圭介

「圭介」five

 四月の課題として、4コマ漫画か100字以上の短編小説を書いてくる、という課題が出された。なかなかの秀作が集まったが、その中でも目に留まったのが、三上みかみ詩音しおん、ペンネーム人生ひとき一己ひときの『二人、正確にはもう一人』という短編小説だ。一見ただの日常に見えるが、というものである。ただ、これは個人的な観点なので慎む。実際、全漫画、小説それぞれに良さがあったので褒めて、月に一度の集会は幕を閉じる。


『二人、正確にはもう一人』

 放課後の教室に優しい日が差し込む。戦ぐ風がクリーム色のカーテンを揺らしている。光をマスカット味の水が入ったペットボトルが光を反射し、きらきらと輝く虹色が美しい。目の前には少女が座っていて、俺は彼女と話している。

「これ、新発売の美味しいよ。ちょっと飲んでみる?」

 彼女は微笑みながらペットボトルを差し出した。俺は提案を飲んだ。爽やかなマスカットの風味が流れる。

 室温は絶妙で、俺の眠気を誘った。オレンジの教室に微睡が満ちる。俺はだんだんと船を漕ぐように目を閉ざしてしまう。夢現の世界でエーデルワイスが聞こえてくる。そのまま意識は黒く塗りつぶされた。


「圭介」six

「詩音、ちょっと時間いい?」

 詩音は怒られるとでも思ったのか、「え、あ、はい」と慌てて返事をした。

「一読者の考察だけどさ。あの小説って放課後の情景じゃなくて、殺人現場を描いたものなんじゃない?」

「なんでそう思ったんですか?」

「渡したペットボトルに強い毒が入っていたと考えることもできるし、何より一番不可解なのはそのタイトルだ。『もう一人』がいる気配はない。だけど、主人公が殺されて教室にいるのは少女だけ。二人のうち一人が死んだから、『もうすでに一人』になったんじゃないかな」

 詩音は感激したように目を見開く。

「全部正解です!」

 自惚れかもしれないが、自分も小説を書いていたので共感できるものがある。小説では自分の考えが3割伝わればいい方だ。と、とある小説家が言っていたのを思い出す。


「圭介」seven

 この件を受けて、僕はまた小説を書き始めた。久しぶりに創作物を描くのは新鮮で楽しかった。五月病を吹き飛ばすように僕はキーボードを叩いた。

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