第12話 op.7:30




風にあたろう。


と、ノワさんが連れ出してくれたお庭で

ノワさんは私に

『自分のせいだと、思わないでやってほしい』

そう、話しかけてくれた。


私の話したなにかのせいで

みんなが泣いていたことは確かなのに

どうしてそんな事を言ってもらえるのか

すぐにはわからなかった。


『大抵のことは

神様のせいにしてしまえばいい』


ノワさんはそう、意外な事を教えてくれた。




神様、知っている。

人が神様と呼ばれている世界もあったし、

もういない神様を

毎日想い続けている世界もあった。

私の世界の神様がどんな姿や、

どんな神様かは知らないけれど、

神様は、人の心の支えになったり、

コンパスになったり、時には争いになる

そういうもの。


『神様、この星にもいるんですか?』


『もちろん』


『私は自分の世界の神様を知らないんです。』


ノワさんは意外だ、というような顔をした後

ふわっと優しく目を閉じながら

『そんなわけ、きっとないよ』

と、私を木陰に降ろして、話してくれた。




『神様は人によって違う形をしているんだ。

だから、

本当は知ってても

それが自分の神様だとは

気付けないことがある。』


それから、静かにそよそよと頬を撫でてくれる風のようにノワさんは続けた。




神様はね、僕らの手には負えない

信じられないような偶然を重ねる

現象のことなんだよ。

宇宙が生まれる偶然の連続、

水が、光が、空気が

命が生まれる偶然の連続、

そういう、誰の手にも負えない、誰の思惑通りにもならない、そういう現象が

神様の正体なんだと思う。


だから、神様は何にでも宿ってる。

その自然が起こした奇跡のような偶然の重なりから、この世の全てがあるから。


だから、誰かにとってはそれは

遠い昔の偉人だったり、天体の不思議だったり、王様だったり、

小さな万年筆が神様の人もいれば

隣で座ってる君が神様の人もいる。

もっともっと目に見えない神様もいる。

ラテにとってはそれは香りかもしれない。

モカは音かもしれない。

クレムは尊敬という概念かもしれない。

ここにいる住人との縁や、

もっというと、

朝目覚めて、夜眠る事かもしれない。


あらゆる物や事象、人、心、

神様が起こした偶然から生まれたもので世界は溢れているからね。


そんな、巨大なものが

僕らの手に負えるわけないでしょう?


人、1人の中に脳という宇宙が広がってる。

人、1人ですら手に負えないってことだ。

自分の宇宙を把握する事も

自分の中の深海を知り尽くす事も

できない。

それが僕らだ。


だから、

良いんだ。

わからないことは

恥ずかしくない。

みんな神様が起こしている事なんだから。


ただ、感じる事をやめさえしなければ

いつか答えが巡ってくる日も、

自分で辿り着ける日もやってくる。


ショコラはあいつらが

泣くのを見て、


それが君のせいではなく、

神様のせいだとしたら、

何を感じる?

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自分のせいで苦しめていると

そう思っていたさっきまでは

自分なんていなければ、

みんなは泣かなかったのにと

そんな事を思ってしまったけれど、


あの涙が、神様のような、

そんな人の心から生まれた涙だとしたら、


みんなの心がとても、

『暖かくて、柔らかくて、』


『うん。』

耳をそっと傾けてくれるノワさん。


『優しくて、守りたい。


それから、


次は沢山笑ってほしい。』


なんだか、とても簡単なそんな言葉でしか

答えられなかったけれど


でもハッとした。

『戻って、みんなのことを

ぎゅっとしてきたいです。』


やり方は知ってる。

クレムさんやノワさんが

私をぎゅっとしてくれるから。

ラテさんやモカさんもいろんな方法で

いつだってぎゅっとしてくれるから。



するとノワさんは

お花がふわーっと咲いたみたいな笑顔で


『戻ろう。』

とまた私を抱き抱えようと手を伸ばしてくれた。


私はノワさんのお顔をぎゅっと抱きしめた。


『帰りは、

一緒に歩いて

みんなのところへ戻ります。』


ノワさんと一緒に

みんなのところへ続く道を

歩いた、そんな日だった。


あの、

ありがとうございます。


となんだか不器用になってしまった

ありがとうを伝えると


ノワさんは

『綺麗な魂が泣いて、

綺麗な魂が笑って、

僕も、自分の神様を

ショコラとみんなのおかげで

少し取り戻した気がする。

えと、ありがとう!』


と手をぎゅっと繋ぎ返してくれたのでした。

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