第73話 4度目の対人戦特訓
今は夕食も終わって、
今日は“訓練ダンジョン”に行けなかったので、錬金合成は出来なかったけど補充に関してはまずまずだった。何しろ、C級の【フェンリル(幼)】とD級の【硬根ゴーレム】の入手がとても大きい。
それを踏まえたデッキ構成を、脳内で考えながら朔也は先ほどの“高ランクダンジョン”の顛末を思い出す。最終的には、根っこの壁の向こうの宝箱は割と凄かった。
まずはポーション瓶やエーテル瓶が2本ずつ、それから魔結晶(中)が5個に魔玉(土)が10個。それから鑑定の書(上級)が4枚に、金貨が3枚に銀貨が40枚程度。
他にも硬木素材や香木や木の積み木ブロック、それからハルバードと言う特殊武器と盾と指輪が入っていた。武器と防具と指輪は魔法アイテムで、相当な値打ちモノの予感。
後は宝石系も少々、そちらは
そんな中、宝石だけはどうやら別腹と言うか、リアルに欲しかった模様の館付きのメイドである。これも諸々の口止め料として、
これで共犯と言うか、運命共同体の一員って事になる。
『炎のハルバード』斬撃up&炎付与
『吸収の丸盾』衝撃緩和
『忍耐の指輪』体力+3、精神+3、耐性up
そして鑑定した魔法アイテムだけど、どれもなかなかの品物だった。盾など小柄ではあるが、使用者の魔力を吸い取って受けた衝撃を緩和してくれる機能が付いてるみたい。
これは大型の敵から攻撃を受けた時とか、使い勝手がとっても良さそう。物騒な形状のハルバードも普通に強そうだが、さすがに体格的に朔也には使えそうもない。
指輪は取り敢えずすぐに使うとして、後は使うとしたら丸楯だろうか。ハルバードも、召喚ユニットの誰かが使うとしたらキープすべきか。
そんな事を考えながら時間を過ごしていたら、いつもの時刻に薫子が迎えに来た。その澄まし顔は、あの貢ぎ物の事は秘密ですよと雄弁に語っているよう。
それはともかく、4回目の対人戦特訓は変な波乱もなく終わって欲しい。そんな願いを胸に、敷地の体育館みたいな建物に導かれて行く朔也である。
そしてあちこちから注がれる視線、さすがに祖父の遺産カード2枚目ゲットの威力は甚大みたい。今回も対戦と称されて、妙に絡まなければ良いのだが。
そう内心で願う朔也だったが、この痛烈な視線を
戦闘服を着込んだ執事やメイド達の姿も多く、彼ら彼女らも鍛錬の時間は貴重なのだろう。対戦した事は無いが、総じてみんな高レベルだと薫子も言っていた。
そんな彼女も着替えにと席を外して、すぐに戦闘服に着替えて戻って来た。その手には木製の長杖を持っており、恐らくは
朔也とすれば、こんな時間こそ剣術の鍛錬に充てたいと切に思う。お昼は真面目に探索するので、誰か親切な人が教えてくれないだろうか?
もしくは、新当主の鶴の一声で誰か先生をつけてくれても良いのにと思う。従兄弟たちで戦闘訓練を行うより、朔也としてはそっちの方が十倍有り難い。
そんな事を考えていると、定刻になって新当主が対人戦特訓の開始を宣言した。少々
「ようっ、新しいカードを入手したんだってな……それを賭けて、今から俺と対戦しようじゃないか。C級のカードって話だから、丁度いいよな。
俺もC級カードを賭けるから、全く公平な話だろう?」
「構いませんけど、あなたが負けた際にはキッチリ支払って貰いますよ? まぁ、これだけ周囲に証人がいるなら、しらばっくれる事も出来ないでしょうけど」
唐突に朔也に話し掛けて来たのは、腹違いの兄の太陽だった。露骨に祖父の遺産カードを狙っていて、それを隠そうともしていない。
いい加減に腹の立った朔也は、それを真正面から受けて立つ構え。勝てばC級カードをゲット、負けても絡まれなくなるので悪い事は何も無い。
そんな計算での返答だったのだが、少々マズかったかもと数秒後に朔也は後悔する破目に。周囲の従兄弟たちが、その手があったかと色めき立ったのが分かったのだ。
これは、この1戦を勝利したとしても後からとめどなく挑戦者が現れるパターンだ。朔也はげんなりしながらも、その想像を頭から追い払って戦闘準備。
さて、今回使うカードだがどうしよう……そんな事を考えながら、改めて周囲の従兄弟たちを見回してみる。そして発見、どうも
午前中のダメージは相当に酷かったようで、絡んで来る奴が1人減ってくれてまぁ一安心。そして考えると、何も朔也だけが連続で戦う必要も無いだろう。
連続で戦うとしても、精々が2戦か3戦でストップが掛かるはず。そして祖父の遺産カードのお披露目だが、
そんな訳で、対戦場に入って改めてカードの選択。午前の抗争で使えないカードもあるので、まずは盾役は新人の【硬根ゴーレム】に頼む事にしよう。
これで巨大ユニットの速攻も、ある程度は防げる筈である。後はソウルと獅子娘さん、嫌がらせに臭ゾンビと弓スケも召喚して賑やかしをやって貰う事に。
アタッカーはエンと、それから死神クモか白雷狼のどちらかで良いだろう。今回は、変な策略を絡めずに力を示して勝利をする予定。
そうしないと、後からいちゃもんをつけらるだけだと最近気付いた次第である。盾役で完璧に敵ユニットの攻撃を防ぎ、完膚なきまでにアタッカー役で主将役の従兄弟を倒す。
召喚ユニットが豊富になって来て、作戦も色々と立てやすくなって来たのは良い
「おいっ、間違ってもお爺様の召喚ユニットを使うなよっ……
最初の賭けの約束を忘れるなよっ!」
「あなた達こそ、その脳みそに他人との約束をキッチリ刻んで下さいよ。カードを交換した際に、2度と僕と関わるなって約束しましたよね?
