第13話 No.00 pc
鏡の泉の底に大切にしまってある
あれが必要だ。
ゼロ先生は“この時”と対話していたのか…
遠い昔の、
あの星に住んでいた頃の
自分の記憶が蘇る。
ゼロ先生は、先の時と対話できる
そんな人だった。
当時あらゆる声や想いの嵐に
全身を打たれ続け
ボロボロになっていく僕に
傘の差し方を教えてくれた。
僕は存在するあらゆるものの声に
溺れる者だった。
生きてるもの、もう魂だけのもの、花や空気や星や波、空気に存在する粒子、あらゆるものの
意思や想い、感情、そういったものに
生まれた時から溺れ続け、声を選別できず、
対話する者になれない、それが僕だった。
ゼロ先生は遠い先との対話で
僕の存在を知っていて
『遅くなってしまった…
ごめんよ、ごめんよ、』
とボロ切れのようになった魂の僕を
見つけ出してくれた。
見えないようにすること、
聞こえないようにすることはできないけれど、
傘をさすことはできるんだよ、と
来る日も来る日も教えてくれた。
そんなゼロ先生が
ある日僕に手渡してくれたものがあった。
“これが必要になると未来が教えてくれた。
私は完璧な対話者ではないから、
全部を知ることができないけれど、
これを、未来の君が使う日がくると。
大切にその日まで。
なくしてはいけないよ。”
それは
この世界からは消えてしまった“時計草”という
花の記憶が詰まった2つの結晶だった。
ゼロ先生の奥様が好きだった花で、
種も残らなかったけれど、
何かを残したいとゼロ先生が“時計草”の想いを結晶化したものだ。
ゼロ先生の大切なものだと知っていた。
『ごめんよ、
君をずっと守ってあげたいんだけれど、
ほら、もうおじいちゃんだからね。
少し先にいかないと行けないんだ。
だから、
もらえないなんて思わず、どうか
お守りだと思って持っていておくれ。
そして、その時が来たら、迷わずに使うんだ。
私が君にできることなんて
初めから何もないんだけれど、
それでも不思議だね。
人生とか、運命とか。
私たちにはどうにもできないけれど、
私はそういうもののおかげで妻や君と出会えて生き切ることができるのだから、
なんだか身勝手極まりないその運命たちが
愛おしくなってしまうよ。』
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2つの時計草の結晶は
この星を創り、移ってきてから僕に言った。
“その日まで、私たちに鏡をまとわせ眠らせて”
自分の対話の力を使い、
星に存在するすべての声に協力を仰ぎ
鏡の泉を作ってその泉の底に眠らせた。
さて、問題は
鏡の泉が、素直に時計草のカケラを
取りに行かせてくれるかだな。
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