旅行編(終)

朝起きてカーテンを開けるとまばゆい朝日とともに大きな海が視界に入る。穏やかな海は波一つなく太陽の光を反射している。後ろで毛布が擦れる音がしたのでベッドの方を振り向くと紗雪ちゃんが体を起こしていた。

「おはよ!」

「おはよう。」

紗雪ちゃんはまだ眠そうに目をこすっているのでその間にコップとお茶を冷蔵庫から取って来て窓側に置いてある椅子に座って飲む。外はまだ朝だと言うのに太陽がギラギラと輝いていて暑そうだ。お茶を飲んで優雅な朝を満喫していると私の横の椅子に紗雪ちゃんが座った。

「飲む?」

「もらおうかしら。」

紗雪ちゃん用にコップをもう一つ持ってきていたのでそれにそそぐ。紗雪ちゃんはそれを一気飲みしてしまった。

「朝から冷たいもの一気飲みするとお腹壊すよ?」

「大丈夫よ。」

朝日を眺めながらぼーっとしていると紗雪ちゃんが一度立ち上がり荷物から本を持ってきた。しばらく特に言葉も交わさずにいると私のお腹から音が鳴った。

「お腹すいたー。」

「そうね。何か頼みましょうか。」

部屋に置かれた電話機で朝ご飯を頼んだ。トーストやクロワッサンなどの4種類のパンが食べれるものに決めた。紗雪ちゃんに聞くと同じもので良いと言っていたので2セット注文した。

しばらく海を眺めたり本を読んでいる紗雪ちゃんにちょっかいをかけたりしていたら部屋がノックされた。ドアを開けると映画さながらの銀色のワゴンがスタッフの横にあってそこから料理を出してテーブルまで運んでくれた。

「皆様がお出かけになられたタイミングで清掃に参りますのでお皿はそのまま置いておいていただいても構いません。」

そうスタッフは言って下がっていった。

「おいしそー!」

改めてテーブルに並べられたパンを見るとどれも焼き立てでおいしそうだった。パンと一緒に置かれたジュースをコップに注いでからパンを食べた。「サクッ」という焼き立てのパンならではの音を立てながら食べ進む。ジュースも飲んでみると柑橘系の味がして美味しかった。特に美味しかったのはコーンスープで冷たいスープで飲みやすく味は濃厚でとても美味しかった。

「美味しかったね。」

「そうね。」

最後にもう一度ジュースを飲んで朝食を終えた。もう北海道についているので先生に会ってから北海道に降り立つ予定だ。沙雪ちゃんとお揃いの服に着替えて外に出る準備をしてから部屋から出た。出入口に行くと先生が椅子に座っていた。

「おはようございまーす。」

「おはよう。体調は悪くないか?」

「「はい。」」

「よし。じゃあ行ってらっしゃい。18時までには戻ってこいよ。」

17時にアラームをセットして船から降りた。およそ一日ぶりの地上でふわふわした感覚がある。

「ふわふわするー。」

「そう?私は大丈夫だけど。」

「なんか地に足がついてない感じ。」

しっかり歩けている気がしないがとりあえず外に出る。

「いい天気ー。」

船の外から見えてはいたが快晴でいい旅行日和だ。カラッとしてるがやはり北海道だけあって快適な気温だ。それでも暑さは感じるので帽子を被る。

「暑い....」

30°Cいかでも沙雪ちゃんには暑いようなので早めにバスに乗って移動することにした。

まず最初に向かったのは公園だ。公園と言っても遊具があるような公園ではなく自然公園だ。とっても大きくて遊歩道の先が霞んで見える。

「ここは涼しいわね。」

沙雪ちゃんも元気を取り戻したので歩いて見ることにする。見たことがない植物や鳥などがいて面白い。しばらく歩くと展望台があったので入ってみることにする。

入場料を払ってエレベーターで昇る。エレベーターは外が見えるタイプで少し怖かった。上に到着すると何人か先客はいたものの空いていたので外を眺める。

「ひろ。」

思わずそんな声がでる。北海道が広いのは知っていたが実際見るとその大きさがとんでもない事に気づく。かなり高さのある展望台だがそれでもこの公園だけしか見ることができない。

一通り公園を楽しんだ後ついに海鮮を食べに向かうことにした。事前に調べておいたお寿司屋さんに入り、そのお店のおすすめのお寿司を注文した。どれもネタが大きくて新鮮で味も美味しかった。最近海鮮食べ過ぎて飽きて来た気がしていたがそれを吹き飛ばすほど美味しかった。

