モブがアイドルになんてなれる訳がない

千花

ファーストシーン

1.蚊の人


 地味な顔が好きだ。


 丸くて二重の目、女の子みたいとよく言われる自分の顔は見飽きている。

 なので正反対ほどではないにしろ、地味でおとなしめの顔に惹かれるようだ。今まで好きになった人は全員地味顔だったし。

 あ、ちなみに僕は、恋愛対象に性の垣根はございません。


 それというのも……。

 目の前で平然とコーヒーを飲んでいるこの男。

 ショッピングモールで偶然、六年ぶりに会ったにも関わらず、すぐに春木さんだと気づいた。

 家庭教師をしていたあの頃と、ほとんど変わらないこの人が、僕の初恋だったからだ。


 地味というか、薄い。薄過ぎて印象に残らない。オーラもないので、よく人とぶつかる。

 恋愛感情を持たない今なら、何故彼だったのか不思議に思うけど、雛の刷り込みのようなものだったと自分に言い聞かせている。


「茜は可愛くなったなあ」

 彼は僕の印象を述べたあと、隣に座る男を紹介した。

 あれ、誰だこいつ。急に現れたように錯覚したけど、そういえば最初からいたような……?

「これ弟の透夜。今度アイドルでデビューするからよろしくね」


 ん? 聞き違いだろうか。


 いかにもモブ、というか、一般ピープルの中ですら目立たない。オーラも華もないこいつが、アイドルデビューだって?


 兄に紹介されたのに、彼は一言も発しない。とことん人間味を感じさせない男だ。

 地味、and薄い顔。肌も白くて、体の線が細い。名前の通り透けて消えそうで、ここまで無だとさすがに僕のターゲットですらない。


 透夜は静かにジュースを飲んでいた。その様はまるで蚊みたいだった。


「透夜くんはいくつ?」

 無音が気詰まりで声を掛けると、ようやく僕を見て少し笑った。

 笑顔は意外と可愛い。糸みたいな目に愛嬌があって、薄い唇がいい感じに大きく開く。

「十九」

「あ、同い年」

 驚いた。中学生ぐらいかと思った。


「アイドルって何? 地下アイドルとかそういうの?」

「違うよ茜。ダンスユニットを組んで、メジャーデビューするんだよ。まあ、期間限定だけどね」

 春木さんが口を出す。意味がよくわからない。

 が、特に興味もなかったので、ふうんと言って流す。


「茜って本名?」

 透夜が初めて言葉を発した。低音でよく通る声。その意外さに驚きながら、そうだよと頷いて、

「茜原って苗字でさ、昔からそう呼ばれてる」

「下の名前は?」

「さつき。五月って書く奴」

「どうした透夜。珍しく積極的だな」

 春木さんがからかう。

「茜に惚れたか? 言っとくけど、こんな可愛い顔してても男だからな」

 何がおかしいのか一人で笑っている。こいつに昔、ラブレターを書いた過去を消し去りたいと思っていたら、好きだなという声が聞こえてきた。


「へ?」

 春木さんの笑い声が止まる。

「茜のこと、好きになった」

 透夜が笑顔で僕の顔を見る。

 何それ。ないない、有り得ないから。


「ははは。困ったな」

 それは僕のセリフだよ、春木さん。

「連絡先、教えてくれる?」

 意外にも透夜がグイグイ押してくる。イラッとしたのでお兄さんに聞いてと立ち上がり、早急にその場を去った。



 そのまま彼のことはあっさり忘れ、次に思い出したのは大学の中庭にいる時だった。友達のアキトが家庭教師のバイトを始めたと話し出し、ふと春木さんの顔が浮かび、そのついでに出てきた感じだった。


「アキトはアイドルに詳しい?」

「わりと得意分野だけど」

「じゃあ知ってるかな」

 透夜の話をしながら、顔を思い出そうとして諦める。

 どんだけ存在感ないんだよ。

 しかも名前まで忘れてて、検索で春木透夜を見つけるまで少し時間をかけてしまった。


 芸能事務所のページを見つけて、アキトにスマホを渡す。木陰のベンチに座ると、風通しが良くてとても涼しい。知り合いの子に手を振っていたら、

「春木透夜ね。ふうん。ブルー・ホライゾン。期間限定のネットアイドルか」

「画像ある?」

「あるよ。結構イケメンだね」


 は?

