配するでない。大丈夫じゃ。では行くのじゃ」


 フランはそういうや否や魔法陣を展開する。


「え、ちょっと待ってフラン」


 が既に時遅し。魔法陣の中に体が吸い込まれていく。

 こうして押しかけ女房に俺は魔界へと拉致られてしまった。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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