第71話 3度目の“高ランクダンジョン”探索



 朔也さくやとしては、3度目の“高ランクダンジョン”の探索開始である。もっとも、最初の1度目は驚いて逃げ帰ったので、カウントに入れる必要は無いけど。

 2度目に関しても、お遊びで薫子かおること一緒に潜った程度である。それを思うと、本格的に探索するのは今日が初と言っても良いかも知れない。


 それが証拠に、薫子もしっかりと探索着に着替えてスタンバイオッケーな感じ。前回はメイド着姿で薙刀なぎなたを振るっていたので、この点でも大違いと言える。

 どうやら、公認で探索が出来るのがとっても嬉しい様子の薫子である。そんな彼女は、率先して森を彷徨さまよいながら後方の追跡者を確認中。


「まだ数名が追跡中のようですね、ただ見張っているだけなら構わないんですが。ちょっかいを掛けられる前に、作業小屋に入っちゃいましょうか、朔也様?」

「そうですね、他人をくためだけに時間を浪費するのもバカバカしいですし。ダンジョンまで追いかけて来たら、その時に対策を考えましょうか」


 連中もそこまで暇じゃないと良いですけどねと、薫子は軽口を叩きながらやや早足で森の作業小屋を目指して進む。朔也とお姫も、後方を気にしながらそれに追従。

 そして作業小屋からゲートを潜って、素早く探索準備を開始する。今回はエンはお休みで、代わりに装甲クモ(籠)とオモチャの兵隊のコンボを試してみる予定。


 エンの替わりは薫子に担って貰って、朔也に半分死に掛けの獲物を回して貰う予定。少々小狡こずるい作戦だが、滅多にない事なので許して貰う事に。

 何しろ朔也の召喚ユニットの面々は、ご主人の意思とは無関係に手柄を立てたがるのだ。そんな中での止め差しは、もはや高難易度ミッションだったりする。


 そんな訳で、今回は“高ランクダンジョン”内の強いモンスターを、何体かカード化して配下に置く計画を発動。ついでに、オモチャの兵隊のバフ効果を検証出来れば良いかなって感じ。

 後は斥候役のカー君と、人魂のソウルをいざと言う時用に召喚しておく。どちらも特殊技が強力なので、いざと言う時の切り札にもなってくれる筈。


 そんなコンセプトを薫子に話すと、向こうは了解しましたと元気に返事をしてくれた。朔也の武器は何にしようかと考えた末、こちらもお試しの【初級魔導書】を使ってみる事に。

 これで嬉し恥かし後衛の魔術師デビューである、その威力は全く分からないけど。D級のユニットなので、使う魔法もその位の威力があれば言う事無し。


 その魔導書だが、朔也の隣に大きな本みたいな恰好で出現してくれた。つまり手塞ぎにはならないようで、これは何気に嬉しい事実かも知れない。

 それならと、朔也はあわせて『トレントの杖』を使ってみる事に。


「おおっ、今回は魔術師モードで探索ですか、朔也様っ! いいですね……でもさっき買った盾や手甲は使わないんですか、微妙に勿体無いですよ」

「あっ、手甲は使おうかな……午前中の戦いで盾は欲しかったから買っちゃったけど。鋼製って言うけど、これはそんなに重くなくていいですね」


 朔也の2枚目の祖父の遺産カードのゲットに湧いていた館内だが、魔石の換金はきっちり行って貰えた。魔石(中)が1個あったのが効いて、その額は約15万円ほど。

 それで朔也は、売店で売っていた7万円の『鋼の盾』と4万円の『鋼の手甲』を購入したのだった。ちなみに売店の鋼シリーズは、革製品の要所に鋼のプレートを埋め込んでいる感じで全部が金属製ではない。


 そのせいで軽量ではあるのだが、防御的には万全では無いのは当然だ。魔法的な効果も当然付いておらず、フェンリルに壊された魔法アイテムの篭手とマントはかなり痛かった。

 取り敢えず盾の使用チェックは後回しで、朔也は手甲を装備してみる。それにしても、相変わらず“高ランクダンジョン”の内部は独特な威圧感がある気がする。


 とは言え、“夢幻のラビリンス”みたいに毎回ランダムなエリアに飛ばされる事が無くてその点は安心かも。薫子にそう言うと、大抵のダンジョンはここみたいにランダム要素は無いとの返事が返って来た。

