第17話 午後の墓場エリア探索
「おめでとうございます、
これらは、全て買い取りで宜しかったですか?」
「はっ、いいえ……武器の類いは予備って事でキープしておきます。こっちの赤いリュックですけど、本当に魔法の鞄だったんですか?
信じられないな、そんなラッキーがあるなんて」
「容量はダンボール1個分程度で、大きくは無いので価値はそんなに高くは無いですけど。予備の武器を持ち運ぶくらいには、役に立つと思われますよ?」
そうらしい……2層で拾った赤いリュックが、まさかの魔法の鞄だったと言うオチ。今回は魔石のドロップも多かったし、初の魔結晶も回収する事が出来た。
魔石の形は楕円形で、大きさによって売値は上がって行くのだけれど。魔結晶は水晶みたいな形をしていて、こちらは魔石の数倍の値がつくそうだ。
その上には魔核と言う、完全に珠の形のモノも存在するらしく。それは魔結晶よりも価値が高いそうで、エネルギーの質も違って来るとの事。
取り敢えず今回の回収品で、魔結晶(小)は数個程ゲット出来たけど。合成で使うかもなので、それはキープして他のモノを売店で売りに出してみる事に。
結果、魔石で何と10万円、それから素材系で3万円ほどの儲けが出てくれた。香木や硬木素材や尾長サルがドロップした光る石も、なかなかの値段で買い取って貰えて何よりである。
これで13万円、前の残金と合わせて16万円の資金となった。
追加の装備品も欲しいけど、今回は浄化ポーションをしこたま買い込むと決めてある。そんな訳で、それを10本と魔玉(光)を5個と、アンデットの弱点属性のアイテムを容赦なく揃えて行く。
ついでにさっき使用した、帰還の巻物も1枚追加で補充購入しておく。それでも5万円程度の買い物で済んでしまって、さて後は何を購入しようか?
ダメ元でお酒を売ってくれと頼んでみたら、若いメイドの白石さんは少しだけ眉を
自分で呑む用では無いですからと、一応断りは入れておいたけど信じて貰えたかは不明である。それから各種回収品の鑑定をお願いして、ついでに自分の最新ステータスも教えて貰った。
名前:百々貫朔也 ランク:――
レベル:05 HP 28/32 MP 10/27 SP 23/23
筋力:16 体力:15 器用:21(+1)
敏捷:18 魔力:21 精神:22
幸運:09(+2) 魅力:09(+2) 統率:20(+2)
スキル:《カード化》
武器スキル:――
称号:『能力の系譜』
サポート:【妖精の加護】
順調なレベルアップとカード入手率は、どうやら従兄弟の間でもトップクラスらしい。従兄弟の16人の中には、4人ほど探索者登録を既に済ませている者がいるそうで。
彼らに次いで5番目にレベルが高いのが朔也らしく、そこは誇って良いと隣の部屋から来た毛利の言葉である。特にカードの収集率は、トップレベルとの事。
それは嬉しいのだが、まだ目当てのカードにかすりもしていない現状である。こんなんで良いのかなとの焦燥は、もちろん朔也にもあったりして。
新当主の
いざとなれば、新当主が直接に祖父のカードを集めるのだろうか。遺言に沿ってはいないけれど、集まりが悪ければその手もあるのかも知れない。
朔也としては、段々と探索のやり方に慣れて来て、事前の備えもバッチリ出来るようになって来た。そうなると、探索での経験値やカード入手率も以前より上がって来るだろう。
それを繰り返せば、手札をE級のカードで揃える日もそう遠くない気も。そうなれば探索はますます順調になると言う、良いサイクルが待ち構えている筈。
そう願って、朔也は執務室を後にするのだった。
そうしていつもの通りに、食堂へとランチを貰い受けに寄ろうと廊下を歩いて向かった所。昨日に続いて、中に
今日は探索を終えるのが少し遅れたので、そのせいかも知れない。確認出来た従兄弟は昨日の太っちょ2人で、誰かと何やら言い争っている最中の模様。
年頃は恐らく、3人とも同じ位だろうか……朔也より3~5歳は年上で、従兄弟の中では平均年齢だろう。そして次男コンビの
確か名前は
呆れた話だが、金も権力もある家の
とにかくこの親族の集まりに招かれたとは言え、朔也と
そうなると、この祖父の遺言のカード収集競争は願ったりの展開だろう。現に、従兄弟たちと言い争っている
と言う事は、恐らくこの次男コンビは下らない言い掛かりで、他人に絡んでを繰り返していたのか。そんな暇があれば、探索でも鍛錬でもすれば良いのにと朔也は思う。
などと思いつつ、朔也はこっそりと食堂に入ってシェフから今日のランチを拝借する。幸いにも、食堂が馬鹿みたいに広くて助かったなとか思ったのも束の間。
やっぱり次男コンビに見付かったようで、てめえこの野郎とか怒声が背後から響いて来た。それを無視してその場を去ると、背後から何かが近付く気配。
振り返ると、太っちょ従兄弟コンビでは無く、腹違いの兄の方だった。
「やあっ、君も標的になってたんだ……まぁ当然だね、一番の年下だし奴らからすれば絡みやすいよな。相手をしなきゃいいだけの話なんだけど、この館では奴らも我が物顔だからね。
そう言えば、カードデッキを
一体、どんな裏技を使ってるんだい?」
「別に、こっちは普通に真面目に頑張っているだけですよ……他の従兄弟連中が、まだ本気を出して無いだけじゃないんですか?
