体育祭編(1)

「ん~。」

冷房が効いていてすこし肌寒く感じながら起きる。すると寝るときにかけているブランケットが引っ張られた。

「寒い.....」

隣で寝ている紗雪ちゃんはそうつぶやくとさらに強い力でブランケットを引っ張った。時計はまだ起きなくてもいい時間を指していたので紗雪ちゃんにブランケットをかけなおして冷房の電源を切ってから寝室を出る。今日から学校が再開するのでお弁当の準備に取り掛かった。紗雪ちゃんは甘いものが好きなので卵焼きも砂糖多めにする。お弁当用の小さいハンバーグや野菜とお弁当箱に詰める。ご飯はタイマーで炊いたのでまだ用意出来ない。朝ご飯用にお味噌汁を作りながら鮭を焼いていたら紗雪ちゃんが起きてきた。

「おはよう。」

「おはよ。」

「何してるの?」

「お弁当と朝ご飯作ってるとこ。」

「手伝う。」

紗雪ちゃんに鮭を焼いてもらっている間に炊けたご飯をしゃもじを使ってほぐす。お弁当にご飯を詰めてからお茶碗にも盛る。

「これくらいでいい?」

紗雪ちゃんにご飯を見せる。

「少し多いかも。」

「りょーかい。」

少しご飯を減らして私も食べる量だけとる。ちょうど鮭も焼き終えたのでお味噌汁をよそってテーブルに並べる。

最後にゆで卵とサラダを盛り付けて食べる。

「「いただきます。」」

手を合わせて食べ始める。

「あ、お味噌汁の濃さ大丈夫?いつもの感じで作っちゃったけど。」

「ちょうどよくて美味しい。」

「よかった。」


食べ終えて片付けようとすると紗雪ちゃんが「お弁当と朝ご飯作ってもらったから私がやる。」と言ってくれたので私は学校に行く準備をする。洗面台に行って顔を洗ってから髪を整える。いつもの髪型にして夏祭りでのお気に入りのヘアピンを付けて完成だ。

「洗面台空いたよ。」

リビングにいる紗雪ちゃんに声をかけてから自分の部屋に戻る。昨日のうちに準備はしていたが一応確認をしておく。ペンケースに夏休みの課題だけなので忘れようがないが。

制服に着替えてリビングでテレビを見ながら紗雪ちゃんを待つ。天気予報の番組を見てると今週は全部晴れのようでまだまだ30度越えの日々が続きそうだ。

「お待たせ。準備できたわ。」

「じゃあ行こっか。」

テレビを消してライトがついていないか確認してから外に出る。朝なのでまだ涼しいほうだ。鍵を閉めてエレベーターに乗る。途中でスーツ姿の人やランドセルを背負った小学生が乗ってきた。

一階のエントランスに着くと冷房が効いていてここから出たくなくなる。少し涼んでいると、

「あ、唯ちゃん行ってらっしゃい。」

店番をしていた森崎さんが話しかけてきた。

「あ、行ってきます。」

ぺこりと頭を下げると手を振ってくれた。


「暑い~」

「そうね。」

何とか学校までたどり着いた私たちは職員室に向かっていた。

「失礼しまーす。1組の瀬名です。教室の鍵を取りに来ました。」

定型文を職員室の扉を開けながら言い教室の鍵を取る。

「なんで誰も来てないんだよー。」

「まだ始業まで50分もあるから。」

この学校では一番早く学校に来た人がそのクラスの鍵を開けるというルールで、今日は珍しく一番早かったので鍵を取りに来た。教室まで行って開いていなかった時の絶望感はすごかった。

鍵を回してドアを開けるとひんやりした空気が流れてきた。

「冷房がついててよかった。」

「そうね。」

今日は冷房がついていたが先生によって冷房をつけてくれる時間が違うので早く行き過ぎるのもよくない。

自分の席に着いて荷物を机の中やロッカーに入れていると教室のドアが開き担任の先生が来た。

「先生おはようございます。」

「おはようございます。」

「早いですね、瀬名さん、九条さん。」

「あ、先生に出さないといけないものがあったんだった。」

「何ですか?」

「紗雪ちゃんもでしょ。」

「あれね。」

紗雪ちゃんを待ってから先生に紙を一枚出した。

「あらこれは....引っ越したのですね。わかりました。」

「まあ事情があって。」

「そこは深くは聞きませんよ。何かあっても次の三者面談でしょうか。」

「ありがとうございます。それで先生こんな早くに何を?」

「ああ、黒板に貼りたい紙がいくつかあるんです。手伝ってもらえませんか?」

「わかりました。」

先生から渡された大きな紙を黒板に貼る。

「これは...体育祭ですか?」

「そうです。今日は種目を決めたり、紅白対抗戦なので色を決めたりするのですよ。」

「楽しみ~。」

「瀬名さんも九条さんも運動神経いいですからね。九条さんはどうですか?」

「暑いので.....」

「ふふ、でも本番まで一か月あるので気温は少しは下がると思いますよ。」

「どうですかね....」

紗雪ちゃんは体育祭があまり好きではないようだ。

「二人とも手伝ってくれてありがとう。また朝の会で。」

先生はそう言って教室を出て行った。



全校集会や学校集会などの面倒午前中を終えてお昼の時間になった。今日は美玖ちゃんがお弁当を持ってこなかったので食堂で食べる。

「いただきまーす。」

美玖ちゃんが買ってくるのを待ってから食べ始める。今日のおかずはうまく作れた。おいしい。いつもは卵焼きを甘くしないので少し新鮮なお弁当だった。


お昼休みが終わり、ついに体育祭のことについていろいろ決める時間になった。先生が教壇に立って説明を始めた。

「来月の最初の日曜日に体育祭があります。今日はその体育祭についての説明と出場する種目決めを行いたいです。体育祭は紅白の二色に別れて得点を競う形式で、このクラスは白組なので後で白の鉢巻きを渡しますね。あとは種目なんですけど―」

