第11話 強化しすぎた……
「はい、これ」
試合が始まって二十分が経っていた。
その間に天宮さんが二回、アリスが四回、抱えきれなくなった魔石を置きに戻ってきた。
明らかにすでに勝敗が決してしまっている。
ここから天宮さんが四十分で盛り返すのは流石に厳しいはず。
俺はそう思って、ちょうど今戻ってきて、魔石を新城さんに手渡している天宮さんにスキルを使うことにした。
「【超級付与スキル:
ボソッと呟く。
ちゃんとスキルは発動し、天宮さんの身体能力を一時的に強化した。
スキルの持続時間は三十分。
時間的には少し足りないが、強化率というか、身体能力の上がり幅がとても高いスキルなので、問題はないだろう。
「──ッ!?」
天宮さんにスキルがかかった瞬間、驚き目を見開き俺の方を見てくる。
しかしそれも一瞬で、すぐに平静を装うとクルリと反転して新城さんに言った。
「それじゃあ手渡したから。また行ってくる」
「気をつけて行ってくるんだぞ~」
新城さんのその言葉を背中に浴びた天宮さんは、軽く地面を蹴り上げて──。
ドゴンッ!!!
地面が抉れ、慣性を無視したような急加速で吹っ飛んでいった。
「…………は?」
その背後にいた新城さんがポカンとした表情で言葉にならない声を溢す。
……あっ、やっちまった?
どうやら付与スキルがかかりすぎたみたいで、俺は一気に背中に冷や汗をかいた。
チラリと【アルカイア】の他二人の様子も確認してみるが……。
「えっ、なに今の!? すごいすごい! 急に澪が強くなった!」
「…………むむ」
無邪気にはしゃぐエリザさんと訝しげにこちらを見てくる桜井さん。
やっぱり桜井さんには勘付かれるよなぁ……。
マズったかもしれない。
どうやって誤魔化すか……。
急激に胃が痛くなってくるが、俺はそれすらも感じさせないほどの真顔を貫いて、何にも気がつかなかったフリをする。
しかし桜井さんはスススッと俺の方に近づいてきて、耳打ちしてくる。
「ねえ、今澪に何かしたでしょ?」
ブワッ!
聞かれた途端、あり得ない量の冷や汗が噴き出てくる。
鳥肌もゾワゾワっと立つ。
決して桜井さんの吐息が耳に直接かかったからではない。
くっ……泳ぐな、俺の視線ッ!
引き攣るな、俺の頬ッ!
震えるな、俺の声ッ!
必死に取り繕うんだ!
自分にそう言い聞かせながら、俺は努めて冷静を装ってこう返した。
「え……? 何をですか?」
「んー、何をって、確かになんだろう……? 付与スキルなら強すぎるしなぁ……。かと言って私の知ってるスキルには身体強化系なんてないしなぁ……」
俺がキョトンと尋ねる演技を必死にすると、桜井さんは勝手に思考の渦に飲まれていった。
なんかよく分からないけど助かったのか……?
俺がそう思って気を抜いた瞬間。
「って、そんなことはどうでもいいの。何かしたかだけ、私に教えて欲しいだけなの」
再び唇を耳元に寄せてきて、そう囁かれる。
ゾワゾワゾワッ!
まっ、マズい!
桜井さんが冷静になってしまった!
俺はなんとか動揺を悟られないように無理やり誤魔化そうとする。
「だから、何かってなんですか?」
「澪に何かしたでしょ?」
「いや、だから何かって……」
「何かなんて、そんなの分からないわ。でも何かをしたのは分かってるの」
し、仕方ない。
ここは黙秘権を……。
そう思い、俺はダンマリを決め込む。
しばらく桜井さんはジッとこちらを見てきたが、俺の絶対に話さないという意思が強いのを感じ取ったのか、悲しそうにポツリと言った。
「はあ……教えてくれたら、私の身体を好きにしてもいいって思ってたのになぁ……」
「えっ!? …………はっ!?」
俺は思わず反応してしまい、桜井さんの方を見るが、彼女はいたずらそうに微笑んでいただけだった。
天宮さんの時と違って、これは絶対に騙されただけだ!
桜井さんは訳知り顔でニマニマこちらを見てくると、強引に目の前に顔を近づけてきて視線を合わせて言った。
「ふぅん。やっぱり何かはしたんだ。反応したってことはそういうことだよね?」
「…………」
「ふふっ、黙ってても無駄だからね? 絶対に証拠を探ってみせるから」
それだけ言うと、彼女はクルリと反転して新城さんとエリザさんの方に歩いていった。
エリザさんは先ほどの天宮さんの力についてテンション高めに新城さんに自分の考察を話していた。
「やっぱり澪は【神の子】だったんだよ! ついに秘められた力が目覚めたんだって!」
「エリザ、そんな【神の子】なんて都市伝説、まだ信じてたの?」
「もちろん! あんなロマン溢れる設定、信じない方が損じゃん!」
……【神の子】?
なんだ、それ。
ネット見られないからよく分からないけど、最近流行りの都市伝説の類だろうか?
まあ俺には関係ないか。
「って、穂波! 穂波もそう思うよね!?」
「んー、私は違うと思うけどなぁ」
エリザさんに尋ねられた桜井さんはそう言って、再びチラリと意味深な視線をこちらに向けてきたが、俺は我関せずという表情でそっぽを向くのだった。
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