前編-2-
「マジかよ」
その【朗報】とやらを見たのは、会社のトイレだった。
俺は便座の上で用を済まし、仕事を少しサボる為にスマホのロックを解除するとルーティンのように決まった操作を行う。時間経過で無料で見ることが出来るマンガを読み、ニュースサイトを見て、SNSで創作仲間の呟きを確認していた。その中の一つに夢カタルのアカウントで【朗報】の記載と、その証拠といわんばかりの公式サイトへのリンクが貼られていた。
このとき、俺は既に胸が締め付けられる感覚とドス黒い感情が確実に体内を浸食するのを感じていた。
――リンクをタップしてはいけない。後悔する。嫉妬が溢れ出てしまう。
そう思いながらも、俺は夢カタルの呟きにあるリンクをタップした。祝うように豪華に装飾されたページ、受賞作品のタイトルと作者の名前、そして、編集者の賞賛の言葉が並ぶ。そして、そこには嘘偽りなく夢カタルの名前も存在した。
嫉妬が口から溢れ出て、言葉にならないように歯を食いしばった。悔しさで泣かないように目に力を入れた。そこまでしても誤って零れないよう体を丸めた。
大きく、呼吸を繰り返す。醜悪な臭いがするトイレの中ですべき行為でないことは重々承知だ。それでも、そうしないと気持ちの整理……いや、そんなことは出来るはずはないが、表面上を取り繕う為には必要なことだった。
数分後、俺はスマホのページを戻し、夢カタルの呟きを映すと、
「おめでとうございます! 夢が叶いましたね!」
返信欄にコメントを残した。
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