種目は一人最低二種目は出場することと体力テストでの50m走の男女それぞれ上位二名は学年対抗リレーに出なければならないらしい。


種目決めは先生とバトンタッチして学級委員が取り仕切ることになった。

「まずは学年対抗リレーに出る人の名前を書きたいから手を挙げてください。」

「誰だっけ?」

「忘れたわ。体育委員記録用紙持ってない?」

「体育の先生に出しちゃったよ。」

「じゃあ一人ずつ自分の記録言う?」

「めんどくねー。」

教室が騒がしくなった。学級委員もどうしようか決めあぐねてる。

すると教室のドアが開いて身長が190はある大きな男性が入ってきた。確か男子の体育の先生だった気がする。

「失礼します。このクラスの体力テストの記録表です。種目決めに使ってください。」

「わざわざありがとうございます。」

「いえ。では別のクラスにもいかなければなので失礼します。」

体育の先生がドアを閉めて出て行った。

「はいじゃあみんな席に戻って。」

学級委員が声を少し大きくして席に座らせる。

「えーっとじゃあ男女上位二名は...男子は田中たなかくんと池田いけだくん。女子は九条さんと瀬名さんだね。この4人で良いかな。」

「頑張れよ田中!」

「瀬名さん頑張って。」

「九条さん運動もできるのかよ......」

少しクラスが盛り上がった。紗雪ちゃんを見ると絶望の顔をしていた。やりたくないんだろうな。

そのあとは種目決めは多少難航しながら進み私は学年対抗リレーとクラス対抗リレーと100m走に出ることになった。なんか走ってばっかりだな。なんて思っていると学年対抗リレーに出る人に会議室に来るようにと召集がかかったので紗雪ちゃんと向かう。

「まさかリレーに出るなんてねー。」

「運動部はもっと頑張りなさいよ。まあこれ以外は借り物競争しか出ないから仕方なく走るわ。」

「あはは。」

不満を募らせて会議室に行くとすでに人が大勢集まっていた。やはり運動部が多いようで鍛えられた人が多かった。クラスで固まって座っていると紗雪ちゃんが私の知らない人に話しかけられていた。

「――って本当なの?」

「あなた―関係ある―しら?どこから聞い―ど。」

会議室がわいわい騒がしいせいで話の内容は聞こえないが紗雪ちゃんの声質は紗雪ちゃんと出合った頃の少し冷たい感じだった。

「―聞いただけ。」

そこだけ聞き取れたが紗雪ちゃんに話かけに来た人は人ごみに紛れてどこかに行ってしまった。

「知り合い?」

「いいや。知らないわ。」

「そうなんだ。」

「別に面白い話は何もないわ。」

「そっか。」

「皆さん静粛に!!!」

騒がしい会議室の中でよくとおる声が響いた。みんなの視線が前に立っている人へ集まる。

「こんにちは体育祭実行委員です。今から学年ごとに別れてもらって走る順番を決めて紙に書いて提出してください。それが終わり次第解散です。」

「三年こっち来てー!」

「二年はこっち―!」

大きな声が会議室で飛び交う。

「一年生ー!」

一年を呼ぶ声がしたので声のする方に移動する。

「一年でーす。」

「何組?」

「一組です。」

「了解。これで全クラス集まった。じゃあ皆!順番決めるよ。」

「どうやって決める?」

「とりあえず最初と最後の3人に早い人を置きたい。」

「じゃあそこは男子?」

「そうだね。とりあえずそこを決めちゃうか。」

どんどん話が進んでいき最初と最後が決まった。池田君はアンカーになった。足早いんだ。

「真ん中は?」

「好きなように書いて。」

紙が机に置かれたのでみんなが考えてる間に序盤の方に名前を書く。私の後ろに紗雪ちゃんが名前を書いた。

「紗雪ちゃんに全部丸投げするから全部抜かしてね。」

「私たちそこまで変わらないじゃない。」

「でも紗雪ちゃんの方が早かった気がするけど。」

書いた人は帰っていいと言われたので教室に戻る。すると何人かの女子に囲まれた。

「瀬名さんってクラス対抗リレーで走りたい順番ってある?」

「ないけど....」

「じゃあ女子のラストでいい?」

「いいよ。」

「よかった!」

「ありがと!」

「私たちには荷が重いもんね。」

そういってクラス対抗リレーの面々は去って行った。

「唯、貴方どれだけ走るの?」

「リレー二個と100m走。」

「あなた本当は化け物なんじゃない?」

「え、ひど。」

なぜか紗雪ちゃんから化け物扱いされた。ここから一か月は体育の授業が体育祭練習になるので大変になる。少し不安だが楽しみになってきた。


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