 

 思わずスマホを奪う。三人のバストアップ写真、その右端に透夜の名前があるけど……ん?

「誰これ。別人」

 スッキリとした綺麗な男――属性でいうと癒し系になるんだろうか。

 これが透夜の表面だとしたら、こないだ会った奴は裏面ですらなくただの影だ。


 メイクと写真加工の恐ろしさにウンザリしてると、こいつに告白されたのか? とアキトに蒸し返された。

「いや、本体の方からね。そいつはこんな、キラキラしてなかったし」

「本体?」

「いや、何でもない。……ネットアイドルって、どういう活動するんだろ」

「ここには映像配信がメインって書いてるけど、まあインフルエンサーとか、そんな感じだろーな。アイドルだとCDやサブスクで曲売ったり。雑誌やテレビとかのマスメディアじゃなくて、あくまでSNSやネット中心ってことじゃないの」

「へえ。それは儲かるの?」

 お金の話は好きなので聞いてみる。どうなんだろ、とアキトは首を捻って、

「予想だけど物販が主な収入源かもな。ファンクラブ作ってグッズ売ったり、さっきも言ったけどCDとか。あと、動画配信の広告や投げ銭、有料配信もあるな。ま、色々と手はあるんじゃね?」

 なるほど。人気が出れば収益が見込めるって訳だ。


「透夜くんも美人だけど、センターの子が一番可愛いね。茜の知り合いなら、今後会えたりする?」

「ああ、言っとくけどね、このビジュアルが本物とは限らないんだよ。透夜は薄くて細くて蚊みたいだったし、期待ハズレの可能性が……」

「なんだよ、可愛いな。それ、ヤキモチ?」

 急に肩を抱くので、止めろと言って周りを見回す。 透夜と違って、僕の容姿は人目を引くのだ。アキトはただの友達なのに、変に勘ぐられても面倒くさい。

 女扱いすんなと注意して、彼と別れて駅に向かう。



 夕暮れの街は、妙に物悲しい。

 駅のホームでぼうっとしている時に、透夜からSNSのメッセージが届いた。

『夜の九時から動画配信するので見てほしい』

 短い文章。絵文字もスタンプも無し。こんなの、惚れてる相手への連絡とは到底思えない。

 了解のスタンプを押して、スマホをカバンにつっこむ。


 ホントに興味なくて家に帰っても忘れてたら、九時前に本人から念押しの電話がかかって来た。

『茜? 今日の配信、ちゃんと観てね』

 めんどくさいので観るよと言って切ろうとしたら、

『絶対に観てほしい。今日は茜の話をするから』

 楽しみにしてくれと言って電話は切れた。

 何これヒドイ。こんなの脅迫じゃん。

 すぐに折り返したけど、案の定電話は繋がらない。仕方ないのでタブレットでURLを叩き、生配信を見る。

 画面に映る透夜はメイク後の別人で、知らない人を見ている気分。 まあ元々、よく知らないんだけど。


 油断してたら透夜がいきなり、

「運命の人に出会いました」と宣言したので、飲んでたお茶を吹きそうになった。

 真ん中のアイドル顔が笑って、それどんな人と尋ねた。透夜は、

「めっちゃ可愛い子。可愛くてとにかく可愛い」と訳の分からないコメントをした。

 左側のクール系男子が、

「アホか。何を言いたいのか伝わらんわ」と即座につっこんだ。

 そのメガネと関西弁の違和感に驚いて、しばらく彼を観察する。


 話題はデビューシングルの話に移り、結局僕は透夜ではなくメガネこと長谷部って奴に目を奪われた。真顔で話す彼の、たまに浮かぶ笑顔に胸が高鳴る。

 ヤバい。超タイプ。

 地味っぽいのに、かなりのイケメンだ。

 このグループ、下手したらすごく人気出るんじゃないだろうか。




 長谷部が気になって仕方ないので、僕は透夜に連絡を取ることにした。

 すぐに折り返しがあって、バイト先に来てと言われ、大学の帰りに寄ってみた。

 透夜のイメージに合わない、オシャレなカフェ。

 窓際の席に座ってなんとなく店内を眺めてたら、

「昨日の配信、観てくれた?」と声が聞こえた。

 いつの間にか前の椅子に透夜が座ってて、驚いた僕はうおっと小さく叫ぶ。

「なんなんだよ、おまえ。気配ぐらい出せよ」

「ねえ、配信、どうだった?」

 細い目がキラキラと光っている。

 そんな透夜に、長谷部しか見てないとは言えず、悪くないんじゃないと適当にかわす。

 なのに透夜は嬉しそうに微笑んだ。


「良かった。茜が気を悪くしてたらって心配してたから」

