第12話【幕間】お嬢様の思惑

「……少し強引だったかしら」

 

 逃げるように試着室を出ていく彼の背中を見つめながら呟く。

 

 レーク・ギャラード。


 彼の実家は国内最大級のシェアを誇るギャラード商会。

 その情報網と仕入れ先の豊富さゆえ、国から「特務」という名目で汚れ役も任されていると聞く。


 しかし、彼の父親がやっていることは言ってみれば必要悪。


 国家の運営には、時に綺麗ごとだけでは済まされない事態もある。

 けど、そこに王家が大っぴらにかかわっているとバレたら詳細を知らない国民は不信感を抱くかもしれない。


 どれだけ誠実に説明をしたところで、完全に拭いきれるというものでもないだろう。


 だからこそ、ギャラード商会のような存在は必要なのだ。


 現国王が今の地位に就くより前から懇意にしている間柄らしく、彼の力になりたいとロベルト・ギャラードは自ら汚れ役を買った。


 恐らく、息子であるレーク・ギャラードでさえ知らないでしょうね。


 ですが、いずれ彼もその道を継ぐはず。

 正義を貫くために悪へ染まる存在へと。

 すでにその片鱗は見せつつありますわね。


 ゆえに、平民でありながらも利用価値の高い男。

 それがわたくしの彼に対する率直な評価。


 けど、ここ最近耳にする彼にかかわる噂はそんな悪党からは遠くかけ離れたもの。


 騎士団や魔法兵団が手をこまねいていた裏闘技場の壊滅。

 そして此度のクレイグ・ベッカードの国外追放。

 

 彼が噂に聞く悪徳商人の後継者というなら、利用価値の高いこのふたつの事件を排除するようなマネはしないはず。


 それに、コニー・ライアルが彼に懐いているのは計算外でしたわ。


 平民でありながら類稀な魔法使いとしての資質を持つ者。

 

 あと、恐らく彼女はあの施設・・・・の貴重な生き残りである可能性が高い。


 まあ、本人と話した限りではまだそれに気づいていないようでしたが。


 少なくとも、学園上層部はそれを見抜いて彼女を入学させたのでしょう。

 危うくベッカード家のバカ息子がそれを台無しにしてしまうところでしたが……ここでもレーク・ギャラードに救われました。


 それにしても、彼はなぜコニー・ライアルに近づいたのでしょう。

 ただの偶然?

 いえ、さすがにできすぎな気がします。


 まさか……顔が好みのタイプだったから?

 ――って、そんなわけありませんわね。


 欲望に忠実なタイプではありませんでしたもの。


 ……でも、悔しいですわ。

 本来ならばわたくしが舞踏会にコニー・ライアルを招待し、それからじっくりと可愛がってあげましたのに……これもすべてはあの無能な変態教師のせいですわね。


 あと、彼が世話役として連れていたあのメイドも気になりますわ。

 どこかで見た顔だと思うのですけど……ハッキリと思い出せないというのも気に入りませんわね。


 それにしても……あの男は一体何を企んでいるのかしら。


 民衆を救う英雄気取り?

 それとも本気でこの腐りきった世界を変えようとでも?

 或いは楽して金儲けをしようと有能な人材をかき集めているだけ?


 ……さすがにそこまで低俗ではないかしら。


 第一、金儲けを優先させるなら裏闘技場の支配人を言いくるめて自分の商会で扱っている武器を売りさばいたり、クレイグ先生の弱みを握ってバックにいるベッカード家を脅したりするはず。


 まあ、どっちでもいいですわ。


 わたくしにとってはあの男の存在など些末なこと。

 もしこちらの目的の邪魔をしようというなら、対応すればいいだけの話。


 逆らうようでしたらハートランド家の名において容赦なく叩き潰させてもらいましょう。

 

「明日の舞踏会が楽しみですわね」


 今はゆっくりと高みの見物をさせていただきますわ。

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