それとも、お情けで譲って貰ったカードが性に合ってたとか」
「ははっ、F級カードと性が合うとはね……まぁそうだろうな、いやしかし……」
そうだろうとは失礼だが、向こうの方が年齢もレベルもずっと高い。本人はすらっとした体型の優男で、今は酷薄な笑みを浮かべてこちらを観察している所。
どうやら従兄弟の中で、探索が人一倍好調な朔也の秘密を暴きたいらしい。そして肩に乗っている妖精のお姫を発見して、やや驚いた表情を浮かべる腹違いの兄である。
その妖精はどうしたのとの問いに、バカ正直に答える義務もなく。元から持ってましたけどと煙に巻くと、向こうは少し悔しそうな顔になって考え込む素振り。
後ろからは、なおも次男コンビの怒声が響いて来るけど、これ以上は追いかけては来ないみたい。何よりである、こっちも奴らの相手をするほど暇じゃない。
そしてこの腹違いの兄にしてもそう、奴らと同じで完全に見下した瞳で朔也を眺めて来ている。放っておくと、腹違いの姉の
そうして朔也が、次男コンビの追撃を避けるために廊下を曲がった途端。もっと嫌な奴と、偶然バッタリと遭遇してしまった。あの夜の襲撃以来の
さっきまで、散々この長男を呼び捨てにしていた癖に情けない。
「おやっ……何だ、
「……盗人も堂々と廊下を歩いてますもんね、確かにそうでしょうとも」
言い返した途端に、物凄い勢いで張り手が飛んで来た。ある程度予測していた朔也は、すかさず隣の朱羅の後ろへと身を隠してやる。
さすがは高ランク冒険者の修羅は、新当主の長男の攻撃など物の数では無いよう。簡単にブロックして、逆に吹き飛ばされる哀れな
無様だなと思いつつ、これ以上のいざこざに巻き込まれるのも嫌なので。朔也はその結果を見届けて、素早くこの場から走り去って行く。
後ろからはやっぱり怒号が追いかけて来るけど、当然そんなのは無視である。しかしこれで、一刻も早く強くならねばならない理由が増えてしまった。
奴は一切の
初日に起きた出来事は、本当に良い薬になったと今では思う。この世は弱肉強食で、強い者が理不尽に猛威を振るって来るのだ。弱い者が抗うには、それなりの防御を身につける必要がある。
それに適したダンジョンを発見出来たのは、本当に幸運なイベントであった。妖精のお姫に感謝である、今日の昼食もたくさん分けてあげなければ。
ちなみに今日のは、弁当箱に洋風のおかずがギッシリ詰まっていて、ランチにしては豪華過ぎな気も。果物とかゼリーやパイも入っていて、おやつ込みなのかも知れない。
今からランチの時間が楽しみだが、変な輩に絡まれたくないので食べる場所は変えるべきか。妖精のお姫に相談すると、後ろを気にしながらあっちに行こうと指差して来た。
そっちは敷地内の森の中で、綺麗な木立ちを縫って小路が作られている。何かあるのだろうけど、朔也は行った事が無いので良く分からない。
試しに進んで行くと、少し離れた森の広場に東屋がぽつんと建っていた。なるほどここなら館から離れているし、誰か近付いて来てもすぐ分かる。
良い場所だねと相棒に告げると、チビ妖精も嬉しそうに宙返りを返して来た。それじゃあランチにしようと告げると、自分の分もと催促する素振り。
それに従って、朔也は彼女の欲しい物を選り分けてあげる。
お姫の好きな食べ物は甘いモノに限られて来るので、特に選別に迷う事も無い。そんな感じで、和気
朔也が食後の休憩をしていると、妖精のお姫がアッチにもお楽しみがあるよと何かを指し示す仕草。何だろうと座ったままの姿勢で窺うと、更に敷地の奥に小さな小屋が建っていた。
恐らくはあれも、森の整地や間伐をする為の道具を仕舞っておく納屋か何かだろう。それ程に大事な施設では無い筈だが、この前の例もあるし興味は湧いて来てしまう。
そんな訳でチビ妖精に案内されて、ランチを片付けた朔也は後に続く事に。2匹目のドジョウなんて、そんな簡単に見付からないよねとか思っていたけど。
そもそも納屋には鍵が掛けられていて、中には入れないと言うオチ。ガッカリしていたら、妖精のお姫は建物の隙間から簡単に中に入って窓の鍵を開けてくれた。
入り口のカギは頑丈そうな南京錠で、彼女ではどうやっても無理みたい。それにしても離れ業での住居侵入の催促に、朔也は背徳感を覚えつつ納屋の中へ。
薄暗い建物内は、想像した通りに大事そうな品物は何も置かれていなかった。工具とかネコ車とか、肥料の類いやそんなモノばかりが雑然と置かれている。
そんな中、チビ妖精が指し示したのはシーツに隠された建物の隅っこの一角だった。やっぱりねのパターンに、それをめくって確認した朔也は思わずニヤリと笑みを浮かべる。
相棒の妖精も、宙に浮かんだまま嬉し気にピースサイン。
――それは敷地内に隠された、3つ目のダンジョンの入り口だった。
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