第67話 11日目のユニット編成



 さて、館に呼ばれて11日目の朝である。昨日は夜の対人戦特訓も無かったので、気分的にはゆったりと過ごす事が出来て良かった。

 その分、夕方の合成錬金には時間を掛けて、うっかり夕食の時間前まで“訓練ダンジョン”に居座ってしまった。その成果はバッチリで、ノーム爺さんには感謝である。


 朔也さくやの方も、ステアップ木の実と果実を食べて、筋力とMPが増えてくれた。ついでにスキル書を2枚使って、新たなスキルを得る事が出来た。

 薫子の話では、2枚使って1枚でも取得できれば上出来の部類なのだそう。獲得したスキルは『射撃』だそうで、まぁ割とありふれた能力みたい。


 それより木の実で増えたMP+5が嬉し過ぎで、これで召喚ユニットに余裕が出来そう。ちなみにスキル数4つ所持は、既にC~D級探索者に相当する能力だと薫子さんの弁。

 まぁ、レベル8でその数はとても珍しいとも言われてしまった。



名前:百々貫とどぬき朔也さくや  ランク:――

レベル:08   HP 43/43  MP 47/47(+25)  SP 36/36


筋力:22   体力:22(+2)  器用:26(+1)

敏捷:23   魔力:32(+2)  精神:26(+2)

幸運:09(+5) 魅力:09(+4)  統率:23(+2)

スキル:《カード化》『錬金術(初心者)』『魔力感知』『射撃』

武器スキル:『急所突き』

称号:『能力の系譜』

サポート:【妖精の加護】




 相変わらず『錬金術』スキルは初心者のままだが、合成錬金で得たカードは増えて来ている。今回もたくさん錬金して、特に魔結晶(大)で合成したカードは凄かった。

 いや、その辺はまだ使ってみないと分からないけど、朔也の召喚ユニットが強化されたのは確かである。それを祝してくれた薫子に、朔也は待ってくれていたお礼の品を、昨日は色々とあげたのだった。


 麻雀パイのセットや将棋の駒は微妙な顔をされたけど、トランプとウノや花札は喜んで貰えた。特にパズル(400ピース)は大喜びで、暇潰しにピッタリとホクホク顔。

 その代わり、小学生の計算ドリルには無反応で、執事とメイド仲間に配りますとの事。仕事仲間とは、仲が良いらしくて本当に羨ましい限りである。

 ちなみに、魔結晶(大)で合成したカードがこちら。


【義手の戦士】総合E級(攻撃E・忠誠E)

【古びた宝剣(S)】総合E級(攻撃E・耐久D)

【装甲クモ(籠)】総合D級(攻撃D・忠誠D)


 エンの合成はアカシア爺さんにして貰ったけど、見事に成功して名前も変わってくれた。しかもF⇒E級へと成長して、強くなった予感がヒシヒシ。

 ただし、召喚コストが増えたのでその点は気をつけないと。古びた宝剣も名前が変わって、付加価値が付いてくれたようである。


 こちらはエンと違って、1度も使った事が無いので調べる価値があるかは微妙な所。そもそもカード化された武器や防具は、使用するにも召喚MPが掛かるので大変なのだ。

 装甲クモに関しては、カーゴ蜘蛛の籠がくっ付いてくれた模様。彼はサイズ感が最初から大きいので、籠に何か入れての運用もバッチリ良さそうだ。


 そんな感じで、昨日の“訓練ダンジョン”での探索も良好に終わってくれて何より。初めて『チケット』なる物を使って、“リドル部屋”へと侵入を試みたけど大成功である。

 今日の探索も、そんな調子で臨みたい所。




 朝食も食べ終わって、お姫も毎度の如く勝手に出て来てくれて探索準備もオッケー。毎日のお務めとして、すっかり定着した“夢幻のラビリンス”探索へと出掛ける。

 そんな朔也の部屋の扉の前に、澄まし顔の薫子がいてちょっとビックリ。それから、彼女がお付きのメイドとして認定されたのをすぐに思い出す。


 今日も探索には同行しないと思うけど、こんな感じでついて来てくれるらしい。従兄弟たちにちょっかいを掛けられないので、それはそれで有り難い。

 そんな訳で、いつもの時間に本館の3階の執務室へと到達を果たす朔也。朝の挨拶をして来るのも、いつもの老執事の毛利もうりや見慣れたメンバーたち。


「おはようございます、朔也様……今日も早いですね、一番乗りですよ」

「おっと、装備が変わってますね、朔也様。マントを追加ですか、似合ってますよ」

「ありがとうございます、売店でいつもの奴をお願いしますね、荒川さん」


 そんな感じでいつもの挨拶から、探索前の買い物タイム。帰還の巻物とMP回復ポーション2本を購入して、朔也は自身の現金が意外と貯まっている事に気づく。

 ちょっと前は、C~D級のカードが欲しかったのだが、今は対人戦特訓の報酬で手持ちはうるおっている。一応チェックしてみると、販売カードは珍しく補充されていた。


【偵察ラット】総合E級(攻撃F・忠誠D)

【初級魔導書】D級(攻撃D・耐久D)

【黒曜石ゴーレム】総合D級(攻撃D・忠誠D)


