第30話 怪しい兄妹

 コニーの状態が元通りとなり、平穏な学園生活が戻って――来るとよかったのだが、そもそも入学してから割とトラブル続きだったことを考えるとまた近いうちに何かあるのではないかと勘繰ってしまう。


 とりあえず何もないことを祈りつつ、魔封石の指輪を送った次の日はトリシア生徒会長に経緯を報告するため生徒会室へとやってきていた。


「話はクレアからも聞いていますわ」


 図書館に引きこもる禁忌書庫の魔女ことクレア・メルツァーロがすでに報告(という名の愚痴)していたらしく、生徒会長はほとんど詳細を把握していた。


「まったく、わたくしに愚痴をこぼすくらいなら授業にちゃんと出て留年しないよう努力をすればいいのに……よっぽど指輪を渡されたのが堪えたようですわね」

「しかし、彼女の家柄を考えれば、もっとちゃんとした宝石をあしらった指輪を買えるはずでは?」

「あなたの言い分は理解できるけど……あの子にとって、値段とか豪華さは判断基準に含まれていませんわ」

「なら、何を基準に?」

「それをわたくしの口から語るのは野暮というものですわ」


 よく分からんが、クレアにも何か穴埋めをした方がいいのだろうな。

 これについては指輪以外で何か考えるか。


「まあ、クレアに元気が戻ったというのは友人として喜ばしいことですが」

「そういえば、それもずっと気になっていたんです。どうしてクレアは図書館の一角に引きこもっているのですか?」


 本人に直接尋ねるのはちょっと抵抗があったので、生徒会長へ聞いてみる――が、やはり答えは想像通りのものであった。


「それもわたくしの口から語ることではありませんわね」

「まあ、そうですよね」

「ですが、ヒントをひとつあげましょう」


 トリシア会長はそう告げるとゆっくり窓へ移動し、何やら外を指さす。

 俺も窓に近づいて見てみると、そこにはひとりの男子生徒とそれを取り囲むように複数人の女子生徒が。

 絵に描いたようなハーレムの図が広がっていた。


 ただ……その男子生徒の顔がなんとなくクレアに似ているような気が。


「あの男子生徒……クレアに似ていませんか?」

「当り前ですわ。彼は――クレアの兄のウォルトン・メルツァーロですもの」

「っ!? ウォルトン……そういえばいたな、そんなヤツ」


 思い出される過去の記憶。

 そうだ。

 クレアには兄がいた。


 エリート思考が強くてプライドが高い。

 何よりも面子を重んじるお手本のような小物。


 それが俺の抱くウォルトン・メルツァーロの印象だ。

 なんとなくクレイグ先生に似たスペックだな。


「しかし、ヤツは落ちこぼれという噂を耳にしていましたが……学園に入れたのはひとえに聖院の力ですか?」

「そういうわけではありませんわ。彼には魔草を扱う優れた技術と知識があるようですわ。学園側もそれを認めているという話」


 ウォルトンが魔草薬の扱いに長けている?

 俺が幼い頃から聞いていたヤツの情報とは相違があるな。


 そりゃあ、努力をして力をつけたという可能性もなくはないが、あの態度を見る限りそれはなさそうに思えるのだが。


「彼が気になりますの?」

「……そうですね。俺の知るウォルトン・メルツァーロとはあまりにも違いがありすぎます」

「わたくしも同意見ですわ。もっとも、彼の過去については何も知りませんが、少なくとも本当に魔草薬に精通しているかどうかは眉唾物と思います」

「では、学園側がメルツァーロ家に忖度を?」

「その可能性もないでしょう――が、必ず何かカラクリがあるはずですわ」


 カラクリ、か。

 トリシア会長もヤツが実力で好成績を修めているとは思っていないらしい。


「妹のクレアからは情報を得られなかったんですか?」

「あそこの兄妹は長らく疎遠らしくて、彼女も詳しいことは分からないそうですわ」


 言われてみれば、昔から仲は良くなかったな。

 俺とクレアは気が合ってよく遊んだけど、兄のウォルトンは誰ともかかわろうとしなかったし。


「よければ調べてみてくださらない?」

「どうして俺が」

「あら、てっきり彼のことが気になっているのだとばかり」

「……まあ、少しくらいなら」


 相変わらず人の心がのぞけるんじゃないかってくらい鋭いな、会長さんは。

 とはいえ、まったく気にならないかと言えば嘘になる。


 俺は魔草薬師としてクレアを商会へ勧誘するつもりでいるが、兄のウォルトンがちょっかいをかけてくる可能性はあるからな。


 ルチーナとコニーにも声をかけて身辺調査と行くか。

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