第41話 明るい未来へ

 ウォルトンとの決闘を終えると、俺たちは図書館の書庫へと走る。

 中へ入ると、数人の司書がすでに待ち構えており、書庫の鍵が開け放たれていることを告げられる。

 トリシア会長も言っていたが……クレアは俺たちを待ってくれているみたいだな。


 以前は会長の(魔力によって強化された)怪力でようやく開けられた扉だったが、今回はすんなりと開けて中へと入れた。


 そこには涙で目を赤く腫らしたクレアが待っていた。


「クレア……」

「レーク……」


 互いに名前を呼び合い、近づいていく。

 一メートルくらいにまで接近すると我慢しきれなくなったのか、クレアは俺の胸に飛び込んできた。


 この行動にコニーは驚いて抗議の声をあげようとするが、それをルチーナが阻止。口を手で覆いつつ、足もガッチリ絡めて動きを封じ込めている。

 抵抗を試みコニーであったが、「コニーさん、今回ばかりはご容赦を」というルチーナの声を耳にするとハッとなり、やや不満げではあるもののそれ以上は何も言わなくなった。


 ――改めて、俺はクレアを抱きしめる。


「本当に助けに来てくれるなんて……」

「約束しただろう? ただ、もっと早く気づけていたらよかったのだが……長く待たせてしまったな」

「そんな……こうして助けてくれたんだから……」


 感情が高ぶってきたようで、最後の方は声になっていなかった。


 そんなクレアの手を引き、俺は彼女を図書館の外へと誘う。

 最初は戸惑いを見せていたが、彼女自身も出たいという希望は持っていたため、少しずつだが前進していった。


「そんな慎重にならなくてもいいのに」

「だ、だって……」

「前は工房までひとりで来られたじゃないか」

「あの時はいろいろと気になることがあったから」

「気になること」

「も、もういいでしょ!」


 照れ隠しのつもりか、クレアは走って図書館を出ていく。

 いつもなら「館内ではお静かに」と注意する司書も、この時ばかりは何も言わずに笑顔で送りだしていた。


 彼女たちもクレアとウォルトンのやりとりについては薄っすら勘づいていた節があったらしく、元気になった彼女の姿を見てほっこりした様子をのぞかせている。


 俺は司書たちに「これからは大丈夫だ」と目配せをした。


 どこまで伝わったかは分からないが、とりあえずクレアが元気になった姿を見せられたのはよかった。


 ルチーナやコニーと一緒に後を追って外を出ると、クレアはすぐ近くで立ち尽くしていた。


「クレア? どうかしたのか?」

「な、何でもないよ。何でもないはずなのに……どうしてかな。涙が止まらないや」


 確かな自由を噛みしめるように、クレアは大きく両手を広げて深呼吸をする。


 狭くて薄暗い書庫の中で、兄のために魔草を育て続けていた。

 望んでいなかった生活がやっと終わり、これからは自分のために魔草を作ることができるという喜びを全身で感じ取っているようだ。


 クレアが元気になってくれたのは俺としても喜ばしい。

 彼女には我がギャラード商会の魔草薬部門で活躍してもらわなければならない優秀な人材でもあるからな。


 ……ギャラード商会、か。


 今回の一件でメルツァーロ家との関係は最低最悪にまで落ち込むな。

 

 長期的に考えたら、クレアに任せた方がリスクは少ない。

 だが、父上は父上でこれまで築き上げてきた信頼があったはず。


 俺としては説得に全力を注ぐつもりだが……下手をすれば勘当されるかもしれないな。


 まあ、そうなったら今のメンツで新しい商会を立ち上げればいい。


 少なくとも、今いるメンバーを招集するためならば最悪そうなっても仕方がないと腹を括っていた。

 ルチーナとコニーを引き入れた際は特にトラブルは発生しなかったが……果たして、どうなるか。


 ある意味、本当の戦いはここから始まるのかもしれない。

 まあ、どんな結果になろうと俺のやることは変わらないがな。

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