その後マリモを見に行ったり、北海道スイーツを食べたりして船に戻った。お風呂に入って旅の疲れを癒してから今日は映画をきなこちゃん達に誘われたので見に行くことにした。野外スクリーンで見れるらしくて少し楽しみだ。

待ち合わせの場所で待っているときなこちゃん達がきた。

「おまたせー。」

「ううん。はやくいこー。」

「そうだね。着替えなきゃだし。」

「着替え?」

なんで着替えが必要か分からなかったがきなこちゃんについていくと理由がわかった。

「プール?」

「そ、プールに入りながら映画が見れるらしいよ。」

プールはライトで飾り付けされていてオシャレな雰囲気が醸し出されている。水着に着替えてプールに入ると映画の上映が始まった。最初は水に浸かっていることで違和感があって集中して映画が見れなかったけど徐々に慣れて水に浮いたりして楽な姿勢で映画を見れるようになった。体を冷やしすぎないようにたまにプールから出ながら映画を楽しんだ。


映画を見終わってからもう一度お風呂に入りに行くことにした。きなこちゃん達は疲れたらしくシャワーだけ浴びて明日の朝また入るらしい。せっかくなのでこの船の大浴場に入ることにした。他に人がいないことを確認して入った。

「綺麗ね。」

「ね。」

このお風呂は陸の方に向いていたため夜景が見えた。展望台の光や住宅の光が見える。ついつい長風呂しそうになったが沙雪ちゃんが上がるタイミングでわたしもお風呂から上がることにした。

その後バーに入ったりして楽しんでから眠りに落ちた。


北海道に着いてから2日目も3日目も楽しみ尽くし、もう帰る頃になった。船はもう出発地の近くまでやってきている。きなこちゃんと美玖ちゃんが私たちの部屋に遊びに来ていた。

「もう終わりだってー。」

「一瞬だよー。」

「でも楽しかった!」

「次はもっと長居したいわ。」

「紗雪ちゃんは快適そうだったよねー。」

「ええ。こっちは暑すぎるわ。」

沙雪ちゃんは少し嫌そうな顔をしていた。

「夏休みもあと一週間か。」

こんな濃厚な夏休みを過ごしたのは初めてで疲れたけど楽しかった。

「でも夏休み明けは体育祭があるよ!」

「美玖ちゃんは運動できるもんねー。」

「きなこだって足速いじゃない。」

「2種目以上出なきゃじゃん。何にしようかな。」

「体育祭が終わったら文化祭もあるでしょ?」

「1年生は飾り付けだけどね。2、3年生が販売とかするらしいよ。」

「そうなんだ!楽しみ!」


「ピコン」

全員のスマホから通知が鳴った。差出人は先生だった。

『そろそろ着くからロビーに集合するように。忘れ物のチェックを忘れずにしてくれ。』


「きなこちゃん達荷物まとめてある?」

「うん。まとめてドア前に置いてある。」

「そろそろ行こっか。」

壁に立てかけてたキャリーケースのとってを掴んで引きながらロビーへと向かう。

廊下にガラガラとキャリーケースの音が響いて寂しくなる。

ロビーに着くと他の生徒も既に集まっていた。旅中なかなか会わなかったけどお土産を山ほど抱えてる人や何故か木刀を持ってる人もいた。

「よし、全員集まったな。船を降りたらバスが止まってるからそれに乗り込んでくれ。」

先生の指示に従って船から降りていく。スタッフにお礼を言いながら降りると北海道とは違うすこしジメッとした暑さだった。

「やっぱこっちは暑いね。」

「北海道に戻りたいわ。」

「またいつか行こ。」

バスの下の荷物置きにキャリーケースを入れてバスに乗る。バスに乗ってスマホで旅の写真を眺めていたらすぐに学校に着いた。

「これで成績優秀者の旅行は終わりだ。次のテストも旅行とは限らないが成績を是非キープできるように頑張ってくれたまえ。では解散!あと1週間の夏休みを楽しんでくれ。」

キャリーケースを引きながら帰り道を歩く。

「楽しかったね。」

「そうね。涼しい場所ならまた行ってみたいわ。」

「ほんとに暑がりなんだから。でも夏休みが終わったら一気に秋だよ。」

「秋でも暑いわ。はやく冬にならないかしら。」

「じゃあね。沙雪ちゃん。また3日後。」

「ええ。じゃあ。」

家の前で紗雪ちゃんと別れてマンションに入る。1階のクリーニングに4日分の洋服を頼んでから家に帰った。















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