第11話 密林エリアの探索行
それから30分ほど探索を続けて、獲得したカードはたった1枚。しかも最弱の大ネズミだけと言う結果に、
一緒にそれを眺める妖精は、ドンマイと明るく振る舞って何ともムードメーカー体質みたい。それよりこのエリア、やっぱり敵の数も種類も洞窟や遺跡エリアより多いかも。
【一角ネズミ】総合F級(攻撃F・忠誠F)
このカピバラに似た角を持つネズミ、試しに召喚して戦わせてみた所。やっぱり弱くて、しかもこちらの言う事をまるで聞かないと言うダメっ振り。
さすがに忠誠度Fである……しかも密林から出現した、ジャガー型の肉食系モンスターの出現の際には。敵前逃亡をかましてくれて、さすがヒエラルキーの底辺である。
これでは怖くて、盾役にも使えない……完全なコストの無駄遣い、まぁいつもの事ではあるけれど。やっぱり第1層で入手出来るモンスターは、弱くて使えない印象。
今回も、もう少しこのエリアで粘って魔石とカードを収集するつもりの朔也。出来ればさっき偶然に遭遇した、肉食系のジャガーを《カード化》させてみたい。
それを目標に、もう少し周囲を探索しようと張り切って進む密林エリアである。今日の探索は、戦闘コックへの指示出しを含めて、やるべきタスクが多くて割と大変。
ただし、それに慣れれば戦闘能力も昨日よりずっと安定して来る筈。2層へ降りる戦力も、この新入りパペットの扱いに慣れれば可能だろう。
そう考えながら進む獣道だけど、不意に妖精が何かを発見したのか道を外れる素振り。何だろうと朔也が確認に向かうと、そこには大きな樹の幹に密集した巨大蛾の大群が。
気持ち悪くなる光景だけど、どうやら全部がモンスターの集合体らしい。こちらにはまだ気付いておらず、幹に止まっている連中は飛び立つ気配がない。
これは一気に経験値を稼ぐチャンスだと、どうやら妖精はウキウキ模様みたい。一気にやっちゃえと、空中にパンチを繰り出して朔也をけしかけている。
とは言え、あんな集団モンスターをどうやって一気に殲滅出来るのか。確かにやり方によっては、何とかなりそうではあるけど……一歩間違えば、倒されるのはコッチな気が。
ここは慎重に、作戦を立てて事を進めるべきだろう。
そんな訳で、こちらの手持ちを色々と探りながら味方の配置に悩む事数分余り。これが最良の案かは分からないけど、駄目だったらとにかく逃げるだけだ。
そんなやや後ろ向きな作戦の第1歩は、何とチビ妖精が担う事に決定した。何しろ彼女は、空を飛べるし魔玉の扱いにも割と長けているのだ。
ここはケチらず、持っている全部の魔玉を投入する事に。ついでに朔也も1個持って、初っ端の合図代わりに派手に投擲攻撃をさせて貰う事となった。
それによって炎や
その先制攻撃が上手く行ってるかは定かでは無いけど、とにかく目の前は飛び交う大蛾の模様だらけ。バタバタと地面に落ちてる奴もいるので、最初の範囲攻撃は効いた模様。
朔也が慌てていると、妖精が自分の鼻を
その警告に従って、朔也は口元を塞いで反転して隻腕の戦士の待つ方向へ退避を果たす。そして作戦通り、大蛾の群れがついて来ているのをしっかりその目で確認。
それから別の樹の枝の上に召喚していた、踊る大鍋と繋がったロープを思い切り引っ張ってやる。その途端、樹上でバランスを失った大鍋は転げ落ちながら中身をぶち撒けて行く。
今回は、煮えたぎるお湯が鍋の中身だったらしい。それが見事に、朔也を追いかけていた大蛾の群れに命中する。役割を見事に遂げた踊る大鍋は、落下の途中に召喚解除。
こういう使い道が、恐らくは移動が不得意で忠誠度の低いモンスターには合っているのだろう。少なくとも5匹以上は、今の即席トラップで始末出来た感触が。
朔也はその結果に浮かれながら、隻腕の戦士へとバトンタッチ。
彼は何とか、主人のここで待っていてくれと言う命令に従ってくれていた。或いは、ただ単に前に出るのが億劫でここに待機していただけかもだけど。
そして作戦通り、ずいぶん減ってしまった大蛾の集団を細切れにして行く。少しだけ息を整える事が出来た朔也も、反転して敵の始末に合流する。
時間にすればほんの数分の戦いだったが、倒した敵の数は間違いなく過去最高だった。気がつけば周囲を飛んでる敵は皆無で、朔也はようやく一息ついて余裕を取り戻す。
それからこちらも無事だった妖精と、落ちていた魔石を拾う作業。時折ドロップ品なのか、瓶に入った綺麗な粉が地面に転がっているのを発見する。
アレが大蛾のドロップ品なら、鱗粉とか毒系のアイテムの可能性が高い気も。取り敢えずは
魔石(微小)に関しては、大蛾の分だけで30個近くあった。大儲けには違いなく、ダンジョンを出たら念願のベルトポーチも購入可能かも。
出来れば使い切ってしまった魔玉やら、他の消耗品も買い揃えておきたい。そんな訳で、先立つモノに関しては幾らあっても困らないのは確かである。
そんな事を考えながら、休憩しつつ現在の時間をチェックする。探索を始めて既に1時間、さっき回収した【密林モス】の強さは、カードから確認するにやっぱり微妙だった。
コイツ1匹だと、恐らくは最弱の部類じゃなかろうか。
【密林モス】総合F級(攻撃F・忠誠F)
特殊攻撃とか、ひょっとして記載されていないスキルを持っている可能性もあるけれど。朔也がデッキに入れて使うとすれば、やはり5匹とか一斉召喚しか手は無い気も。
やはり入手出来る情報が少ないと、この先も苦労しそうな予感。
「それとも、詳しいカード情報を知る方法があるのかな? こっちが知らないだけで、《カード化》スキルの使い手は実はみんな知っているとか……。
戻ったら、執事の毛利さんにでも聞いてみよう」
例の納屋に入り口があった、“訓練用ダンジョン”もひっそりと隠されていたし。ひょっとして、それらの使い方を自分達で発見するのも、秘かに館の者達に見極められているのかも?