 E級の【偵察ラット】は、カー君がいるのでウチには必要無し。D級の【黒曜石ゴーレム】は、盾役にはいいけど足並みは遅くなりそう。

 そもそも朔也は【ゴーレム魔核】を所有しているので、大金を出して買うのもアレである。そう考えると、残った【初級魔導書】はちょっと気になるかも。


 価格を見ると、ゴーレムが48万で魔導書が55万円だった。朔也の現在の所持金が63万円なので、どちらも何とか買えそう。

 と言うか、買うなら【初級魔導書】一択である……それか、『魔法のポーチ』48万か『オーブ珠』52万円も買おうと思えば手が届く。


 もっとも、オーブ珠の特殊スキルも必ず覚えられるって訳ではないそうだ。そうなった場合、お金だけ払って丸損は覚悟するようにと言われてしまった。

 そんな訳で、ちょっと考えた末に朔也は【初級魔導書】を購入する事に。これは恐らく、魔法を使用する際にもMPを消費するので、コストは悪いと思われる。

 それでも、遠隔の攻撃手段が増えるのは嬉しいってのが本音。


「お買い上げありがとうございます、朔也様……新当主の盛光もりみつ様も、陰ではダンジョン管理や売店の補充などを頑張ってくれてます。

 それに報いるために、ぜひとも鷹山ようざん様のカードの回収を!」

「はぁ、まぁ頑張りますけど……期待はし過ぎないでくださいね、前回の入手も完全な運でしかなかったんですから」


 そんな情けない根性でどうするんですかと、薫子の叱咤しったは容赦がない。頑張りますけどねと、取り敢えずそれをなだめながら探索準備を最終チェックする朔也である。

 ポーションホルダーに薬品を入れて、新装備とカードの確認もバッチリだ。それじゃあ行って来ますと、朔也は執務室のゲートを潜って“夢幻のラビリンス”内へ。


 それから追加の装備と言うか、機能としては薫子が胸元に小型のカメラを設置してくれた。これで毎回の探索チェックを、戻ってから執事やメイドで出来るって寸法だ。

 新当主も推奨しているらしく、それだけ祖父の遺産カードの収集は行き詰まっているって事なのかも。動きに不便も無いので、朔也としては断る理由もなく快諾した次第である。

 とは言え、自分の探索シーンを他人に見られるのも少々恥ずかしい気も。



 などと思っていると、景色は変って洞窟の中にいた。今回も“洞窟エリア”らしく、こんなに続くのもちょっと珍しい気も。まぁ、ランダムとはかたよりがあって当然ではある。

 それはともかく、朔也は素早くユニット召喚を始める。新しく生まれ変わったエンは、しっかり義手が付いていてバランスも取れている感じ。


 本人的には戸惑いも無く、平然としているのはアレだけど。とにかくコックさんと箱入り娘も、今日は無事に召喚可能となっていて何よりである。

 それから定番のソウルと青トンボの遠隔コンビ、ついでにカー君はもはや必須ひっすの存在。後はバランスを考えて、近接の赤髪ゴブだろうか。


 彼はコストが5MPなので、その点も有り難い限り。本当は装甲クモとオモチャの兵隊のコンビを試してみたいけど、こちらは後回しにする事に。

 お試しと言えば、さっき購入した初級魔導書は是非とも試してみたい気はする。ただまぁ、昨日覚えた『射撃』スキルの効果も試したいので、半々で使う感じだろうか。


 午後にも“訓練ダンジョン”を探索する予定なので、そっちでお試しするのでも別に構わない。取り敢えず朔也は、『射撃』スキルでのボウガンの命中率を確認するつもり。

 そんな訳で、恒例のメンバーにレッツゴーの合図を送って探索の開始。既に慣れた“洞窟エリア”の1層を、次の層へのゲートを捜して練り歩く。


 ここは宝箱の類いもぼ見付からないみたいだし、モンスターも強い奴はいない。特に回収したい敵もいないので、なるべくさっさと通り抜けたい所ではある。

 狼系やコボルト系のカードも、全て合成失敗で失ってしまっている朔也である。1から集め直すのも、相当に骨が折れる作業になる気がする。


 それでも出て来る敵を確認して、止めが刺せそうなら積極的に攻撃に参加する。ただまぁ、ヤンチャな赤髪ゴブや絶好調のエンがいるとそれもままならない。

 エンに限っては、義手も普通に使いこなしてE級どころの強さではない。それはF級の時も思っていたけど、それに更に磨きが掛かっている感じである。


「今日は一段と凄いなぁ、エン……その新しい腕、気に入ってくれてるのかな?」


 もちろんエンは返事をしないが、動きのしなやかさは確実に上昇していると思われる。C級の死神クモや白雷狼も確かに強いと思ったが、エンはひょっとしてそれ以上かも。

 そんな訳で、朔也が止めを刺したのは遠隔で倒した【洞窟狼】のみ。1層での戦闘はそこそこで、合計10匹程度は倒して魔石(微小)をゲットした。


 お陰で新装備の『旅人のマント』や、強化した麻痺のショートソード+2の出番は全く無し。接近戦にならないので、その点は仕方がないとも。

 ただし、『射撃』スキルのお陰か、確かにボウガンの命中精度は上がっている気がする。狼を遠隔で仕留めたのも、恐らくは偶然でないと思いたい。


 そんな感じで、余力をもって2層へと到着した朔也チームの面々である。相変わらず2トップの盾役は盤石で、随分とこなれて来た感じも受ける。

 その調子で2層もすっと通り過ぎようと、張り切って進み始める朔也チーム。ところが5分も進まない内に、カー君が進行方向をやたらと気にし始めた。

 確かに前方の洞窟の暗闇内で、何やら派手な戦闘音が響いて来る。


「おやっ、誰かと思えば……お情けで、この館に招かれた妾の子じゃないか?」





 ――その声の主だが、新当主の長男に間違いなさそう。






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