 つまりは、毎回潜入する度にエリアが違う“夢幻のラビリンス”は、かなり特殊な部類に入るそうだ。薫子の説明によると、かなり成長したダンジョンがそんな特性を稀に得るそう。


「面白いですね、世の中には色んなダンジョンがあるんだ。薫子さんは、今まで幾つくらい探索した事があるんですか?」

「20から30の間くらいですかねぇ……私達メイド隊も、訓練では“夢幻のラビリンス”や館内のダンジョンは使わせて貰いましたよ。

 もっとも、魔石を拾っても稼ぎにはなりませんでしたけど」


 それは厳しい、上級の探索者になったら1回の探索で100万程度は軽く稼ぐそうだ。もっともチーム単位なので、実際は1日活動して1か月休養なんて殿様商売は無理だろう。

 そもそも命懸けの探索者となると、普段の鍛錬も大事になって来るのは当然である。月の半数以上が休みなんて、そんな楽な職など幻想である。


 そんな事を話していたら、向こうから敵の一団がやって来た。ここはランクが高いせいで、1層から平気で半ダースの団体さんがやって来る。

 今もオークの弓兵混じりの一団が、こちらを見付けて興奮して襲い掛かって来た。今回の盾役は薫子と装甲クモしかいないが、果たして大丈夫なのだろうか。


 その時、オモチャの兵隊が突然勇ましいマーチを奏で始めた。おおっと反応する薫子は、盾と剣持の雑兵を、薙刀で軽く攻撃してその場に転倒させる。

 見ると、敵の足元が綺麗に切断されていた。ソウルも火の玉を飛ばして、敵の弓矢持ちを牽制している。朔也も遅れじと、魔導書を初使用して“炎の矢”魔法を行使してみた。


「おおっ、これは凄いかもっ……お姫さん、僕は今魔法を使ってるよ!」


 思わず感動してそう口走る朔也だったけど、その威力は実はイマイチ。速度も同じく、相手がノロマなオーク兵だから何とか当たってくれた感じだろうか。

 MPコストもそんなに良くはない、ただし続いての“風の刃”はまずまずの速度と威力ではあった。これは接近中の槍持ちオークにぶつかって、首筋に大きな裂傷を負わせる事に成功。