それらを新当主が採点して、一体何をどうするかって話ではあるけど。カードデッキを16セットも用意した労力を含めて、あり得ない話では無いのかも知れない。
その休憩の最中に、念の為にとMP回復ポーションを飲んで体調の維持に努める朔也。それからもうひと頑張りと気合を入れて、ゆっくりと立ち上がって探索を再開する。
具体的にはもう1時間程度、レベルが4に上がっていたらいいなって感じ。お昼から“訓練用のダンジョン”にも向かう予定だけど、ここでももう少し稼いでおきたい。
ちなみにレベルアップだけど、体感では何となく強くなったかなと分かる程度。自身に鑑定の書を使用しないと、成長が分からない仕様と来ている。
それは良いのだが、あまり進み過ぎると戻るのも大変なので
結果、残りの時間で何とか【密林クモ】のカードを1枚ゲット出来た。コイツを自分で倒せたのは
こんな素直な敵ばかりなら、探索も楽なのだけど。
【密林クモ】総合F級(攻撃F・忠誠F)
そしてやっぱりF級ランクで、常時使用には微妙な感じ。一応は召喚してお試ししてみたけど、自然と近場に蜘蛛の巣を張る癖があるようだ。
それを有効利用出来れば、まぁ辛うじて使えるかなって程度のモンスターである。つまりは移動しながらの狩りには、てんで使えないことが判明した。
それでも一応、目標のカード3枚には到達したし、時間ももうすぐ2時間が経過する。切りも良いので、3日目の探索はこれにて終了する事に。
それから妖精の持っていた魔糸を辿って、入場したゲートへと無事に戻って行く。ゲートを潜り抜けたのは、丁度インして2時間ちょっと経った11時半ごろ。
無事な生還を執事やメイドに祝われながら、いつもの執務室で寛いでいると。どうやら今から探索に出掛ける、従兄弟と鉢合わせしてしまった。
それは姉妹で、昨日と同じく
つまりは、朔也と同じくバリバリの探索初心者なのだろう。ただし、身につけている武器や防具は、朔也と違って一流品ばかりみたい。
それは恐らく、親の出資だろうか……羨ましくはあるが、それで必ずしも上手く行くとも限らない。姉妹でチームを組んでいる点については、ルール違反にはならないと思われる。
この姉妹、確か名前を
「あら、朝早くから潜ってたのね……確かあなた、
そうそう、私たちどうも《カード化》スキルが上手く使えないのよ」
「えっ、そうなんですかっ? スキルを持っているなら、自分で止めを刺したモンスターは半々くらいの確率でカード化出来る筈ですよ?
多分だけど、召喚モンスターが倒しての《カード化》は確率がうんと低くなるんじゃ」
「えっ、そうだったのか……なるほど、自分で止めを刺さないとなんだ。それは盲点だったわね……君っ、有益な情報をありがとう!
そうだっ、お礼に使って無いカードをあげるよ♪」
どうやら姉妹は、隠し子の朔也について特に何も思っていない様子。歳も5歳近く離れているので、ライバルとさえ思っていないのかも知れない。
それは朔也も助かるけど、貰えたカードもなかなかに有益だった。どうやら彼女達は、贅沢にも魔法の収納鞄をそれぞれ所持しているようだ。
運搬に特化した召喚モンスターは、全く必要が無いみたい。
【カーゴ蜘蛛】総合E級(攻撃F・忠誠D)
イラストを見ると、どうも背中に籠を背負うスタイルの大蜘蛛みたいだ。陸路も岩場もある程度自在に動ける、運搬用の召喚モンスターらしい。
これは良いモノを貰ったと、一応お礼を述べる朔也だったけれど。あのバカがやらかした事は、もう従兄弟たちの間で噂になってるよとの
つまり向こうは、こちらのカードが
それにしては、カードたった1枚の融通とはシケているけど。向こうもカード化が出来ていない状況らしく、手持ちを減らすのは不安なのだろう。
その気持ちは分かるし、ここは有り難く姉妹に礼を言って頂戴する事に。カードをくれた次女の
長女の
それはルーキーの朔也も同様で、姉妹とは今後も情報交換をしましょうねと言葉を交わして。そうして凛香と鏡花は、ゲートの向こうへと消えて行った。
どうやら探索準備は終わっていたらしい……彼女たちの無事な帰還を祈りつつ、朔也も隣の売店へと向かう。まぁ、心配する程の事も無いだろうけど。
装備品や消耗品については、金に物を言わせてバッチリ取り揃えてあったようだし。カードについても、新当主の準備したデッキにはC~E級が組み込まれていた筈。
その恩恵を受けられないのは、恐らく従兄弟の中では朔也のみだろう。
――それでもまぁ、まずまずの現状には持って行けてる感じ?
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