𝙘𝙖𝙡𝙡 𝙢𝙚 𝙗𝙮 𝙣𝙤 𝙣𝙤𝙫𝙚𝙡

ささまる

第1話 焚書

 滔々と滴る五月雨。紛れて消えない涙の雫。

 式は粛々と進んでいる。厳かな空気に皆が頭を垂れ、打ちひしがれている。一番前に立てかけられた生前の写真は酷く穏やかで、まるで場違いだ。今日の主役なのに。

 誰も、あの人が死んだ理由を知らない。


 自らを火に焚べた真相を。


 どうして何も言ってくれなかったのか。ただ現場に残っていた燃え滓が、様々な憶測を呼んだことは事実である。

 ――焚書とは、一般に書物を燃やすことである。だがあの人は、小説を愛していた。旅立ちの供に、愛するものを選んだ? そうは思えない。


 誰も、理由を知らない。


 これは、小説を愛する者が小説のために死ぬまでの、愛の物語だ。

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