「まあ……。名前出さなきゃ別に。でもあれどうなの? アイドルって恋愛禁止なんじゃないの?」

「うちのコンセプトは、アイドルだけどリアルな男子ってやつだから。逆にプライベートな部分をもっと出せって脅されてるくらい」

 そういうものかと素直に頷いて、僕は抹茶ラテを飲む。

 目の前の透夜はこの前と同じ薄い顔で、なんだかおかしくなる。


「それにしてもさあ、あの化けっぷりは何なの? リアルとか言ってすげー虚構なんですけど」

「そこは商売だから。僕がスッピンで売れる訳ないよ」


 なるほど。自分のことは、ちゃんとわかってらっしゃると。


「センターの須賀くんも、実物は地味顔でかなり盛ってる。でも長谷部くんは本物のイケメン。ほとんどノーメイクだよ」

「そうなんだ」

 ヤバいな。顔が赤くなる。

「それに、長谷部くんは別枠で。僕たちは一年契約の素人だけど、彼はアイドルの後にモデル兼俳優として売り出す事が決まってる。だから茜」

 僕を真っ直ぐに見て、透夜は真顔で釘を刺す。


「長谷部ヒカルには惚れるなよ。それを守れるなら会わせてあげてもいい」

「え。なんで……」


 僕の目当てが何故バレたのか。口にしなかったのに、透夜は唇を歪める。

「そんなのわかるよ。僕も同じだから。でも好みは違う。僕は茜みたいな可愛い子がタイプ」

「いや、僕はゲイじゃない」

 小声で言ったけど、際どい単語にドキドキした。

「初恋は男だったけどさ、中学は女子と付き合ってたし、どっちもいけるってだけ」

「ふうん。長谷部くんはノーマルだよ。期待しないように」

「……まだ何にも言ってないだろ」

 透夜のくせに。全て見透かしてるみたいに言いやがって。



 それから数日後、僕はあるマンションに呼び出された。


 広いリビングにはビデオカメラと簡易照明があって、スタッフが数人とスーツのおじさんもいて少し物々しい雰囲気だった。

 居場所が分からず隅っこに立っていたら、ドアを開けてメイク後の透夜が入ってきた。

 目ざとく僕を見つけ、

「茜、紹介するよ」と腕をつかんだ。


「長谷部ヒカルくんと、須賀翔太くん。こちらは茜原五月。あだ名は茜」

 どうもと頭を下げた二人は動画で見たまんまで、特に須賀って人はとても気さくだった。

「ビックリした。想像以上に可愛い。透夜がひとめ惚れするの、よくわかるよ」

「ありがとう」

 顔を褒められるのは普通に嬉しい。

 チラッと長谷部くんを見ると、うっすら微笑んでくれてドキドキした。


 本番だよと声をかけられ、三人はソファに並んで座った。僕も邪魔にならないよう壁際に移動する。

 すぐに撮影が始まり、僕は長谷部くんをガン見した。

 本当にかっこよくてため息が出そう。この顔をさっき、目の前で見たんだよな。眼福だと思ってるうちに撮影が終わり、みんな早々と撤収作業を始めだした。


 長谷部くんの後ろ姿を見ていたら、スーツのおじさんに声をかけられた。

 名刺を渡され、

「こういう業界に興味ない?」と軽く口説かれる。

「すみません。興味ないです。ごめんなさい」

「そっか。残念」

 気が変わったらすぐに連絡してねと肩を叩かれ、改めて名刺を見ると代表取締役と書かれてて驚く。

 透夜の事務所の社長らしくて、ちょっと勿体なかったかなと思う。


「お待たせ」

 メイクを落とした透夜が寄ってきた。

「今から三人でごはん行くから、茜も一緒に行こう」

「え? 行っていいの?」

「うん。茜ともっと一緒にいたいし」

 ヤバい。長谷部くんとごはん。ラッキー過ぎて顔が自然ににやける。


 透夜に手を引っ張られ、近くの居酒屋さんへ。店員さんと顔見知りらしく、すぐに個室へ案内される。

 掘りごたつを囲んで座り、目の前にいる長谷部くんを気にしながら注文する。

「詐欺だよね、この二人」

 長谷部くんが楽しそうに笑った。その笑顔にドキドキしながら彼の隣を見ると、須賀くんが照れだした。

「俺と透夜は確かに詐欺だよ。この素顔見たら、同一人物とは思えないもんな」

「でも芸能人でそういう人、割と多いと思うんだけど」

 一応フォローのつもりで口にする。すぐに透夜が、

「気を遣わなくていいよ。みんなわかってやってるんだ。僕と須賀くんはフツメンで、個性もない。漫画ならモブ扱いの二人が、ネットアイドルやってるってのが面白いんだから」


