後編-4-

 俺はアイさんからのダイレクトメールを見て、硬直した。息が上手くできない。苦しい。自分で自分の体がコントロールできないのか、硬直はしているのに指先には力が入らずスマホは滑り落ちて、床で一度弾んだ。


「え? え?」


 自分が今何をすればいいのか、どのような状況なのか全くわからない。誰にも見られていないのに表情を悟られないように口元を掌で隠し、無意味に周囲を見渡し、リビングを馬鹿な犬みたいにぐるぐる回るように歩く。何かをしなければならないのに、その何かがわからない。


「受信はいつ頃だ?」


 俺はとりあえず、スマホを拾い上げ、アイさんからのダイレクトメールを再度確認する。受信日時は今日で、今から三十分ほど前。たぶん、寝ていた間に届いたようだ。いや、だからなんだ。届いた事実は変わらないし、重要なのはその中身の一文だ。


「彼女は俺が夢カタルと祝勝会をしたことを知っている。何故だ? というか、俺はやっぱり夢カタルに会っていたのか?」


 先程まで杞憂として受け入れ始めていた最悪の想像が形になろうとしていた。それが具体的なものになる前に俺は否定する材料を探す。


「本当にそうなのか? 俺は夢カタルと会った? それをアイは何故知っている? 彼女もその場にいたのか? いや、もしかしたら事前に夢カタルから教えられたのか?」


 可能性と疑問が提示されても、俺自身が何も思い出せない。


「待てよ、アイさん――彼女は夢カタルがSNSとかを更新しなくなったとき、俺に連絡してきたよな。それってもしかして、俺を疑って――」


 想像は最悪な方向に進んでいく。あの夢はやっぱり本当なのではないか、ということ。それだけならともかく、俺が夢カタルと会っていたことを知っている人物がいる、ということ。つまり、何らかの形で夢カタルが死体で見つかったとき、疑われるのは……俺、だよな。待ってくれ、何故こんなにも思い出せないんだ。


「いやいや、思い出すことも大事だけど、今俺がわかっていることは何だ?」


 俺がわかっているのは――小説で形にした、あの悪夢。人を殺し、隠した生々しい感覚。思い出すと呼吸が自然と荒くなった。


「俺、首を絞めてた。あれ……たぶん素手だった。え、待ってくれよ。じゃあ、もしかして――」


 俺が見た夢が現実だと仮定したとき、俺は素手で相手を殺したことになる。突発的な犯行だったのかもしれない。いや、それ以上に大きな問題がある。素手だったならば、俺は指紋を含め多くの証拠を残しているのではないだろうか。

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