【特別短編1】バック・トゥ・ザ・サマーフェスティバル!
第1話 サマーバケーション
紅葉が色づき、色なき風が秋の到来を告げる頃。
私は駒王学園へと転校してきた。
そこで色々な人と出会い、様々な事件に巻き込まれていくわけなのだが……。
悲しいことに、私がトラブルに遭うのは今に始まったことではない。
これから振り返るのは、転校前に遭遇した数ある事件の一つ。
彼女と共に駆け抜けた一夏の物語である――
―○●○―
夏休み。
それは全ての学生が、心から待ち焦がれていた瞬間。
海、花火、BBQ、それから……それから……なにか色々!
とにかく楽しいことが山ほどあるのが夏休みなのである!
私――宮本絶花は決意していた。
この夏に今度こそ友達を作るんだ。
そして友達と一緒にたくさんの思い出を作ってみせる、と。
「……それが、どうしてこんなことに」
照りつける太陽、青空に響くセミの声、顎先へ流れた汗を手で拭う。
私は学校の制服に身を包み、ひとり寂しく学校へと向かっていた。
「……先生から呼び出し、しかも夏休み早々に……い、嫌な予感しかしない」
私の地元には大きな港があり、世界の玄関口として、日本の近代化を進めた歴史がある。
西欧の文化も多分に持ち込まれ、異国情緒ある国際都市といったところ。
つまり観光業も盛んであり――登校中にも、たくさんの旅行者とすれ違うわけで。
「いいなぁ……皆楽しそうだなぁ……」
羨まし恨めしと歩いていると、目的地である私の中学校に到着した。
校舎は明治時代に建てられたそうで……ルネサンス建築様式とか言ってたかな?
「「「「ファイ! オー! ファイ! オー!」」」」
時代めいた校門を過ぎると、体操着を着てランニングに励む少女たちが見える。
「私も剣道部とか、入ればよかったのかな……」
いいやダメだ。身体に宿した異能の問題もあるじゃないか。
そ、それに、私なんかが上手く馴染めるとも思えないし……。
「はぁ……」
いつまでも見つめていると、太陽より青春の眩しさに目を焼かれそうだ。
まずは呼び出された教室へ行こうと下駄箱のある出入口へ赴く。
「――今日も部活に来れないんですか!?」
「――みんな先輩のこと待ってますよ!」
「――大会も近いですし、またご指導してほしいです!」
すると出入口の扉の所に、一年生らしい女生徒が集まっている。
彼女たちは、なにやら一人の少女を取り囲んでいるようで……。
「――ごめんね。しばらく部活には参加できないの」
水のように透き通った声が響く。
その言葉に後輩たちは「えぇー」と残念そうに口を揃える。
よっぽど慕われている先輩なんだな……っと、立ち聞きしている場合じゃない。
私は入り口を塞ぐ形になっている彼女らに近づく。
「す、すいません、そこを通していただけると……」
なるべく優しく、丁寧に、驚かれないようにとお願いをした。
「え、あ、ごめんなさ――」
一年生らしい女生徒のひとりが私の方に振り返る。
しかし彼女はこちらを見た瞬間、一気に顔を青くして後ずさった。
「み、みや、宮本、先輩――……!」
そして恐怖でいっぱいという表情で固まってしまう。
他の子も私の存在に気づき、先ほどまでのワイワイとした雰囲気は消え去る。
ラブコメディ映画を観ていたのに、突然ホラー映画が始まってしまったみたいな?
「……あの、通してもらえると」
「っ、っひゃ、ひゃい! も、もも、申し訳ありませんでした!」
「…………」
「い、命だけは、どうかお助けを!」
もう慣れたけど、私ってそんなに怖いですか?
これでも、驚かれないように慎重に声をかけたんだけどな。
涙目になっている子もいる始末で、泣きたいのは私の方ですよ……うぅ……。
「――あれ、宮本さん?」
一年生たちの中心にいた生徒と目が合う。
「お久しぶり」
この後輩たちが先輩と慕っていた人物は、なんと私のクラスメイトであった。
青みがかった黒髪に、均整の取れた容姿、フレンドリーでありながらどこか気品の感じる所作は――なるほど年下が憧れるのも分かる。
「もしかして覚えてない? わたし、同じクラスの
「いや、その……」
もちろん覚えている。
しかしまともに会話したのは初めてであり、緊張してしまって上手く返事ができない。
こ、これじゃあ、本当にクラスメイトを覚えてないみたいな空気で……。
「あはは。あんまり喋ったことないし、わたしは学校も休みがちだし、思い出せないのも無理ないよね――あ、ごめん、入り口塞いでて邪魔だったよね?」
いや、覚えては、覚えてはいるんです!
でもコミュ力が低すぎて対応できてないだけで!
「……す、すいません」
私はそんなつまらない挨拶しか言えず、一瞥してから校舎の中に入っていく。
後輩たちに慕われ、キラキラした彼女は、自分とは別世界の人間だ。
世界が違うなら会話が成立しなのも当然。仕方のないことである。
……というか、そう思わないとやっていけないっ!
「――み、宮本先輩、すごいオーラだったね」
私が靴を履き替えていると、まだ扉の傍にいる一年生たちの興奮が聞こえてくる。
「――あたし、今も心臓バクバク」
「――例の怖い先輩だよね? たしか不良を百人斬りしたっていう」
「――絶対に百人どころじゃないよー! あの顔は千人いってるね!」
「――一年の中には格好いいって言う子もいるけど、まず関わらない方がいいね」
お分かりだろう。この学校で私がどんな風に思われているか。
「相変わらず、ひどい言われようだなぁ……」
たまに決闘をすることもあるけど、それにしたって百人も斬っていない……たぶん。
とにかく数の問題ではない! 変な勘違いをされていること自体が問題なのだ!
「できれば誤解を解きたいけど……」
いっそ勇気を振り絞って、直接ガツンと言うべきなのだろうか。
「「あっ」」
考え込みながら廊下を行くと、見知らぬ女生徒とちょうど鉢合わせてしまう。
この場合、よそ見をしていたことを謝罪してすれ違えばいいのだが――
「っひ! み、宮本、ぜっ――」
バタン! 彼女は気を失ってしまった。
「…………」
絶句。
私と遭遇しただけで、顔を会わせただけで、失神してしまったと?
連発するショックに私こそ倒れたいよ。
私は彼女を保健室に運び、養護教諭の方に「夏バテみたいです」と言って早々に去る。
「……直接誤解を解くのは、やめておいた方がいいかも」
いきなりとはいえ顔を合わせただけで失神されたのだ。
話しかけようものなら、不登校にでもなってしまうかもしれない。
「……友達、本当にできるかな」
夏休みにしたばかりの決意が早くも揺らぎ始める。
「いやいや、弱気になっちゃだめだ」
こうして保健室に運ぶという善行も積んでいるのだ。
もし神様がいるのなら、きっと私の行いを見ていてくれているはず!
「夏休み、頑張るぞ……!」
しかしその後、またも宮本絶花が女生徒を保健室送りにしたという噂が流れ……。
善行をしたのにこの仕打ち。なんで神様は仕事しないんだと考えハッと気づく。
――神様、もしかしてあなたも夏休み中なんですか!?
《つづく》
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