詩集◆旅のようなもの

紅瑠璃~kururi

月隠の迷路 ~ 上海

心の中には

悲しみの幻想が迷い込む月隠つきごもりの迷路がある


月が隠れ

星が沈んだ暗夜の路を行けば

闇が幻想を膨らませるばかり

光を求める人影もない


川面に鈍色の光を放つ街灯は点々と

大きな橋のたもとへと私を導く


黄浦江こうほこうに架かる橋の下には影ばかり

橋を渡った沿岸の樹木は暗闇に茂り

黒くて四角い穴のような窓々を擁した建物群に

空から鉛色の光が降っている


彼岸と此岸の狭間で見る夢のようでもあるが

これは眠る前に眺めていた写真の風景だ


疼くような懐かしさを覚えるのは

心の迷路とどこかでリンクしているからだろうか


モノクロの街を俯瞰した後

何かを探したくなった私は

黒い窓から繁茂した雑草を眺め

橋からすす色の川面をのぞく


探しているものは多分見つからない

わかっているけれど

今や悲しみの幻想が

すっかりしぼんで消えてしまったことも

どこかで感じている


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16817330655514145065

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