前編-3-
家に帰ると、いつもと同じルーティンでパソコンを起動させる。どうせ誰も見てくれないネット小説を今日も書こうとその前に座った。今日の仕事中には夢を諦める、とか考えていたくせに無意識にこのような行動をしている。本能的に諦めてないのか、それとも、起床したら歯を磨くように日常の一部なのか。
いつもなら小説投稿サイトを開くけど、
「ちょっと気晴らし……」
と、自分に嘘をついて、俺は『この世界では人間が最強です』を検索した。
『アニメ化すげぇ!』
『ありふれた転生モノだと思ってたけど、読んだら面白かった』
『コミカライズしてたっけ?』
『コミカライズしてるよ。書籍化からすぐだった。というか、コミカライズから人気出たと思う』
『原作も面白いで』
『いやいや、何が面白いかわかんない。というかジャンル的に飽和しすぎ』
とある掲示板サイトにはこのようなことが書かれていた。批判的な意見もあるにはあるけど、まぁ、大半は好意的のように思える。否定的な意見を書いている奴には名無しの有象無象に紛れて、俺のように創作を行っていて、嫉妬で書いている奴もいるだろう。俺もこのサイトに長居し過ぎると否定的な意見を書いてしまいそうだから、そうなる前にサイトを閉じた。
夢カタルは順調に小説家としてのステップを上がっているように見えた。自身の作品が書籍化、コミカライズ、そしてアニメ化だ。俺はそれを傍観しながら、憎い、という感情を確かに抱いた。だけど一方で、どんどん先に進む夢カタルが成功者に見えて、かつての友人と名乗るには釣り合わない自分が恥ずかしく思えた。
俺はパソコンを閉じればいいのに、性懲りもなく、誰も読まないネット小説を更新させた。
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