「個性ならあるじゃん」

 長谷部くんが真面目な顔で、

「透夜は頭がめちゃくちゃいいんだ。国立大に通ってて、いずれは研究者になるって夢もある」

「あ、それ知ってる。僕、実は透夜のお兄さんと知り合いで。小六の時の家庭教師だったんだ。その人から、弟は自分より優秀だって、ずっと聞かされてた」

 そう言うと透夜はやめろよと頭を掻いた。

 長谷部くんは須賀くんの肩に手を置いて、

「須賀だってダンスがすごく上手いんだよ。俺は容姿には恵まれてるけど才能とか、頭の良さとか何も持ってないし」


「魅力がすごいよ」


 思わず言ってしまった。

「なんか溢れてる。目を惹かれる引力みたいなのが、長谷部くんにはあるよ」

「そうそう。スターの素質ね」

 須賀くんも笑って、

「関西弁も使えるし。確か英会話も習ってるんだよね」

「あ、関西弁」

 そういえば気になってたんだ。

「俺のキャラは、クールなメガネ男子且つ関西弁を操る男。そういう設定なんだよ。面白いよね。うちのマネージャー、そんなのばっか考えてる」

 長谷部くんは自分の言葉に爆笑した。

 彼の笑いのツボがよくわからない。

 でもそれを可愛いと思うのは、恋が始まってる証拠だろうか。



 近くだからと長谷部くんが帰って、僕たち三人は駅に向かった。

 改札に近づいた時に着信があって、二人に先に行っててと告げてから電話に出る。

「もしもし」

『……茜?』

 その声に心臓が跳ね上がった。

 長谷部くんの声。


 別れ際、連絡先を聞かれたので教えていたのだ。

 意味深な声のトーンに、僕のアンテナが反応する。

「そうだよ。どうしたの?」

『今からもう一度会えないかな?』

 そんなの断れる筈がない。

 いいよと言って電話を切り、透夜がいる場所へ走る。


 友達から遊びの連絡が入って、今からそっちに行く。そう言うとふうんと言って改札に入った。

 勘のいい奴の事だ。バレたかもしれないと思いつつ、僕は来た道を引き返す。


 少し歩いただけなのにもう長谷部くんがいて、僕の顔を見て照れたように笑った。

 そして、どちらからともなく手を繋ぐ。言葉は必要なくて、長谷部くんの家に着くなり抱きしめられた。

「いい?」

 そう聞かれて頷く。

 何がいいのかもよくわからない。


 夢中でキスを繰り返して、熱に浮かされたように体が火照りだす。

 気づいたらベッドの上で、長谷部くんに服を脱がされていた。


「ごめん。俺、男の子初めてだから」

 教えてと囁いて、僕のを触った。

 キスしながらお互いに触りあった後、少し念入りに準備してから長谷部くんを受け入れる。



 終わった後でどうだったと尋ねられた。すごく良かったよとキスしてあげたら、ホッとしたよと笑った。

「ヤバいね、茜の体。ハマりそうな予感がする」

「僕も」

 何度目かのキスをして、長谷部くんの胸に顔を寄せた。

