第13話 学園舞踏会の光と闇

 ついに舞踏会当日の夜を迎えた。


 会場は学園の敷地内にあるダンスホール。

 基本的に参加するのは一年生のみだが、一部生徒会の人間が準備などにかかわっているようで会場入りをしている。


 その中には御三家の一角を担うハートランド家の御令嬢――トリシア・ハートランド生徒会長の姿もあった。


 今後の打ち合わせのためか、教師陣と何やら話し込んでいるようだが……さすがに全身から放つ大物オーラはどの新入生とも比較できない。

 

 ちなみに、俺は控室前で待機している。

 待っているのはドレスへ着替え中のコニー。


 コニーに限らず、女性陣は支度に時間がかかるため、会場入りしている男子生徒同士でまずは軽く会話を交わすのだが、周りから煙たがられている俺にはなかなか厳しい時間となる――と、思っていたが、どうも違ったらしい。


「やあ、レーク。少し良いかな」

「聞いたよ、例の事件」

「魔法が使えないのによく立ち向かっていけたな」


 クレイグとの一件を耳にしている男子生徒たちから声をかけられるケースが相次いだ。


 これは……予想外だ。

 もちろん、例の事件を解決させた好影響は期待していた。


 だが、やはりそこには貴族と平民という差がある。


 現に、この舞踏会に参加している学生は俺とコニーを除いてみんな貴族だったり金持ちだったりと実家に力のある生徒ばかりだ。


 だから認められるにしても時間は要すると踏んでいたのだが、まさかこれほど早く周囲の評価が変わるとは思ってもみなかった。


 俺はここを攻め時と分析する。


 ここで好感度を上げ、信用させてからヤツらの弱みを握って裏から支配する。

 その数が増えれば増えるほど、俺の計画――【楽して儲けよう】という道につながるのだ。


 というわけで、男子たちと楽しく会話を繰り広げていたら控室からルチーナが出てきた。

 

「おまたせいたしました、レーク様」

「コニーの支度が終わったか?」

「はい」


 そう言った彼女の後ろから、黄色いドレスに身を包んだコニーがやってくる。

 本来、平民であれば一生着ることのないだろう高価なドレス。

 話し込んでいた俺や男子たちの視線は――大きく開かれた彼女の胸元へと集中する。


「す、凄い……」

「コニー・ライアル……平民と侮っていた……」

「レークはそれを見抜いていたというのか……」


 ふっふっふっ、恐れ入ったか。

 俺は何もしていないが、なんだか気分がいいので思わず笑みを浮かべてしまう。


「コニー、よく似合っているよ。控室で見た時もよかったが、やはりダンスホールでその姿を目の当たりにするとより映えるな」

「あ、ありがとうございます」


 照れ笑いを浮かべながらもニッコリ微笑むコニー。

 これには一緒にいた男子たちも心を撃ち抜かれたようだ。


 ――だが、残念だったな。

 羨ましがっても遅い。

 すでにコニーは我がギャラード商会と契約済みなのだからな。


 俺のためだけに働く勤勉で可愛い社畜二号なのだ。


「さて、それじゃあ行こうか」

「うん!」


 エスコートするため、俺はコニーの手を取った。

 背中に集まる多くの視線をかいくぐるように進み、ダンスホールへ。


 まずはトリシア生徒会長の挨拶から始まる。


「改めまして、ようこそ――王立フォンバート学園へ」


 あの会長さんのことだから、もっとぶっ飛んだ挨拶になるかと思いきや、実に平凡でありきたりはものだった。


 あえて控えているのか?

 本当に読めない人だ。


「今日はゆっくりとお楽しみください」


 最後にそう締めると、すぐに音楽が鳴り始めた。

 楽団による生演奏という贅沢な仕様……さすがは王立学園の舞踏会だ。

 

「コニー、緊張しているか?」

「さ、さすがにこれだけ凄い舞台だと……」


 この日のためにコニーはダンスの猛特訓を積んでいた。


 ちなみに講師はルチーナ。


 彼女も元々は鍛冶職人であるため、ダンスとは無縁の人生だったらしいが、うちのメイド長がみっちり仕込んだらしく完璧にこなしていた。


 うちのメイド長は厳しい人だからなぁ。

 俺も幼い頃はマナーやら立ち振る舞いやらいろいろとしごかれたものだ。


 彼女の場合は何をやっても飲み込みが早い天才タイプのようだ。

 一方、コニーは覚えが悪くても人一倍努力してものにするタイプ。


 ルチーナとは対照的であるが、ふたりの相性自体はいいようで離れた位置から眺めていると仲の良い姉妹のような空気さえ漂ってくる。


「ど、どうかな?」

「いいぞ。だが、ダンス中にお喋りは控えた方がいい。舌を噛むかもしれないからな」

「う、うん」


 最初は緊張もあってか動きの鈍かったコニーだが、徐々に持ち直し始めた。


「その調子だ」

「は、はい」


 時が経つにつれて慣れも出てきたのか、ステップも軽快になってくる。

 なかなか様になっているじゃないか。


 会場内では唯一の平民ペア。

 例年通りなら見向きもされないはずだが、先日のクレイグとの一件で俺とコニーの認知度は上がっていた。


 そういった理由もあってか、少しずつ視線を感じるようになる。


「なんだか夢の世界にいるみたい」

「夢では終わらせない。これが当たり前であるようにしてみせる」

「レーク様……」


 決まったな。

 我ながら最高のタイミングでいいセリフが出たものだ。


 その後、舞踏会はこれといったトラブルもなく終了――いや、トラブルというほどでもないのだが、どうもこの催しでは会を通して目立ったふたりに【ベストペア賞】なるものが贈られるらしく、なんとそれに俺とコニーが選ばれたのだ。


「よく分からないけどやったよ、レーク様!」

「おめでとうございます、レーク様、コニーさん」

「えへへ~」


 周囲から注がれる注目と拍手に喜ぶコニーと祝うルチーナ。


 ……悪くない。


 これでまたひとつ俺の評価が上がるだろうし。

 もしかしたら、選考委員のひとりであるトリシア生徒会長の特別な計らいがあったのかもしれないが……こればっかりはどれだけ深く考えても決定的な証拠がない限りハッキリとはしないか。


 まあ、いい。


 ここは浮かれておいてやるとするか。

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