第7話 キリカに後輩が出来たホ!
四天王パリピーナを倒してもバエンナーは次々に現れる。その日もキリカは敵を一撃で沈めていた。
「ふぅ……」
彼女が額の汗を拭っていると、突然パチパチと拍手が聞こえてきた。その方向に顔を動かすと、そこには見慣れない魔法少女衣装の少女がニコニコ笑顔で歩いてくる。
「え? 誰?」
「先輩、よろしくっス!」
どうやら彼女は同じ魔法少女らしい。先輩と言っているので、キリカの後に魔法少女になったのだろう。衣装を見ると細部が少しずつ違っている。自称後輩の衣装はスカートの下に黒いスパッツを履いているし、衣装自体のカラーリングも違っていた。
「水色の衣装が可愛いね」
「先輩のオレンジっぽい色もいいっスよ!」
「えっと……?」
「あ、私は宝生ユカリ。13歳っス!」
ユカリは海を挟んだ反対側の都市、広岡市を守る魔法少女らしい。キリカは何故そんな彼女が目に前にいるのか分からず、腕を組んで首をかしげる。
「まさか、こっちに引っ越して来たの?」
「いえ、二泊三日の旅行っス。今北の先輩がすごいって聞いてやってきたっス!」
「そ、そうなんだ。よろしくね」
「勉強させてもらうっス!」
2人が握手をしている頃、マスコットの方ではバチバチと火花が散っていた。ユカリにはヘビ型の魔法生物がついていて、トリとはライバル関係だったのだ。
「ナーロン、よくも顔出せたものだホ!」
「けっ、ユカリは最強なんだニョロ! お前とお前の相棒なんて何の参考にもならんニョロ!」
キリカとユカリはお互いの相棒を引き剥がし、その日の顔合わせは終わる。ユカリの目的はキリカの観察と彼女からの指導。強くなるためにアドバイスが欲しいとの事だった。
その話を飲んだキリカは、ユカリを自分の戦闘に参加させる。
「まずは実力も見たいし、1人で戦ってみて」
「任せるっス!」
今日現れたのも、昨日同様の標準的なバエンナー。うねうねと動く不定形生物で、触ったものを強力に溶かしていく。
「バエンナァー!」
「あいつっスね。余裕っス!」
ユカリは思いっきり10メートルくらいジャンプすると、そのまま力を纏わせた拳を振り下ろした。
「うりゃい!」
「バヌッ!」
バエンナーはワンパンチで地面に沈んで消滅。一瞬で勝負はついた。その戦闘スタイルを目にしたキリカはポツリとつぶやく。
「肉弾戦タイプかあ……」
「この手袋がステッキなんで、殴る事で魔法は発動してるんスよ?」
「ほうほう」
キリカはユカリのグローブをまじまじと見つめる。どう見てもシンプルな革の指ぬき手袋にしか見えない。ただ、甲の部分に魔法的な文様が刻まれてはいた。
その後も、ユカリはワンパンでバエンナーを倒しまくる。戦闘スタイルが違うと言うのもあって、キリカはアドバイスらしいアドバイスを出来ないでいた。
「今北のバエンナー弱すぎないスか?」
「向こうはそんなに強いの?」
「バリ強いっス。常に激戦っス!」
「へええ……」
キリカは、自分の知らない地域の情報に感心して何度もうなずく。そもそも、彼女は他地域に魔法少女がいる事すら知らなかったのだ。自分は知らないのに相手は知っていると言う状況に、キリカは若干の不信感を抱く。
「ねえ、どこでユカリは私の事を?」
「サクヤ様からっス」
「ああ、あの人が……」
サクヤの名前が出た事で、キリカも大体の流れを把握した。そうして、その流れで話を続ける。
「魔法少女は他にもいるの?」
「広岡と今北の他には、確か川徳にもいるって話っスよ」
「そうなんだ」
「シッ、誰かいるっス!」
戦闘が終わったばかりで、トリはまだ結界を解いてはいない。その状態で部外者が侵入してくると言うのは、本来なら有り得ない事。考えられるのは、結界より強い敵が強引に破って入ってきたと言うパターンだ。