 魔術師の気分を味わえるのは面白いけど、よほど魔法が苦手な敵でなければ一発で倒す威力は無いようだ。精々が、ソウルや青トンボの魔法レベルなのはちょっとションボリ。

 ただまぁ、貴重なMPを消費してまで、このスタイルにこだわる必要があるかって言われると疑問かも。その位なら、素直に召喚ユニットを増やせば楽に勝てる。


 そんな事を考えながら、朔也はそっと魔導書を送還する。装甲クモの籠内に乗っかった兵隊さんに、魔法の威力をバフ効果で上げて貰っても恐らく大差は無いだろう。

 それが出来るかは定かでないが、取り敢えず今は薫子が転がして行ってるオーク兵達の止め差しが先だ。これで戦力増強、お試しも大事だがこっちの方がより大事である。


 朔也は麻痺のショートソード+2を手に、転がってるオーク兵達を切り刻んで行く。お陰で、半ダースいたオーク兵達の半分を朔也が止めを刺す事が出来た。

 チーム的にも怪我人も出ず、ほぼ完勝でまずは良かった。オモチャの兵隊のバフ効果だが、薫子に尋ねたらバッチリ掛かっていたそうだ。


「さっきの戦闘は、随分と動きやすかったですよ……攻撃アップ系の他に、防御アップ系のバフも掛かっていたかもですよ。こういう支援は、あると無いとでは大違いですから。

 特に大物相手にする際は、出しておいた方が良いかと」

「なるほど、そう言えば僕もいつもより動けてたかなぁ。この効果が出してる召喚ユニット全員に及ぶなら、確かに物凄く強力なサポートユニットになりますね」


 そんな話をしながら、落ちている魔石を拾う朔也と薫子である。ちなみにカード化したのは2枚で、【オーク雑兵】と【オーク槍兵】が1枚ずつと言う結果に。

 1層の最初の戦闘で2枚ゲットとは、さすがに上出来の部類ではなかろうか。気を良くして、続けて探索を続行する朔也チームである。


 召喚ユニットだが、初級魔導書を引っ込めて代わりにスフィンクスの獅子娘さんを出す事に。彼女も忠誠度は高いので、場を荒す事はしないだろう。

 薫子は、新しい召喚ユニットに好奇な目を向けつつ何も言わず。カー君と先頭に立って、1層の探索を積極的に担う気満々の模様である。


 それからオーク兵達の4体の群れを殲滅し、突き当たりの小部屋で例のワームボールを駆逐した。30分程度の探索で、追加でワームボールのカードをゲット。

 朔也としては特に欲しくないユニットだけど、止めを譲られたならヤるしかない。そして次のゲートを発見出来たのは、“高ランクダンジョン”に潜入して40分後の事。


 今回は厄介なミノタウロスには遭遇せず、ついでに背後からの追っ手もいないようで何より。それならと、朔也と薫子は話し合って2層へと狩場を移す流れに。

 戦力的に苦しければ、エンと青トンボも追加で召喚する余裕は一応ある。レベルアップの恩恵で、MPが増えてくれたのも地味に嬉しい成長だ。



 そんな2層の探索だが、やっぱりうろついてるオーク兵達の群れはそこそこいるようだ。それをオモチャの兵隊のバフ効果で、前衛の薫子と獅子娘さんが順調に倒して行く。

 朔也も頑張るのだが、やはり元から戦闘経験を持つ探索者やモンスターの動きには敵わない。精々が、止めを譲って貰ってカード化を頑張る程度である。


 その甲斐もあって、2層でも追加でオーク槍兵のカードを1枚ゲット出来た。ただし、どこでルートを間違えたのか、2層の途中から死霊兵を多く見掛けるように。

 包帯を体中に巻いたマミーや、額に角を持つオーガスケルトンが遺跡通路を徘徊するのを順次倒して行く。朔也も魔法の水鉄砲を使うが、このダンジョンの死霊兵は随分とタフな模様。

 そこは“訓練ダンジョン”の墓場エリアとは大違いである。


 仕方無く、死霊兵が出て来る間だけブラウニーのメイドちゃんを召喚する事に。それを見た薫子は、女の子ユニットをはべらす気ですかと白い目を向けて来た。

 確かに、お姫を入れると女性ユニットの配分は幾らか多めかも。


「いえいえ、そんなつもりは全く……ブラウニーの対死霊の撃退効果は、本当に凄いんですってば。実際に見たら、そんな偏見は吹き飛んじゃいますよっ!」

「まぁ、そう言う事にしておきましょう……しかしメイドとは、何となくライバル心をそそられちゃいますねっ!」


 そそられないで欲しいと、朔也は軽口を叩く薫子を逆に白い目でみてしまう。そんな雰囲気を歯牙しがにもかけず、死霊相手に無双を始めるメイドちゃんである。

 あのはたきの清めの効果は、華奢な見た目とはかけ離れて相当に凄い。これにはライバル宣言を口にした薫子も、完全に舌を巻くレベル。


 お陰で攻略は楽に進んで、魔石(小)も半ダースほど貯まってくれた。ただしカード化は全くのゼロで、そこは痛しかゆしって感じたろうか。

 ついでにドロップ品で、魔玉(闇)や骨素材やマミーからは布素材が少々回収する事が出来た。これらも、持ち帰れば良い錬金素材になってくれそう。


 そんな2層の探索は、オーク兵の相手より死霊軍を倒して進む方が時間的にも多かった。それでも30分程度で、何とか次の層のゲートを発見する事に成功する。

 これで一応、目標の3層へと辿り着く事は出来そうだ。





 ――出来ればカードの収集も、もうひと盛り上がりあって欲しい所。







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