第102話 事態には事前に備えた方がいい

 フロレアルの言葉から慌てて周囲を確認しながらライジンは問い返す。

 その事にフロレアルは気にすることなく答えを提示する。


「──何っ!?ってどういうことだ?」

「──ほら、あっちの北側の街道方向から近付いてきてる一団よ。あれっては討伐隊のオナカマじゃなかったの?途中でアナタたちを見捨てて置き去りにして逃げ出したから、既に討伐隊の仲間じゃないのかもしれないけどね──」


 そう言ってフロレアルは米粒大にしか未だ見えない脳筋五人組の方を指し示す。

 それを受けてライジンは指し示された方向へと目を向けた.

 だが、判ったことは、何かが近付いて来ていることだけであり、対象の判別は全くできなかった。

 ライジンは驚きとともにフロレアルへと思わず胸中を口に出してしまう。


「──君はこの距離で対象を判別できるのか!?あれだけの力を持っているのに、更には探知系のスキルまで保有してると言うのか⋯⋯。ここまでくると驚くよりも羨ましい──いや妬ましいくらいだよ⋯⋯」

「──羨ましがられても、ちっとも嬉しくないわ。持って生まれたしまった力を活かせるように努力した結果よ。それにね⋯⋯アタシだって、正直言って英雄譚に出てくるみたいな方が良かったわよ!」


 フロレアルからの想定外の切り返しに、ライジンはタジタジになりながら弁明する。


「す、済まない。別に他意は無かったんだ、許してくれ。本心からその力が羨ましかったんだ。それだけの力か俺にあれば、皆を窮地に陥れることもなく、イビルボアを倒せていた筈だからね⋯⋯」


 そう言ってライジンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 その胸中には、窮地に陥った仲間を救うことができなかった己の無力さ、そして不甲斐なさに憤りを抱いていたのだった。

 そんなライジンを一瞥いちべつしたフロレアルが口を開く。


「──今は無い力を求めるより、するべきことがあるんじゃないの?さっさとアーネの癇癪を治めて、駄⋯⋯シトロールを立ち直らせて槍でも渡した方がいいと思うけど?そろそろやっこさん達にもアチシたちが健在だって判る頃だと思うわよ」


 そのフロレアルからの指摘にライジンは気持ちを切り替えると行動に移り始める。


「──君の言う通りだな。このタイミングで戻ってくるのは救援なんて事も無いだろうからね。最悪は戦闘も覚悟しないといけないな⋯⋯」


 そう呟いてライジンはアーネとシトロールの元へと向かう。

 その呟きを耳にしたフロレアルは探知反応と併せて独り言ちる。


「──スカベンジャー死体漁りね⋯⋯。耳にしたことはあったけど、ここまでとはね。当事者じゃなくて、一連の行動を眺めてただけでも気分が悪くなるわ。この後の展開次第だけど、いざって時にはを決めるしかないわね──」


 フロレアルが一人頚椎を固める中、ライジンはアーネをなだめ落ち着かせ、シトロールのケアやフォローに勤しむ。

 そしてカテジナがサヘランや左翼の冒険者たちを伴って戻ってくる。

 こうして脳筋スカベンジャーが到着する前に、ライジンら討伐隊の面々は状況の把握と対応準備を終えることが出来たのだった──


 アタシはカテジナが伴ってきた冒険者たちの状態を確かめていた。

 それは洗浄魔法によるキレイキレイ処理が済んでいるか否かである。

 フアタシは怪我の治療は請け負ったが、までは契約内容に含めていなかったので当然として未処理であった。

 幸いにも駆けつけた者たちは、に変わっており、処理済みだと悟って安堵する。


 ──洗浄済みで助かったわ⋯⋯。これで、糞尿などの臭いが漂う中で過ごさなくて済むわ⋯⋯。


 こうしてアタシを含むライジンらは、脳筋スカベンジャーたちと相対する時を迎えるのであった。

 

~なぜなにシリエル先生~

 すっかり自信を無くしてしまったライジンですが、そのスペックは決して低いものでは無いんですよ。

 全ての能力ステータス値は人族の平均以上、筋力・敏捷・強靭・体力の値は20を超えており、人族平均の三割以上増しとの高スペックを誇っています。

 そんなライジンは殆どの物事をソツなくこなせる──いわゆる器用貧乏な人物でした。

 状況に併せて前衛・タンク壁役・中衛・遊撃を器用に立ち回り、必要に応じた仲間のフォローもできる頼れる指揮役を務めるリーダーです。

 それでも単純な戦闘力ではシトロールには及びませんし、タンクとしての能力はサヘランに劣ります。

 魔法に関しても平均よりは少し良い程度のモノなので、カテジナやアーネには遠く及びません。

 ある点だけを見てしまえば、その点に特化している人には万有な人は勝つことが難しくなります。

 ですが、この五人が一対一で戦った場合には、シトロールが狂戦士化を使わないとの条件付きではありますが、ライジンは全員に勝利することができるんですよ。

 何事も適材適所、自分の役割を理解して、その力を発揮できるようにマネジメントする人が必要なんですね。

 だからこそ、各々が成人してから二~三年しか経過してないライジンら五人がAランク冒険者昇格間近、資金的にも余裕がある冒険者パーティーにまで至れたのでした。


 因みにライジンは自分自身に力が無いと嘆いてますが、フロレアル以外の人が耳にしたら、〝何それ遠回しに人の事バカにしてんの?〟、〝お前喧嘩売ってんの?〟と思われること間違いなしです。

 世の中では、自分自身が頂点に君臨しない限りは、自分よりも上の人が必ず居ます。

 だからといって自分自身を卑下する必要は全くありませんので、自分自身が得意とする〝何か〟を見つけて磨くことが大切だと思いますよ。



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フロレアル(主人公)⑦

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