第40話 約束されたオチ

 戦いは終わった。

 死ぬほどあっさり終わった。


 歓声もなく、ざわつきもなく。

 ただただ静かに時間だけが過ぎていく。


 それくらい今回の決闘は予想を超える結果となったのだった。


 下馬評では俺の方が不利という見方が多かったものの、終わってみれば挨拶代わりのはずだった右ストレートが決勝打となった。


勝つには勝ったが、当初の計画ではまだやるべきことが八割くらい残っており、俺は有り余る感情の処理に困り果てていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 俺はすでに後片付けに入ろうとしている教職員たちへ向かっていく。


「こんなんじゃまだやり足りない! そいつにはまだまだこれから吐きだしてもらわなくちゃいけないんだ!」


 メルツァーロ家が隠してきた悪事を大衆の面前でぶちまける――そんな俺の計画は「想定以上にウォルトンが弱かった」という信じがたい計算ミスにより破綻しかけていた。


 教職員たちの制止を振り切ってヤツへ近づくと白目をむき、ピクピクと小刻みに痙攣をしていた。おまけにこいつ……漏らしてやがる。


 だが、そんなことは関係ない。

 何を垂れ流していようが、まだまだ踏ん張ってくれなくちゃ。


「起きろ! まだ決闘は始まったばかりだぞ!」

「落ち着くんだ、レーク・ギャラード! ウォルトン・メルツァーロはもう戦えるような状態じゃない!」

「君の勝ちだ!」

「っ! お、俺の勝ち……」

 

 その事実を耳にして、俺の動きは止まった。

 そうだ。

 これでクレアは救われる。


 今の戦いも、きっと見ていてくれたはずだ。

 

 会場も徐々に冷静さを取り戻していき、周囲の生徒たちの関心はあまりにも無様に散り、おまけに失禁までしてしまったウォルトンに対して冷ややかな反応を見せ始めた。


「いくらなんでもあっさり負けすぎだろ」

「失禁とかないわぁ」

「あれだけ偉そうな態度を取っておきながらたった一発で戦闘不能とか」


 先ほどまでの熱気(特に女子)はどこへやら。

 

 冷めきった声と視線が失神中のウォルトンへ注がれる。

 これでもう、ヤツは今までのように偉ぶれないだろう。


 おまけに魔草の力にも頼れなくなり、成績を維持していくのも難しくなっていく。

 そうなれば、こちらにちょっかいをかけてくる暇もなくなるな。

 

 荒れていた心が穏やかになりつつなってくると、それを見越したかのようにトリシア生徒会長が拍手をしながらやってくる。


「お見事な戦いぶりでしたわ」

「呆気なさ過ぎて拍子抜けというのが正直な感想ですがね」


 ため息交じりに語ると、トリシア会長は「ふふ」と小さく笑ってから続ける。


「わたくしもまさかあそこまで弱いというのは想定外でしたわ」

「戦ってみて分かったのですが、魔草の力を借りつつもその力を完全に引き出してはいなかったようですね」

「クレアならもっと上手く戦えていた、と?」

「少なくとも俺はそう思います」


 これに関しては嘘偽りのない俺の意思。

 そして、トリシア会長も同じ考えだった。


「今後はあの男に代わってそのクレアが存分に力を発揮してくれるはずですわ」

「そうですね。……あの――」

「書庫へ行くのですね?」


 さすがは会長――というか、話の流れ的にこちらの思考は見え見えか。


「はい。クレアに会ってきます」

「今ならきっと書庫の鍵も開いているでしょうし、すんなり中へ入れるはずですわ」

「分かりました」


 俺は事後処理を会長に任せ、ルチーナとコニーを連れて書庫へと向かうのだった。

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