一年目 六月

颯太

「颯太」九

 六月には体育祭がある。もちろん軍の別れるのだが、この学校は少し分かれる色が特殊な気がする。青、黄、緑、桃の四色を生徒たちは区分される。そんな個性的な色がある中で、僕は中でもオーソドックスとも言える青軍の仲間入りを果たした。

 矢沢の落書きが施された青色の軍Tを身に包む。1ー2という字とミステリアスな体勢を取った黄色い人間を背後に負い「かっけえ…」とむらこうとふざけ合った。


「颯太」十

 体育祭当日である。誰もてるてる坊主を吊るしていないのにも関わらず、太陽がこれみよがしに照り付けている。ヒリヒリとした痛みがメラニンを感じさせた。救いといえば僕たちの着るTシャツが涼しげな青色だということだけだ。

 我が体育祭は開会式に始まり、閉会式に終わる。そして、仲の良い先輩から聞いた話では、仕事に疲れた生徒会役員にとって開会式は一世一代の独擅場らしい。僕は密かにわくわくしている。

 そして開会式が始まる。選手宣誓だ。まずは四つの軍の軍長が前に出て、テンプレとも言える宣誓をする。僕は隣の矢沢にこっそり耳打ちをした。

「ここで誰かが、『ちょっと待った!』って入ってきたらおもろいやろなあ」

実際にその展開になった。唐突に生徒会長が割り込んできた。

「僕たち、選手と」

「僕、生徒会長は」

「「誠心誠意、負けないよう頑張ることを誓います」」

僕は生徒会長には負けないぞと決意を固めた。


「颯太」十一

 いよいよ今大会一度しかない僕の出番だ。その競技の名は『しっぽ取り』。この夏、最も熱い戦いだ。ビニールテープを細くしたもの、もといしっぽを二つつける。各軍の出場者の中から大将を決め、大将は一本2点分のテープを二つ身につける。ルールはだいたいこんな具合だ。

 まずは対緑軍戦だ。青、緑の両軍の生徒が応援するためにギャラリーを作る。なんて目に優しい試合なんだ。

 集中する。知らない放送部の生徒がスタートを叫ぶ声が聞こえた。時間はあっという間に過ぎ、僕は相手チームの尻尾を終盤に一本だけ取れた。そして、試合は幕を閉じる。青軍の勝ちだ。

 優勝は向こうで黄軍に勝利した、桃軍との取り合いになった。そしてまた集中する。放送委員会の声がまた聞こえる。決勝戦なだけあって、声援もさらに大きくなった。

 桃軍は全員一列になって向こうから歩いてきた。さながら壁のように。しかし、青軍副団長が端から端まで全力で走る。壁の何人かが釣られ、崩れる。その穴をつき、青軍が何人かの尻尾を取った。

 僕はサッカーをやっていた時の感覚を思い出す。あの頃は、練習の一環でほぼ毎日尻尾取りをやっていた。

 首を振る。空いたスペースに移動する。ピンク軍の一人が青軍が固まったところに突っ込んでくる。青軍が一度ばらけ、そこをさらに狙いに来る。なかなか強い。相手の大将の後ろに空間があるのに気がついた。完全に背後をとった。そっと近づいていく。あと二メートルの時点で全力で走る。

 しかし、相手もそう簡単にはいかない。なぜか僕に気がつき、僕は一本しっぽを取られた。一度撤退する。

 もう一度大将の後ろを取ることができた。今度こそは。しかし、周りには桃軍が固まっており、追い出されてしまう。周りを見てみると青軍の数はかなり減っている。劣勢だ。終了のカウントダウンが聞こえる。

3、全力で相手の大将へ走る。

2、手を伸ばす。

1、敵の一人体を入れてくる。

0、僕の手は空を掴む。

終了だ。


「颯太」十二

 結局のところ、しっぽ取りは桃軍に負け、という結果に終わった。さらには最終結果も桃軍に負けて二位で終わった。しかし、のちにある文化祭、スポーツ大会の結果を加味した最終総合順位で巻き返せる。

 僕は七月を心待ちにした。そんな記憶はなかった。

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