2章 移る七尋の怪
第12話 被害者 内間 が見たもの
【PM 11:17】
布団でスマホを弄っていた内間は、ふと顔を窓の方に向けた。
(視線を感じる……)
不安になった彼女は、頭を振って悪い考えを霧散させた。
窓にはカーテンがかかっている。それにこの時間だ、出歩いている人は少ないだろう。視線など感じるはずがない。内間は自分にそう言い聞かせて電気を消した。
(前の所であんなことがあったから、神経質になってるのかも……)
【AM 2:30】
ギギギギガリガリガリガリ
(何?)
部屋中に響く不快な音に、内間は意識を浮上させた。まだ半分夢の中にいた彼女は窓の方に目を向けて、完全に目を覚ました。
指だ。内間の手のひら程もある指が五本、窓を引っ掻いていた。
彼女は恐怖のあまり息を殺し、視線だけをその巨大な指から肩の方へと這わせ——後悔した。
そこには、六畳間の半分を占めるほど大きな人影があった。上半身は異様に大きく、窓に張り付くようにして一心不乱に引っ掻いていた。反対に下半身は枝のように細く、その人影が人間じゃないことは明らかだった。
(あの着物の柄って……。嘘でしょ……どうしてここにいるの?)
動揺した内間が唾を飲み込んだ瞬間、人影がピタリと動きを止めた。首だけをぐるりと内間の方へ向けた人影は、血走った目を彼女に向けて口を動かした。
(なに……何て言ってるの? 私を呪い殺そうとしているの!?)
内間は震え、目の前の怪異を視界に入れる事を拒んだ。しかし目を強く瞑っても、窓を引っ掻く音は止まず、むしろ先程よりも強くなった。
(やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて——やめてよ! 私が何したっていうのよ!)
震えながら涙を流すうちに気を失い、目を覚ますとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
おそるおそる窓へ視線を向けると、夜中に見た怪異は消えていた。
(夢?)
内間は布団から這い出してカーテンを開けた。
「な、に……これ」
窓ガラスには抉られたような傷がいくつも付けられていた。
掴んでいたカーテンに違和感を覚え、目を向けた彼女は悲鳴と共にカーテンを放した。
カーテンは原型を留めていたものの、鋭利な刃物で裂かれたような跡が何か所もあり、内間の物ではない長い髪がべったりと束のようになって貼り付いていた。
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