その想定をした2人は、ゴクリとつばを飲み込んで警戒する。
しいんと静まり返った結界内。キリカとユカリは背中合わせになって周囲を見渡した。トリとナーロンもまた、魔法生物の超感覚で辺り一帯を探る。
「あそこニョロ!」
ナーロンが向いた方向に全員が顔を向けた。すると、そこには
その姿に見覚えがあったのか、突然ユカリが声を震わせた。
「ヤバいっス……あれ、四天王っスよ……」
「嘘? まだいたの?」
「四天王は全部で4人いるっスよ?」
「あっ……」
キリカが戦った事があるのは四天王の内の2人。今目の前にいるのがその3人目で、ユカリは既に会った事のある相手のようだ。強さを知っていると言う事は、戦った事もあるのかも知れない。
その四天王は、見つかった場所から動こうとしない。そうして、おもむろに右手を上げた。
「行け! 超バエンナー!」
「チョバエンナー!」
四天王が繰り出してきたのはバエンナーの上位種。見た目はあまり変わらないものの、頭に角が一本生えている。通常のバエンナーよりも早い動きで、キリカ達に向かって襲いかかってきた。
「あんなの返り討ちにしてやるっスよ!」
ユカリはポキポキと腕を鳴らして、超バエンナーに向かってジャンプ。そこから魔力を纏わせた鋭いパンチを繰り出した。
「光粉砕パーンチ!」
「チョバエンナー!」
彼女の拳が接触した瞬間、超バエンナーはそれ以上の力で弾き返す。ユカリは攻撃を防がれただけでなく、そのまま建物の壁を突き破るほど強く弾き飛ばされた。
「うぐっ!」
「ユカリーッ!」
キリカは急いで彼女のもとに駆け寄る。ダメージをかなり受けてはいるものの、命に別条はないようだ。じっとしていれば、魔法少女衣装がダメージを回復させてくれるだろう。
後輩の無事を確認して、キリカはほっと胸をなでおろす。
「あんな強いバエンナー知らないっス……。四天王クラスっスよ」
「ユカリはそこでじっとしてて、アイツは私が倒す!」
「先輩……」
キリカはステッキを出して超バエンナーと対峙。お互いに攻撃のタイミングを図り、しばらくにらみ合いになった。
「なるほど、確かにただのバエンナーとは違うようね」
「チョバエンナーッ!」
キリカは、先に動いた敵の動きに合わっせてステッキを振る。大気中のマナが効率良く集まり、魔法力が急速充填された。
この時、超バエンナーは既に自身の攻撃の間合いに入っていた。
「チョバエンナー!」
その攻撃は、しかし空を切る。残像を殴った超バエンナーはその手応えのなさに混乱して動きを止めた。
その時、音もなく敵の背後に回っていたキリカはステッキをかざす。
「シン・レインボーアロー!」
「チョバエンナーッ!」
不意を突かれた超バエンナーは、背後からの魔法を直に受けてその場で大爆発。こうして、バトルはキリカの圧勝で幕を閉じた。
この戦闘を間近で眺めていたユカリは、両拳を握って興奮する。
「流石先輩っス!」
「何か参考になった?」
「こんな強い先輩がいるって分かって、それだけで心強いっス!」
こうして二泊三日の研修旅行も終わり、別れの時がやってきた。2人は熱く握手を交わし、友情を深めたのだった。
「先輩、これからも頑張ってくださいっス!」
「ユカリもね」
「さようならっス~!」
ユカリとナーロンを見送り終わる頃には、西の空が茜色に染まっていた。海に沈み始めた大きな太陽を眺めながら、キリカは忘れていた事を思い出す。
「そう言えば、あの四天王はどうなったんだっけ?」
「気がついたらいなかったホね」
「でも、いつかは戦う事になるんだろうな……」
今後訪れるであろう更なる激戦の予感に、キリカは決意を新たにするのだった。
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