 もし彼と始まるなら、体だけの付き合いなんだろう。

 でも傷心中の僕には、ちょうどいいリハビリかもしれない。


「透夜に怒られるね」

 共犯めいた笑顔で僕を見る。このシチュエーションが好きなくせに。

 そう思いつつ、大丈夫だよと囁く。

「透夜とは付き合うつもりないから。お兄ちゃんとも知り合いだし、そもそも僕のタイプじゃないもん」

「そっか」

 長谷部くんは僕の手を導いて、どうしようこれと自分のを触らせた。

「顔見てるだけで勃っちゃった」

「じゃあ、もう一回する?」

「うん。茜が可愛いのが悪いんだよ」

 気持ちいい言葉に、僕の体はまた熱を帯びる。


 その日は結局彼の家に泊まり、一旦家で着替えてから大学へ行った。


 眠い目を擦りつつ授業を受け、友達の相良と一緒に食堂へ。

「眠そうね、茜。もしかして彼氏出来た?」

「なんで彼氏限定?」

 カツカレーを一口食べると、首のとこと小声を出した。

「女子はそんなとこ噛まないもん。耳の下とか、ちょっとわかりにくいとこに付けるって何者よ?」

 相良は豪快に笑った。

 彼女は高校からの友達で、サバサバした性格の子だ。


「まあ確かに男だけど。彼氏じゃないよ。多分、一夜限り」

「またそんな事して」

 大きな口をへの字にした後、相良は僕の顔をじっと見た。



「……磯山くんの事、まだ引きずってる?」


「それはないよ。でも、あいつの話はしないで」

 ふくれた僕の頬をつついて、ごめんねと相良は謝った。

「アイス奢っちゃるから許して」

「何、甘やかしてんの?」

 アキトがやって来て、僕の隣の椅子に座った。相良はアキトが苦手なので口も開かずそっけない。

 僕に、アイス買ってくると言って立ち上がる彼女を見てると、アキトは近寄って、

「今日の茜、なんか色っぽいな」と勘のいいところを見せた。

 まだ変な事を言いそうなのでスマホを開いて、

「そうそう、昨日会ってきたよ。興味あるって言ってたよね」


 あの三人と撮った写真を、アキトに見せる。

 居酒屋の写真なので、透夜と須賀くんはもちろんスッピンだ。

 見るなり、ヤバいなこれとアキトは笑った。

「マジか。詐欺じゃん。芸能人ってこんなもんかよ」

「長谷部くんはイケメンだったけど」

 名前を口にするだけで甘酸っぱい。ヤバいなあ。朝まで一緒だったのに、もう会いたくてドキドキする。

「確かに。すげーイケメン」

「オーラも凄かったよ」

 なんとなく誇らしくて、そんな自分をバカみたいと思う。


 相良が帰ってきて僕にアイスを渡し、その写真は昨日の相手かと尋ねた。

「何言ってんだよ、バカ」

 スマホをアキトから返してもらって、僕はアイスを食べた。

 相良はしゅんと肩を落として、今日の茜は機嫌悪いねえと自分のアイスの袋を開けた。

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