雑草の里 ~ なつかしい場所

川が干上がった荒れ地には

雑草ばかりが茂っていた

軒下に雨ざらしの洗濯機が錆びていて

小さな畑には何かしらの野菜が育っていて


首輪のない犬がやって来て

ついて行った先は誰かの縁側で

暗がりに小さな老女が座っていた


こっちへおいでと手招きするので

靴をぬいで座敷に上がる


「どこから来たの?迷子かね?」


老女はしわくちゃの紙を広げて

帰り道の地図を書いてくれた


「早くおうちに帰りなさい」

そう言って

わたしが帰るべき方向を指さした


紫の太陽が沈みかけていて

空がラベンダー色に染まっていた


雑草が茂るばかりのあの場所に

ときどき無性に帰りたくなる

空の色は少し恐ろしかったけれど…



赤茶けた鉄の欄干の根元に

大雨を凌ぎ切った雑草が揺れていた


人ひとりが辛うじて通れる橋の下を

キャラメル色の水が流れている

台風が過ぎ去った後の前線が

この土地にたたきつけた雨の量が

尋常でなかったことがうかがえる


橋の上から眺めると

泥を掃き出した家があり

強雨に倒れた野菜の畑があり


遠いむかしに迷い込んだ

あの場所に少し似ている気もしたけれど

そうであってほしくない思いもあり

橋を渡り切らずに

引き返す


あれはただの子どもの夢

紫色の太陽なんて存在しないし

あの小さな老女も


橋を渡り終えて

でも少しだけ気になって

振り返ってみる


どこにでもある平和な日没の空だった


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16817139554981931739

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