春になれば思い出す V.4.1
@MasatoHiraguri
第1話 新入生勧誘を2回受けた私
毎年4月のオリエンテーション期間中は、体育会系や文系サークルの新入生勧誘で、キャンパスが最も賑やかになる時期です。
私が入学した1976年(昭和51年)、我が校には数十の公認文系サークル(英語研究会、茶道・華道、合唱、占い、等々)と、勝手気ままな(非公認)サークルが数十、2号館という大きな建物の地下にひしめいていました。ちゃんとした部室を学校からあてがわれていた体育会と違い、畳200畳敷きくらいのスペースに、各サークルが自由に椅子や机を並べ、看板を掲げてワイワイやっていたのです。
時の学長であった磯村英一という人は、東大出でもかなり進歩的でリベラルな方でしたので、大学を批判する活動家たちにも寛容でした。2週間のオリエンテーション期間中、彼らも革○派なんていう畳3畳くらいの大きな看板をキャンパスのど真ん中に立てかけ、マイクを使い大きな声でアジ演説をしていました(かれらは年中やってましたが)。
体育会系も文系も政治活動家たちも、一人一人に「コギト・エルゴ・スム 自我」があり、大学も日本社会も真の自由と元気があった時代でした。
文部科学省とか警察官僚が天下りとして大学や様々な民間機関に入ってくるにつれ、そんな自由で伸び伸びした学生自治・風通しのいい社会の気風は失われ、認可とか公認なんていう管理社会になっていくのを、私たち年寄りは見てきました。
大学日本拳法も、40年前に比べて蛮カラの気風がすっかり消えてしまったようですが、今後、警察官僚による管理社会化が進み、自由で個性的な自我が発露できる場ではなく、管理・監視する側主導の見世物興業化していくでしょう。
50年前の漫画「嗚呼、花の応援団」のような「強引な勧誘」というのは、当時でも関東で聞くことはありませんでしたが、韓国系の創価学会や統一教会(当時は国際勝共連合という名前でした)といった新興宗教は、部活の勧誘に混じり、巧みに(強引に)学生を口説いていました。
オリエンテーション期間中、私もそれらにつきまとわれたことがありましたが、張りピンを喰らわせて難を逃れました。当時(の社会的雰囲気・風潮)は、強引・巧妙な宗教の勧誘に甘かったし、それに対して個人が自分なりのやり方で抵抗することにも寛容だったのです。
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高校時代は水泳部でしたので、大学では何か他の運動をやりたいと思っていた私は、その頃、関東ではほとんど誰も知らない武道とはいえ「空手や少林寺と違い、寸止めではなく思いっきりぶん殴れる。」という言葉に惹かれました。そして、キャンパスで勧誘されて部室へ行き、胴着に着替え体験練習をして、翌日も・・・という流れになりました。
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そんな単純なきっかけで、1976年4月に日本拳法部へ入部し、家庭の事情でその年の9月一杯をもって休学(退部)した私は、翌年の4月、再び大学へ戻りました。
そして、練習が終わる14時半頃、クラブへ復帰することなど全く考えず、挨拶だけするために部室へ顔を出したのです。
半年ぶりに同期たちと会い旧交を懐かしんでいると、奥で主将の生川(なるかわ・三重県)先輩が、財務の下田先輩(群馬県)に、なにやら耳打ちをしています。
数分後、素早く道着から学ランに着替えた下田先輩に私だけが連れ出され、なんとタクシー! で巣鴨駅前へ行き、飲み屋で遅めの昼ご飯というか、早めの夕食をごちそうになりました。
さすが財務担当、ビールに酒、刺身の盛り合わせに肉や惣菜と、なんでも飲み放題・食べ放題の大盤振る舞い。
そして17時半頃、腹いっぱい、すっかりいい気分になった私は、ハワイという名のピンサロ(キャバレー)へ連れて行かれました。ミニスカートのピチピチギャルたちのお化粧や香水の匂いが充満し、景気のいい音楽が鳴り響くほぼ真っ暗な店内は、若い男性の心をウキウキさせてくれる、まさに「大人のディズニーランド」。
大卒初任給が手取りで10万円前後の当時、食事とピンサロで1万円強の接待は効果抜群、翌日からさっそく練習に復帰した私は同期からずいぶんと羨ましがられましたが、仲間が増えたので、みな喜んでくれました。(しばらくのあいだ、ピンサロでお相手をしてくれた女の子の源氏名が私のニックネームとなりました)。
どんな人間でも、食い気と色気には弱いもの。私のような脳足りんには、創価学会や統一教会の訳のわからない政治や宗教の話なんかよりも、こちらの方がずっと効き目があった、ということです。
現在、各大学とも、キャンパスで勧誘して練習を見学してもらい、その後にお食事会という流れが、一般的な勧誘スタイルのようですが、これは人間心理に適っているわけです。
すなわち、キャンパスにおいて口頭で説明し、道場で実際に体験してもらい、日本拳法についての理解が深まったところで、夕方からお食事会で心の交流をして、絆を深める。
頭で理解(知性)・身体で体験(理性)・心で仲良くなる(感性)、というスタイルは、ビジネスにおいても同じです。
会議室や応接室でのスライドやOHPを使用したプレゼンテーションによって、先ず頭で商品を理解してもらい、デモンストレーションによって実際に体験してもらう。そして、夜は接待で心の交流を図る。(私が扱っていたIC設計装置やテスト装置の場合、お客さんの実データを使って実際にテストする「ベンチマークテスト」という実証実験もありました。)
その意味で、大学における新入生勧誘というのは、社会人(ビジネスマン)になってから役に立つ、善き体験といえるでしょう。大学のゼミ同様、積極的にこの機会を(学業修行の一つとして)活用するといいかもしれません。
2024年4月30日
V.1.1
平栗雅人
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