都合良く言葉を使い分けて、恥ずかしいとは思わないんですか?」
そんな朔也の言葉は、生憎と対戦者の太陽には届かなかった模様だ。それより対戦開始5秒前のアナウンスが発され、両者ともに慌しく召喚作業に追われる事に。
朔也もまずは盾役のゴーレムを召喚、向こうを見ると巨体ユニットもしっかり存在した。とは言え、2メートル半級で前回のモンスター程ではなさそう。
バーバリアンだろうか、野性味あふれる蛮人って感じのマッチョ型の敵である。それから美形のエルフの狩人と、2メートル級の茶色の羽毛の大鳥が1羽。
向こうのユニット数が少ないのは、全部C~D級なカードのせいだろう。こちらはE~F級のエンや臭ゾンビと弓スケも、しっかりと召喚してスタンバイ済み。
それからお姫は別として、ソウルと獅子娘さんの姿は向こうも警戒している筈。向こうは飛行ユニットもいるみたいだから、こちらは白雷狼を召喚する事に。
コイツの招雷攻撃は、実はなかなかに強力なのだ。さすがC級ランクである、これで召喚ユニットの量は圧勝、質的にも見劣りしなくなった。
そして開始の合図と共に、相手のバーバリアンが速攻をしかけて来た。それを迎え撃つ硬根ゴーレム、コイツも2メートル超えの巨漢である。
根っこの特性を宿したこのゴーレム、両手や両足が根っこ仕様である。そのため、ある程度の伸縮性を併せ持っているみたいで、なかなか器用なゴーレムが誕生してしまった。
硬さと伸縮性を持つ朔也の盾役は、あっさりと太陽の蛮族の突進を止めてくれた。それどころか、根っこを伸ばして捕獲して、向こうの動きを封じ込めてしまう。
こうなると、先行して突進したのが大いにアダとなってしまった。エンやソウルにボコボコにされて、哀れな蛮族は一撃も敵に与える事無く送還される破目に。
敵の後衛のエルフ狩人だが、勿体無い事に臭ゾンビと弓スケとの対戦に持ち込まれていた。両方ともF級で、合計の召喚コストはたったの4MPである。
ここは朔也の作戦勝ちで、先行させた分だけ悪目立ちしたようだ。お陰でこちらの主力は、マルっと体力満タンで温存出来ている次第。
太陽の飛行ユニットだが、どうやら向こうの虎の子のモンスターらしい。能力は何だろうと思っていたが、コイツは嵐を呼び寄せる的な特性持ちらしい。
確かに吹きすさぶ風の能力は厄介だが、殺傷能力はそれほど高くないみたい。オマケに風に
お陰様で、捨て駒だった臭ゾンビが体から何本か矢を生えさせたまま、敵陣に辿り着いてしまった。敵陣営は無風地帯らしく、その臭いに思い切り顔を
嫌がらせ&数で脅すつもりのユニットの思わぬ活躍に、敵陣は大いに混乱している。その隙を突かせて貰おうと、朔也は仲間のユニットに総攻撃の指示出し。
真っ先に駆けて行く獅子娘さんとソウル、その後に続く白雷狼は割と貫禄と迫力がある。新参者のフェンリル(幼)と組ませれば、強力タッグになってくれそうな予感。
どうも太陽は、自ら戦う能力は全く磨いていないよう。接近して来た臭ゾンビの処理を、エルフ狩人に任せて自分はその背後に隠れる素振り。
一方の暴風大鳥は、向かって来た敵団を迎え撃つべく前へと出て来た。そのせいで、暴風は更に強力になったようで、これは
とは言え、ソウルなどは物理無効で風の足止めもどこ吹く風。獅子娘さんは床に爪を立てて、風に飛ばされるのを必死に抵抗している。
そこに乱入して来た白雷狼は、低空飛行で向かって来る大鳥の喉元にいきなり噛み付く蛮行振り。その攻撃はまさに迅雷で、不意を突かれた格好の大鳥は呆気なく地に墜ちる破目に。
そこからはまたもや全員でボコ殴り、遅れて来たエンも交えての大物狩りである。結果、墜落から10秒も持たずに送還されて行く暴風大鳥であった。
その頃には、残念ながら
そこに乗り込むソウルと獅子娘さん、ここからの戦いはほぼ一方的に。何しろ、これらを退けても背後にエンと白雷狼が控えているのだ。
戦闘開始から5分と経たず、こんな感じで朔也は無傷の連勝を遂げるのだった。
幾つもの視線が注がれる中、こうして朔也は対人戦特訓で連勝を伸ばして行った。特に拍手も
そこに立ちはだかったのは、太陽の姉の美津子だった。【鬼蜻蛉の兜】を譲った張本人で、その際にもう関わってくれるなと言い放った相手である。
その美津子だが、弟が負けたのに余裕の表情である。相変わらず朔也には見下した視線を投げて来るが、この根拠のない優越感は一体何なのだろう?
そして彼女は、腹違いの弟にこう言い放った。
「ご苦労様、次は私と対戦して頂戴な――もちろん、2枚目の祖父の遺産カードを賭けてね」
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