前編-8-
『おめでとうございます』
『頑張って書いてきたのが報われましたね』
『本が発売されたら絶対買います』
夢カタルのページには案の定、祝福の言葉が溢れていた。その一つ、一つは俺が喉から手が出るほどに欲しくて、でも、簡単には得られないものだった。そして、読めば読むほどに胸のあたりが得体のしれないもので詰まったような違和感があり、気持ち悪い。
「ちきしょう」
「なんでだよ」
「くそが」
そんな言葉を吐き出すが、その気持ち悪さは解消されない。いや、そんな言葉を吐けば、吐くほど情けなくて、自分の惨めさを痛感する。一通り、見終わった頃にはすっかり創作意欲は失せていた。帰ったときの意気込みは何処にいったのだろうか。いや、そもそもどこから生まれて来たのだろうか。書いても意味がないのに、何故書くのだろうか。今の俺は、何故書きたいのだろうか。何をしたいのだろうか。このまま進んでも時間を浪費するだけではないのか。
――辞めるなら、今じゃないのか。
俺が俺に一番言って欲しくない、核心を突く言葉を言ってくれた。
そうだよな、と肯定する俺と、ふざけんな、と否定する俺が同時に存在する。何故か前者の声がデカい気がする。それは、俺の中で、惰性で進むのは時間の無駄じゃないのか。執筆に使う時間を別に使う方が有意義なんじゃないか……そんな気持ちが確かに存在するからだろう。
「寝るか」
俺は唯一の対抗手段、というか逃亡手段を選ぶことにした。問題の先送り、時間を空けて先程の議論の結論を有耶無耶にする。結局、俺にはそれしかできないのだ。
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